梅雨~夏頃になると、お酢を使った料理が食べたくなりませんか。さっぱりとしていて口当たりが良く、お酢は蒸し暑い時期に重宝する調味料のひとつです。
お酢と一口に言っても、米酢やりんご酢、黒酢などいろいろな種類があります。そのなかでも意外と知られていないのが、赤酢です。江戸時代のすしブームに火をつけたとされていて、酢飯だけでなく多様な料理に活用できる優れものです。これからの季節に活躍すること間違いなし!
そこで今回は、赤酢の歴史や使い方など、その魅力をたっぷりとお伝えします。
絶品!すし飯に使うと驚くほどおいしい
私が赤酢に出会ったのは、今から6年ほど前のこと。日本を代表する酢のメーカー・ミツカンの体験型博物館「MIZKAN MUSEUM(愛称 MIM)(※)」を訪れたときのことでした。
ミツカンでの赤酢の商品名は「三ツ判 山吹(みつばん やまぶき)」。自宅用に購入し、さっそくすし飯を作ってみると奥深い旨味にびっくり。それ以来、散らしすしや手巻きすしを作るときには、なくてはならない調味料になりました。
最近は、新たまねぎの酢漬け(酢たまねぎ)やにんじんサラダなどによく使っています。赤酢にはまろやかな風味があり、料理の味をやさしくまとめてくれます。
※MIM……ミツカン創業の地である愛知県半田市にあり、酢づくりの歴史や醸造の技術、ものづくりへのこだわり、食文化の魅力などを五感で学ぶことができる施設。新型コロナウイルス感染拡大防止ため閉館中(2022年5月現在)。
赤酢が江戸時代のすしブームに火をつけた
ここでは赤酢のことを知るために、まずは歴史について紹介しましょう。お酢は7000年以上の歴史があるとされており、4、5世紀頃に中国から日本に米酢が伝わりました。
そこから時が経ち、1804年にミツカングループが創業した後、試行錯誤のうえ作ったのが赤酢「三ツ判 山吹」であり、江戸時代に生まれたミツカンのブランド第一号です。山吹という名前は、酢飯にすると輝かしい山吹色になることに由来しています。
赤酢づくりに至る背景として、その頃の半田市では酒づくりが盛んに行われていましたが、その製造過程で出る酒粕を有効に活用する方法がありませんでした。同時に、江戸では「早ずし」が流行していて、当時は高価だった米酢が使われていました。
ミツカン創業者である初代・中野又左衛門が江戸を訪れたときに「酒粕から酢が作れないか」「米酢を赤酢に替えたら、すしはもっとおいしくて手軽になる」という考えが浮かび、酒粕を使った酢づくりをスタート。
試行錯誤の結果、旨味や甘味がたっぷりの赤酢を作ることに成功。完成した赤酢を船で江戸に届けたところ、「握りすしによく合う」と江戸のすし屋などで大ヒットに。米酢は着物の色止めなど工業的な用途でも使われていたため、供給量が不足気味だったことも重なり、赤酢は大変重宝されました。
旨味を表す指標のひとつ「アミノ酸」については、赤酢には同じく旨味が強いとされる黒酢の2倍も含まれています。すっきりとした味わいの米酢に比べると、赤酢は酸味がおだやかで濃厚な風味があるのが特徴です。味の面からも多くの人々に支持され、そのおかげですしブームがさらに加速しました。
第二次世界大戦後は、赤酢から米酢へと少しずつ移行。その主な理由は、赤酢を使うと食材に色が付いてしまうことや、戦後の白いものへの憧れなどです。このほか、赤酢に比べて米酢は多くの用途に使えることや、日本酒の生産量の低下に伴う酒粕の減少なども影響しています。
赤酢の魅力とおすすめの使い方
寿司と深い関わりを持つ、赤酢。その魅力をさらに深堀りすべく、ミツカンのお酢博士である赤野裕文さん(株式会社Mizkan 食酢エキスパート)にお話を伺いました。赤野さんは技術職としてミツカンに入社し、お酢の基礎研究に携わった後、マーケティングや広告、商品開発に従事。現在は、酢の魅力をより多くの人に伝えるべく、一般の主婦や企業のバイヤー、栄養士を目指す大学生、子ども向けの活動も行っています。youtubeにも出演するなど、お酢博士として幅広く活躍されています。
物語性とシンプルなおいしさが楽しめる
ーー赤酢を初めて使った人からは、主にどんな声がありますか。
おすしを作るときに赤酢を使うと色合いが変わるので、驚く人が多いです。実際に食べてみると「すごくおいしい」「味わいが違う」と再び驚きます。赤酢はすしだけでなく酢の物にも活用できて、私は「ワンランク上の風味になる」と思っています。
ーー赤酢を使うと、食卓が楽しくなりそうですね。
「赤酢にはストーリー性がある」というのも魅力のひとつです。たとえば、おもてなし料理として赤酢を使った手巻きすしを作ると「これは何?」と、ネタではなくてシャリに着目すると思います。そのときに「これは握りすしが生まれたときに半田で登場したお酢なんですよ」という説明をすると、お客さまにも喜ばれるでしょう。三ツ判山吹では、こうした物語性も大切にしています。
ーーすし飯を作るときに赤酢を使うと、砂糖などの甘さを加えなくても「味が決まる」と感じます。
すし飯を赤酢と塩だけで作るのは、江戸時代の作り方と基本的に同じです。旨味は甘味に通じます。赤酢を利用する場合、砂糖は使わなくてもいいし、使うとしても量を抑えることができます。赤酢を使うと、シンプルな味付けでおいしく食べられるというのも大きな魅力です。
簡単!お酢博士に聞く、おすすめの使い方
ーー赤酢のおすすめの使い方を教えてください。
私は肉料理によく合うと感じています。肉をフライパンなどでソテーした後、仕上げに赤酢をさっと加えて、酸味を飛ばすように加熱します。そうすると、とてもいい香りが立ちます。特に、バラ肉など脂肪分の多い肉のほうがよく合います。
ーー三ツ判山吹のレシピを紹介したサイトを拝見しました。山吹クラフトコーラ(シロップ)や「山吹」グレープカクテルはこれからの暑い時期にもぴったりですね。
「山吹」グレープカクテルは、ぶどうジュースに赤酢を加えたノンアルコールカクテルです。赤ワインのような味わいで、さっぱりといただけます。ほかのお酢でも作れますが、赤酢には熟成感があるので、一味違う風味が楽しめます。
冬場はホットワイン風にして飲むのもおすすめです。鍋にぶどうジュースと赤酢、オレンジ、紅茶のティーパックを入れて温めるだけ作れます。
ーーすし飯と一口に言っても、いろいろな種類がありますね。
赤酢のすし飯は、カツオやマグロなどの赤身や青魚のほうがよく合います。逆に、鯛のような淡泊な白身の魚の場合は、赤酢ではなく米酢を使ったほうがいいかもしれません。ミシュランを取るようなおすし屋さんでのなかには、ネタの種類によって赤酢と米酢の使い分けをしているようです。
ーーさまざまな食べ方があるので、どんな料理に使おうか迷ってしまいそうです。
「赤酢だから」と特別なことを考える必要はありません。いつも通りの使い方でいいと思います。たとえば、酢の物など普段作っている料理に赤酢を使ってみてください。赤酢は旨味が強いので、砂糖や塩などの調味料を控えめにするのもポイントです。ただし、赤酢を使うとピクルス液に色が付いてしまうので、彩りを楽しみたいピクルスのようなものには不向きかもしれません。
ーー最近、酢たまねぎをよく作ります。赤酢を使うととてもおいしいです。
たまねぎのほかに、新しょうがやのにんにく、みょうがを漬けるのもいいですよ。美しい色味に仕上がります。
食育にも役立ち、一度使うと手放せなくなる
ーー最近は「食育」ということで、子ども向けの活動も行っていますね。
食育で大切なことは、味覚のバランスだと思っています。甘味や旨味が好きな子どもは多いですが、酸味は苦手な場合も多いです。単独で見ると苦手かもしれませんが、ほかの味と組み合わせることで食べやすくなります。たとえば、甘いだけの果実ジュースよりも、酸味のあるジュースのほうがおいしく感じたりもします。こうしたことを保護者の方々向けに伝える活動をしています。
酸味を加えることで、味の輪郭がしっかりして、料理がとてもおいしくなる。「苦手だから食べさせない」ではなく、どうしたら無理なく楽しめるかという視点でお酢の使い方なども提案しています。
そのひとつに、隠し味ならぬ「隠し酢」という使い方があります。料理100gに対してお酢2g以下であれば、酸味をほとんど感じません。その代わりに、味をまとめる働きや腐敗を防止する働きなども期待できます。
ーー冒頭では、赤酢を使ったお客さまから「とてもおいしい」という声が多いと聞きました。
「ほかのお酢では物足りなくなった」「どこで買えますか」という声もたくさん届きます。一部店頭でも販売していますが、Amazonなどの通販サイトで購入いただくのが最も確実かもしれません。1本900mlなので量が多く感じられるかもしれませんが、普段の料理に活用すれば無理なく使い切れますよ。
ーー最後に、和樂web読者へのメッセージをお聞かせください。
日本を代表する料理である握りすしと一緒に生まれ、発展してきたのが赤酢です。ユネスコ世界遺産としても和食の素晴らしさが認められていますが、食というのは、私たちにとって最も身近な存在です。三ツ判山吹を使うことで、食を通して和食や日本文化の魅力を体感できます。
赤酢は調味料なので、ひと手間かけて料理をつくることが必要です。途中で紹介したように、簡単に作れておいしいレシピもたくさんあります。料理を作る過程も含めて、赤酢の魅力をぜひ感じていただきたいですね。
※三ツ判、山吹、はMizkan Holdingsの登録商標です。