大阪・道頓堀『たこ梅』
道頓堀の繁華街で、木造2階建ての風情が際立つ「たこ梅」。大阪を代表する作家・織田作之助(おださくのすけ)など、多くの作家の作品にも登場する創業170年の老舗のおでん屋です。
関西に広まった関東煮のなかでも、たこ梅のおでんはだしに特徴あり。鯨のサエズリやコロを下茹でした茹で汁とかつおだしを合わせ、しょうゆ、砂糖、塩で調味。甘めだけれどくどくなく、動物性たんぱく質のこってりさはあるけれどしつこくない。東西どちらの嗜好をも満足させる、バランスのいい味わいです。
甘辛く下炊きされる聖護院大根や青首大根。生のままおでん鍋に投入し、湯がく程度で仕上げる菊菜。いわしのだんごは油で揚げてから…など、素材の味わいや特性に合った細やかな仕事を施すいっぽうで、シュウマイを串刺しにしておでん鍋に入れてみたらおいしかった…という斬新さも。今では全国区になった感のシュウマイおでんは、40年以上前から出していたのだとか。
そして忘れてはいけないのが、たこ梅のもうひとつの看板メニュー、秘伝のたれでやわらかく炊いた〝たこ甘露煮〟(実はこの名称、たこ梅の登録商標)。
酢で溶いた辛子がピリリと効いて味のアクセントとなり、何本でもイケそうです。錫(すず)製のタンポ(チロリ)と酒盃でいただく熱燗とともに、ディープな大阪の夜が更けていきます。