乾物、と聞いてみなさんが想像するのはどんなものでしょうか?干ししいたけや切り干し大根、高野豆腐など、ちょっと地味で手間のかかるものを想像する人も多いのでは。
ところがそんな乾物が今、改めて見直されています。
ゲリラ豪雨や河川の氾濫など、想定外の災害の可能性が高まる昨今、日常的に食料品などの備蓄をする人が増加。そんな中、注目されているのが日本古来の保存食、乾物です。
長期保存ができる食品としては、パック式のごはんや缶詰、レトルト食品やカンパンなどいろいろなものがありますが、野菜はどうでしょうか?ジャガイモ、サツマイモなどの土ものは比較的長期の保存ができるものの、備蓄とはちょっと違う気がします。
野菜には食物繊維・ビタミン・ミネラルなど、体調を整えるために必要な栄養素が多く含まれています。野菜こそ、災害時に備えておきたい食物ですね。
野菜の乾物には多くの種類があり、常温で長期保存ができる上、かさも小さく軽くなっています。日常的に使いつつ備蓄しておけば、災害時の調理にもあわてることがありません。おにぎりなどの炭水化物に偏りがちな非常時、乾物は体調の維持に大きく役立つ食品です。
ただ、「乾物ってどうやって調理すればおいしいの?」そんな心配がありますよね。
今回、創業70年を迎える乾物卸問屋「株式会社 野田商店」の三代目、野田智也さんに乾物についての詳しいお話を伺うことができました。
野田さんは日本かんぶつ協会認定の「かんぶつマエストロ」。現代の食生活に合わせた乾物の利用を試行錯誤し、ついにはオリジナルの乾物スイーツまで開発した強者です。
そんな野田さんに知られざる乾物の魅力や新しい乾物のレシピなどを教えていただきました。
乾物は「天然のサプリメント」?
「乾燥させたものなら何でも乾物」、単純にそう思ってしまいがちですが、野田さんによると
乾物とは「太陽エネルギーを受けることにより水分が抜け、食品に含まれる成分に変化が生じ、うま味と栄養分が増えるといった付加価値が生まれたもの」
こんな定義がきちんとあるのだそうです。天日の力でうま味と栄養分が増える、そのことが重要なのだとか。
実際、いくつかの乾物の栄養分やその効果を挙げていただくと……
*ひじき
鉄分(貧血の予防)、亜鉛(成長促進など)、食物繊維、カルシウム、マグネシウムなどが豊富。
*麩(ふ)
植物性の低カロリーのタンパク質が豊富。原料のグルテンには多くのアミノ酸やグルタミン酸が含まれ、脳の神経伝達物質の材料となっている。(記憶力の維持・学習能力のアップ)
*高野豆腐
脂肪燃焼効果のあるアミノ酸を多く含む。良質なタンパク質も摂れるため、筋肉の増強や維持にも。(引き締まった体・ダイエット効果)
*干ししいたけ
ビタミンDは生しいたけの10倍近くあり、カルシウムの吸収を助ける働きがある。低カロリーで食物繊維たっぷり。(メタボ予防・ダイエット効果)
*わかめ
食物繊維が豊富で粘性の高いアルギン酸が多い。(便秘改善・血圧低下作用・コレステロールの低下)。また日本人に不足しがちなミネラル分も多く含まれる。
このような効果があることから、乾物は「天然のサプリメント」とも言われているそうです。添加物のない自然な食べ物から、これだけの成分を体に取り込めるとは驚くばかりです。
おすすめ!かんぶつレシピ3選
体に良いことはよくわかったのですが、問題は調理方法です。昔ながらの煮物など、同じような味付けが続けば飽きがきますし、子どもや若い人はなかなか食指が動かないのではとも思います。
そこで野田さんが教えてくださったのが、乾物を使った現代風のレシピです。どれも日常的なメニューに乾物を加えることができるよう、工夫されています。順番にご紹介しますね。
「干しシイタケのトマトスパゲティ」
〈用意するもの〉(2人分)
・スパゲティ 200g
・干ししいたけ 12g程度
・トマトジュース 400g程度
・オリーブオイル 適宜
・にんにく 1片
・塩 小さじ1/2
・こしょう 適宜
・エクストラバージンオイル 大さじ2
・パルメザンチーズ 適宜
・バジルなどハーブ 適宜
〈作り方〉
1. 軽く水洗いした干ししいたけをトマトジュースに浸して冷蔵庫に入れ、一晩おく。
(ここがポイント。しいたけは芯までふっくら、うま味と甘味もしっかり出ます。)
2. 1で戻した干ししいたけを取り出し、粗くみじん切り、にんにくもみじん切りにする。
3. 鍋にオリーブオイルを入れ、にんにくを炒め、干ししいたけを加え炒める。
4. 3に1のトマトジュースを入れて煮立て、塩・こしょうで味を整える。
5. 別に茹でたスパゲティを湯切りし、4に加えソースをからめる。
6. 器に盛り付け、エクストラバージンオイル、パルメザンチーズ、ハーブ等をお好みでふりかけて完成。
*作ってみました*
塩コショーで味付けをした後、しばらく煮詰めるとしいたけがソースを含み、より美味しさが増すと思いました。
またパスタをしらたきに変えると、かなりの低カロリー食に。トマトのリコピンに加え食物繊維も豊富で、健康的なダイエットに最適です。
~野田さんメモ~
「かんぶつ」の苦手意識ランキングが常に上位の「干ししいたけ」。独特の香りと食感に、どうもダメだという方が多いのが実情です。
このレシピは干しシイタケのうま味成分グアニル酸とトマトのうま味成分グルタミン酸、二つの相乗効果でうま味がさらにアップしています。苦手な方もぜひ一度お試しください。
ちなみに干ししいたけ日本一の生産地は大分県で、大分産干ししいたけはブランド力が非常に高く、お値段も高いです。しかし、本当に美味しい干ししいたけは、アワビのような食感がします。
干ししいたけは、かさの開き具合によって3種類に大別できます。7分開き前のものが「冬菇(どんこ)」、かさが7分以上開いているものは「香信(こうしん)」、6~7分開きを「香菇(こうこ)」といいます。
「わかめコロッケ」
〈用意するもの(小6個分)〉
・じゃがいも 2個
・たまねぎ 1/2個
・青のり 大さじ1
・カットわかめ 大さじ1(袋などに入れて細かく砕いておく)
・塩こしょう 適宜
・卵 1/2個
・小麦粉 適宜
・ころも用パン粉 適宜
・青のり 適宜
・ごま油 大さじ1
・サラダ油 適宜
〈作り方〉
1. じゃがいもは茹でてつぶしておく。
2. たまねぎはみじん切りにしてから、ごま油でしんなりするまで炒め、塩・こしょうで下味をつけておく。
3. 揚げころも用のパン粉と青のりを混ぜておく。
4. ボウルに1、2を加え、カットわかめ、青のりもよく混ぜ、塩・こしょうで味を整える。
※ カットわかめは戻さないで使うことによって風味が増します。 素干わかめを使うと、一層風味豊かです。
5. 4を丸めて小麦粉、卵、3のパン粉の順にころもをつけ、180℃の油できつね色になるまで揚げれば完成!
~野田さんメモ~
青森県の亀ヶ岡遺跡など、縄文時代の貝塚からもわかめが発見されており、古くから食べられていたことが分かります。
わかめは2~3月が最もおいしく、その頃が収穫の最盛期です。和歌山県海南市下津町大崎でも、おいしいわかめが採れますね。
乾物にも旬や風土に適した地域性があります。
「あべかわ麩」
〈用意するもの(2人前)〉
・砂糖水(水150㏄ + 砂糖 小さじ3)
・麩(あっさくふ) 10g
・バター 5g
・砂糖 適量
・きな粉 適量
・サラダ油 小さじ1
〈作り方〉
1.砂糖水を作る。
2.麩を砂糖水で戻して、柔らかくなったら水気を少し残すように絞る。
3.ホットプレートに油とバターをひき、うっすらと焼色がつくまで両面を焼く。
4.きな粉と砂糖をまぜ、焼いた麩にまぶして完成!
*作ってみました*
バター感たっぷりの麩ときな粉の相性が抜群でした。ぜひバターはたっぷりと、麩は少し焦げ目がつくまで焼くのがおすすめです。
最初に水気を絞る際、ゆるく絞るのか強めに絞るのかお好みが分かれると思いますので、いろいろ試してみてくださいね。
~野田さんメモ~
子どもと一緒に作れる、簡単なおやつです。麩にもきな粉(大豆)にも子どもに大切な栄養がたくさん含まれています。ぜひご家族でお楽しみください。
誕生!かんぶつスイーツ
実は野田さんには懸念していることが一つあります。それはライフスタイルの多様化で、日本人の食が「時短・即食」となっていることです。仕事の都合で忙しい親も増え、一度戻してから調理するという手間のかかる乾物は、食卓に上る機会が減っています。このままでは乾物の味を知らない子どもが増えてしまう、と危惧した野田さんは、子どもと子育て中の若い親世代に乾物の美味しさを伝えることが大切だと考えました。
そこで注目したのがスイーツです。乾物を使ってスイーツを作れば、子どもにも若い親世代にも手軽に乾物を味わってもらうことができます。
ただ、スイーツにはありとあらゆる種類があり、乾物もそれぞれにクセや香りがあります。多くのマッチングを考え、試作を重ねた末に野田さんがたどり着いたのは「ひじきのシフォンケーキ」でした。ひじきの量、風味、生地のバランスなどを何度も改良し、1年以上の時間をかけて完成。
その後、「わかめのパウンドケーキ」と「ごまプリン」を新たに開発、2011年11月にかんぶつスイーツの専門店「3時のかんぶつ屋さん」を開業。当初は週に2日午後のみの販売、スイーツは3種だけ、ということでしたが、2020年4月現在では火曜日から土曜日まで営業し、常時10種類以上のかんぶつスイーツを販売できるまでになりました。
子どもや若い親世代だけではなく、野田さんの想像以上に、かんぶつスイーツは幅広い世代に受け入れられたのです。
おすすめのかんぶつスイーツ
ここまでお話を伺うと、もう食べてみるしかない!と思ってしまうかんぶつスイーツ。「天然のサプリメント」といわれるほどの栄養がありながら、スイーツとしていただけるのですよね。
まずは右、「3時のかんぶつ屋さん」の看板商品「ひじきのシフォンケーキ」。ひとくち口にすると、甘さ控えめのしっとりした生地に、ふわっとひじきのほのかな香り。こんなにシフォンケーキとひじきの相性が良いとは驚きです。ひじきがアクセントになって、他にはない味わいとなっています。
そして、もう一つは「しいたけかくれんぼシフォンケーキ」。なんと、しいたけのシフォンケーキです。食感も香りもクセのあるあのしいたけが……食べてみるとチョコにしか思えません。やわらかなココア生地に包まれて、見事にかくれんぼしています。
次は野田さんの一番のおすすめ、「削りたて鰹節クラッカー」。本枯節(半年以上かけて作られる極上のかつおぶし)を昔ながらの削り器を使って手で削り、削りたてを生地に練りこんだクラッカーです。
カリッとかじったとたん、すぐに塩みのある濃厚なかつおぶしの風味が広がります。かつおだしの香りを口いっぱいにほおばるような、とても豊かなお味です。
これは……スイーツというよりも、お酒のおつまみに合うと思います。
もう一つは「青のりメレンゲ」。軽く焼き上げたメレンゲは幻のようにくしゅ、と口の中で消えて、やわらかな甘味のあとから青のりの香りが追いかけてきます。あまりにも口どけがよく青のりが後に引くので、なくなるまで食べ続けてしまう、止まらない系のスイーツです。
「3時のかんぶつ屋さん」のスイーツは添加物が含まれておらず、とてもやさしいお味です。ごく自然に乾物とスイーツの相乗効果を実感できる美味しさでした。
野田さんの新しい発想とマッチングのひらめき、そして試行錯誤があったからこそ生まれたスイーツなのだと思いました。
大切な「幼少時の味覚」
野田さんによれば、幼少時に経験した味覚は一生を通してとても大切なものとなるそうです。だしのうま味や乾物の味は脳がずっと記憶していて、年を取った時にまたその味を求めることが多くなるとか。俗に言うところの「年を取ってから舌が変わる」です。
逆を考えれば、幼少時にそのような食を経験していないと、高齢になってからも味の濃い高カロリーの食品を求めてしまいがちになるということです。それでは体に負担がかかってしまいますね。
また、赤ちゃんの飲む母乳にはうま味成分のグルタミン酸が含まれており、その分量は昆布だしのグルタミン酸とほぼ同量なのだそうです。
離乳食へと移る過程でも、赤ちゃんが感じているうま味をそのまま引き継いであげたいものです。
買い物に行けば、スーパーの食品売り場にはたくさんの種類の乾物が並んでいます。災害時の備蓄として、また、生活に取り入れやすいわかめや麩などから、乾物のある生活を始められてはいかがでしょうか。
株式会社 野田商店「3時のかんぶつ屋さん」基本情報
【所在地】 和歌山県海南市藤白189-1
【公式サイト】 http://www.3pm-kanbutsuya.jp/index.html