季節を感じる食材や料理。毎日当たり前に食べているものにこそ、日本の食の豊かさを感じます。食材に思い入れのある人に、素材や料理をディープに語っていただく【日日是好食】。
今回はさつまいも。秋が深まってくると、あったかい焼きいもが恋しくなりませんか? 最近ではスーパーや青果店でも焼きいもを売る店が増え、ついつい手が伸びてしまいますね。
さつまいもの名産地・埼玉県川越地方には、いも農家が軒を連ねる「いも街道」があります。「いも街道」の農家のひとつ、「むさし野自然農園」10代目オーナーと、農園内で営業する人気のカフェ「OIMO cafe」の店長さんに、さつまいもの品種による味わいの違いや、最新の焼きいものトレンドをお聞きしました。
300年以上の歴史を誇る「いも街道」でいもにまみれる! どこまでも続くいも畑
埼玉県川越地方で収穫されるさつまいもは「川越いも」と呼ばれ、その産地は川越市の南方・武蔵野台地に広がっています。
埼玉県入間郡三芳町の上富(かみとめ)地域も「川越いも」の一大産地。上富には国道沿いに約1kmに渡っていも農家が軒を連ねる「いも街道」があります。農家の数はなんと29軒!
「いも街道」の歴史は古く、江戸時代にさかのぼります。
1732年の「享保(きょうほう)のききん」で食べ物が不足した時、厳しい条件下でも育ちやすいさつまいもの生産が推奨され、関東にも広まりました。川越藩によって計画的に農地開発が進められてきた上富地域にもさつまいもが伝わり、盛んに栽培されるようになったのです。
ある時、川越城主が川越地方で収穫されたいもを10代将軍徳川家治に献上すると、その色の美しさと味の良さに感心して、将軍みずから「川越いも」の名をつけたと伝わっています。特に上富地域の「いも街道」で収穫された「川越いも」は「富(とめ)の川越いも」としてブランド化されています。
ホクホクからネットリへ、焼きいもにもトレンドがあるのです
そんな「いも街道」のさつまいも農家のうちの1軒、「むさし野自然農場」は、江戸時代から320年続くいも農家。武田浩太郎さんは10代目の若き当主です。農場の直売所にいもを買いに来てくれた人が休憩できるようにと、2013年、納屋を改装して「OIMO cafe」をオープン。飲食業界で経験を積んだ三國舞さんが中心となって店を切り盛りしています。
いもの栽培と調理をこなすお二人に、ここ最近の日本のさつまいも事情をお聞きしました。
焼きいもブームを巻き起こした“ネットリ系”
武田さん:少し前までは、関東では「紅あずま」、関西では「なると金時」というおいもが主流だったんですが、2000年ぐらいに、鹿児島県種子島の「安納(あんのう)いも」が関東で展開されて、大々的に広まりました。とてもネットリした食感の、甘い品種ですね。その後、2010年に「紅はるか」、2012年には「シルクスイート」という品種が出てきます。これは「安納いも」を意識したネットリ系の流れです。
確かに、「安納いも」の甘さと食感は衝撃的で、それまでの焼きいものイメージを変える新しさがありました。「紅はるか」は「安納いも」よりもややホクホク感があって、ネットリしていてもベットリはしない食感。「シルクスイート」は口当たりの滑らかさが特徴です。
武田さん:ネットリ系のいもはもともと糖度が高いので、焼きいもとして調理をする時に、比較的甘さや食感を引き出しやすいんです。こだわればいろいろ細かい技はあるんですが、とにかくじっくり焼けばとろっとした食感と甘味が出せる。それに、冷凍にも向いていますから、1年中提供できる。
スーパーや「ドン・キホーテ」などいろんな店で焼きいもが売られるようになったり、焼きいも専門店が増えた背景には、ネットリ系のいもの広がりがあると思いますね。
昔からあるホクホクした食感の品種は、うまく調理しないとおいしさが引き出せず、いもに含まれる水分量がそもそも少ないので時間が経つとパサパサになってしまいます。ネットリ系は水分量も多いですから、焼いた後時間が経ってもおいしさをキープできます。スーパーでも青果店でも、ドンキでもローソンストア100でも焼きいもが買えるようになったのは、調理しやすく保存もきくネットリ系のいものおかげなのかもしれませんね。
ホクホクからネットリへ、そしてホクホクに回帰?
ネットリ系のいもが全盛期を迎えそのまま天下をとり続けるかと思いきや、じつは最新のトレンドはまたホクホクに回帰しているのだそう。
武田さん:ネットリ系は甘すぎる、という人もいるんですよね。年齢に関係なく、ホクホク系のいもを好む方も増えてきています。今はネットリが好きな人とホクホクが好きな人、半々ぐらいですね。
「むさし野自然農場」では120年ほど前に流行ったという超ホクホクの「紅赤金時」を栽培しています。昔の品種で、栽培も調理も大変難しいそうですが、根強い人気があります。
三國さん:「紅赤金時」は甘さ控えめでホクホクです。天ぷらや大学いもにすると本当においしいですよ!
「紅赤金時」は11月ごろが収穫時期ですが、熟成してから出荷するため、市場に出回るのは年が明けてからになります。
多種多様なさつまいも、代表的な品種を紹介
「むさし野自然農場」で栽培しているものを中心に、さつまいもの品種を整理してみましょう。自分好みの品種を探しみてください。
シルクスイート
抜群の甘さで、ネットリした食感が人気。
食感 ネットリ(熟成後、超ネットリ)
甘さ ★★★★★
むさしこがね
濃い黄色で甘味が強く、ホクホク。どんな料理にも使える万能ないも。
食感 ホクホク(熟成後はネットリ、シットリ)
甘さ ★★★★
むさし金時(なると金時)
シットリして上品な食感。繊維質が少なく加工しやすいので、お菓子作りにも◎。
食感 ホクホク(熟成後はネットリ、シットリ)
甘さ ★★★
紅赤金時
ホクホクで飽きのこないおいしさの、歴史ある品種。冷めても身がしまらず、天ぷら、大学いも、きんとんに最適。
食感 超ホクホク
甘さ ★★
あいこまち
ホクホクでとても甘い品種。十分寝かせるとネットリした食感に変化します。焼きいもにも、お菓子にもおすすめ。
食感 ホクホク、シットリ
甘さ ★★★★
直売所でいもを買って、「OIMO cafe」でつぼ焼きいもとおいしいコーヒーを
「OIMO cafe」では、畑でとれた野菜を使ったランチメニューを提供。4月~5月には農園内でとれたタケノコの料理も楽しめます。大きなつぼの中にいもを吊るして焼き上げるつぼ焼きの焼きいもは絶品。コーヒーも抜かりなくおいしいですよ。農場に隣接した直売所では、さまざまな品種のいもが箱買いできます。少量パックも置いています。
都内でも食べられます、川越のつぼ焼きいもと、いもスイーツ
2019年3月には東京都杉並区に「OIMO cafe」の2号店「OIMO cafe zenpukuji」がオープンしました。店長は、もともと「むさし野自然農場」で働いていた大和田一樹さん。つぼ焼きの焼きいもと大和田さんが丁寧に淹れてくれるおいしい日本茶が味わえます。「もーもーちゃーちゃー」など、いもを使ったオリジナルスイーツも楽しめます(日替わりです)。
ハイシーズンには「むさし野自然農場」のさつまいもも販売しています。1箱の注文も可。
スーパーなどでさつまいもの売り場に立ち寄った際には品種に注目して、ホクホク系か、ネットリ系か、チェックしてみてくださいね。
江戸時代からの歴史に触れ、最新品種のいもを買ったりつぼ焼きいもも楽しめる「いも街道」は、いもが好きな方にうってつけの名所です。なにより、29軒のいも農家がまさに“軒を連ねる”景色は圧巻。ぜひお出かけになってみてください。
店舗情報
「OIMO cafe」
住所:埼玉県入間郡三芳町上富287
営業時間:11:00~18:00
定休日:月曜日、火曜日
公式サイト
「OIMO cafe zenpukuji」
住所:東京都杉並区善福寺2-24-8
営業時間:10:00~17:00
定休日:月曜日、火曜日
公式サイト