Gourmet
2020.11.18

酒の国高知。県内全ての市町村をビールで表現するブルワリーの挑戦

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「酒国・土佐」とも呼ばれるほどに、酒を飲み、酒を愛する高知県。

総務省の家計調査(2017年~2019年)によれば、高知県の外食における飲酒費の支出は全国第1位!
酒類の購入支出は全国第6位ですが、先の外食における飲食費の支出+酒類の購入支出の合計額でみると、またまた堂々の第1位。
高知県民は、家でも外でもたっぷりとお酒を楽しんでいるのです。

高知県民のお酒好きは、お酒にかける金額の高さだけでなく、高知県に脈々と根付く「酒文化」からも見てとることができます。

酒の国に根付く、酒文化

ここで高知県の伝統的なお酒に関する文化をいくつかご紹介していきましょう。

一度酒を入れたら、飲み干すまで下に置けない「可杯(べくはい)」

写真提供:高知市観光振興課

駒をまわし、軸が向いた人が、穴の開いたひょっとこ杯(指が離せないので下に置けない)や、長い鼻がついた天狗杯(鼻が邪魔で、これまた下に置けない)といった「可杯(べくはい)」に注いだ酒を飲み干す、伝統的なお座敷遊び。

江戸時代から伝わり、宴会が盛り上がると始まる「はし拳」

写真提供:高知市観光振興課

ふたりでじゃんけんをし、お互いの隠し持つはしの本数を当て合うゲーム。

高知県伝統の酒宴の遊びでありつつも、無形文化財的な民衆娯楽であり、「土佐はし拳全日本選手権大会」なるものも開催。大会は個人戦と団体戦があり、熱きバトルが毎年繰り広げられています。

高知の街のあちらこちらで大きな宴が開催、土佐の「おきゃく」

写真提供:土佐の「おきゃく」 事務局

「おきゃく」とは土佐弁で「宴会」のこと。

土佐の「おきゃく」とは、2005年から開催されているイベントで、期間中は商店街、電車、公園など街中のあらゆる場所が「おきゃく」会場となります。商店街にずらりとこたつが並び、七輪を囲みながら老若男女が酒を酌み交わす。そしてその脇ではよさこいが繰り広げられる……など街中が酒を中心に大盛り上がりする光景は圧巻です!

写真提供:土佐の「おきゃく」 事務局

他にも並べたおちょこに菊の花を隠し、菊の花が当たった人が酒を飲む遊びがあったり、酒飲みをあたたかく見守る「べろべろの神様」がいたりと、とにかく酒に対する情熱が高めな高知県。酒を皆で心から楽しみ、酒にまつわる文化を大切にする姿勢がひしひしと伝わってきます。

高知の34市町村をクラフトビールで表現

そんな「酒の国」高知県でいま、小さなクラフトビールブルワリーが大きな挑戦をしようとしています。

その名は「旅するTOSACO」

高知県にある34の市町村それぞれの「地のもの」を使い、34種類のクラフトビールを造ってみよう、そして高知の様々な場所を知り、旅したような気分になってもらおう、というプロジェクトです。「地のものを使ったクラフトビールで町おこし」という話は珍しくはありませんが、県内すべての市町村に焦点をあて、ビールを通じてその魅力を知ってもらおうという話は他に聞いたことがありません! クラフトビールは1本のレシピを造り上げるのに、構想から1年以上かかるケースもしばしば。そう考えると34市町村のビールを造っていくということが、どれだけ壮大なプロジェクトかおわかりいただけるかと思います。

現在発売されているビールは全部で4種類。

日高村フルーツトマトエール(日高村)
四万十ぶしゅかんエール(四万十町)
赤しそサワーエール(本山町)
かやの森ヘイジーエール(香美市)

各ビールはそれぞれの土地の人たちと連携しながら造り上げているといいます。訪問や取材、コミュニケーションを重ねることで土地を知り、その地域の生産物をじっくりと味わう。その上でどうやったら魅力を最大限に引き出せるかを考え抜き、ビアスタイルを決定していく。地域と真剣に向き合うことで「旅する TOSACO」は生まれているのです。

だからでしょうか。どのビールもひと口味わえばその土地の持つ「滋味」や「あたたかさ」のようなものをずっしりと口いっぱいに感じることができます。

「高知にビールの種を撒く」高知だからこそのビールを造る

このプロジェクトを進めているのは、高知カンパーニュブルワリー。

「高知にビールの種を撒く」というキャッチフレーズの元、高知の様々な食材を副原料に使用し、高知の人々の想いと共に「TOSACO」というブランドのビールを造っているブルワリーです。
今回、代表兼ブルワーの瀬戸口さんに「旅する TOSACO」についてお話をお伺いしました。

—-なぜ「旅する TOSACO」をはじめようと思ったのですか?

瀬戸口さん:高知は素材がとても豊富で、引き出しがたくさんあります。広い県内、場所によって住んでいる人も、生産物も全然違う。同じ町内なのに川をはさんで北と南では文化が全く違う、なんてこともあります。

清流汗見川

僕は高知が地元ではなく、Iターンで高知に来ているので、それがすごく新鮮で興味深くて。個性的で魅力的なそれらの場所を、ビールで表現できたらいいなと思い、今回のプロジェクトをスタートしました。
一杯のビールを通じ、その土地の魅力や生産者に想いはせる。そしていつか実際に訪れてみたい、そう思ってもらえるようなビールを作っていきたいと考えています。

—-どのように各市町村と連携し、ビールを造り上げていくのですか?

瀬戸口さん:進め方としては2パターンあります。
1つは自分で「この農産物を使いたい」というものを見つけ、造り手に提案するパターン。もうひとつは、先方から「この農産物を使ってビールを造れないか」とご提案いただくパターンです。ありがたいことに、現在新聞記事の影響で「旅する TOSACO」の認知が広まり、様々な方からご提案いただけるケースが増えてきました。

—-連携する先はどういった方々なのでしょうか?

瀬戸口さん:先方は団体だったり、お土産物屋さんだったり、企業だったりと様々です。

左:瀬戸口さん 右:日高村の地域おこし協力隊のマサさん

共通しているのは「この農産物をもっと広めたい!」という熱い想いを持っているということ。高知県は人と人とのつながりが強く、面倒見のいい人が多い土地柄。人とのつながりの中で出会った方々との縁を大切に、出来上がったビールを大切にしてくれ、一緒に売ってくれる方々と連携をさせていただいています。

本山町にて、赤しその栽培や赤しそ抽出液づくりをされている皆さんとの一枚

—-使用する素材が決まった後、どのようにしてビールを生み出していくのでしょうか

瀬戸口さん:素材の大事にしなければいけない特徴はなにか、そして素材を一番生かすにはどうしたらいいのか。それを徹底的に考えます。例えば赤しそエール。もともと高知には赤しそ文化があり、塩漬けや佃煮など各家庭で親しまれているのですが、その中で「しそごこち」という有名な甘酸っぱいしそジュースがあります。

このジュースの味わいからもわかるように、赤しそを活かすために必要なのは酸味なんです。なので乳酸菌を使用し、酸味の強いサワーエールというビアスタイルにしました。また、赤しそのもっている美しい色合いを目でも楽しんでいただくため、たたっぷり3キロ分もの赤しそを使用し、本山町を流れる清流『汗見川』のように澄んだビールに仕上げています。

—-出来上がったビールは、noteでその土地のことや醸造にかける想いなどについて語っていらっしゃいますよね。ビールを飲んでその土地のことを舌で知り、取材文章を読んでその土地に旅したように詳しくなる。
各都道府県に焦点をあてた「旅する TOSACO」は最強の町おこしだと思うのですが、そういった意図はあったのでしょうか?

瀬戸口さん:ありがとうございます! でも正直なところ「町おこし」でビールを造るというのは当初の意図ではなくて。ただ単純に僕自身が高知が好きで、最初にもお話したように特徴的なそれぞれの土地をビールで表現したかったんです。新たなものを生み出すわくわく感というか……それが結果的に町おこしにつながっている、というお声はとても嬉しいです。

—-クラフトビールで各市町村にスポットライトをあてる。「酒の国」高知県ならではのプロジェクトだなと思いました!

瀬戸口さん;高知と言えば日本酒のイメージが強いかと思います。でも日本酒は原材料が固定されているので、そこに何かを追加して特色を出すことは難しい。
その点クラフトビールには「副原料」というものがあるので、かやの実やぶしゅかんなどを加え、それぞれの土地の特色を自由に表現できるという強みがあります。

あと、このプロジェクトはTOSACOが小規模醸造だからこそできることなのかなとも思っています。300リットル以上の発酵タンクで醸造するブルワリーが多い中、TOSACOでは150リットルのタンクで醸造しています。タンクが小さい分多品種展開できるのが強みで、だからこそいろいろな挑戦することができています。

現在完成している4つの地域の「旅する TOSACO」

それでは!改めて現在発売されている「旅する TOSACO」4種類のビールをご紹介していきたいと思います。

日高村フルーツトマトエール(日高村)

「フルーツトマトといったら日高村」といわれるくらい、屈指のフルーツトマトの生産地である日高村。

そんな村のトマトをふんだんに使用した「日高村フルーツトマトエール」は、飲んだ瞬間に、フレッシュなトマトの旨味が口いっぱいに広がります。

四万十ぶしゅかんエール(四万十町)

「ぶしゅかん」あまり聞きなれない果実ですが、四万十特産の「酢みかんの王様」!

特徴であるぶしゅかんのキレのある酸味を活かした、上品で軽快な味わいのビールです。

赤しそサワーエール(本山町)

本山町特産『赤しそ』をふんだんに使用し、本山町を流れる清流『汗見川』をイメージしたビール。

赤しその味わいを引き立てる、爽やかな酸味が心地よい1本です。

かやの森ヘイジーエール(香美市)

最高級の将棋盤などに使用されるかやの木。

しかし非常に生育が遅いため、いまや絶滅状態にあります。香美市では、かやの木を守るため植林をしており、そこで実を結んだかやの実を使用したビールです。木香感じるアロマと優しい味わいが印象的。

「旅する TOSACO」を飲んで、高知県に想いをはせる

—その土地の魅力や生産者に想いはせながら、いつか実際に訪れてみたいと思ってもらえるビールを作りたい。

この瀬戸口さんの言葉通り、「旅する TOSACO」を通じて知る高知の様々な土地は、行ったことがないにも関わらず、色鮮やかで親しみ深い場所のように感じるから不思議です。それはきっと、地元の人々がプライドと愛情を持って育てた農産物を、高知を愛する瀬戸口さんが、熱量そのままにビールの中にたっぷりと溶け込ませるから。移住してきたからこそ見える、地元の人の地への愛情や人と人とのつながり、高知が持つ多様性を瀬戸口さんが「クラフトビール」によって1本の糸で結び、ストーリーを紡ぎあげているように感じました。

高知県は、お酒が好きで、自身の土地の愛や想いが強い土地。

瀬戸口さんの「こんなものを造ってみたい!」というビジョンが、そんな高知の土地柄としっかりとマッチし、このプロジェクトは進んでいるのだと思います。ビールに関わるたくさんの生産者さん、そして飲み手をワクワクとさせる「旅するTOSACO」プロジェクト。今後の展開が楽しみです!

高知カンパーニュブルワリーHP
高知カンパーニュブルワリーnote
※文中の写真は使用許可を得ています

書いた人

お酒をこよなく愛する、さすらいのクラフトビールライター(ただの転勤族)。アルコールはきっちり毎日摂取します。 お酒全般大好物ですが、特に好きなのはクラフトビール。ビール愛が強すぎて、飲み終わったビールラベルを剥がしてアクセサリーを作ったり、その日飲む銘柄を筆文字でメニュー表にしています。 居酒屋の店長、知的財産関係の経歴あり。お酒関係の記事のほか、小説も書いています。