平安時代に書かれた長編小説『源氏物語』。千年の時を超えてなお、その魅力が色あせることはありません。もちろん、江戸時代も武家から庶民にまで広く親しまれており、浮世絵のモチーフとしても人気がありました。
なかでも、風流略源氏(ふうりゅうやつしげんじ)などと呼ばれる、江戸時代の風俗に則って描かれた『源氏物語』の浮世絵は大流行! 江戸時代と『源氏物語』の世界が融合しているのが見どころです。
そこで『源氏物語』を愛してやまない私が、江戸風にアレンジされた「源氏物語の浮世絵」を集めて【誰でもミュージアム】を開催します!
そもそも平安時代はどんな雰囲気?
今からおよそ千年前、紫式部が『源氏物語』を書いた平安時代はこのような世界でした。
女性は長く伸ばした髪をおろし、いわゆる“十二単(じゅうにひとえ)”という着物を着ています。顔は、男女ともに下膨れになっているのが特徴。それを、江戸時代風に描くとどのようになるのでしょうか?
※『源氏物語』のあらすじはこちらの記事をご覧ください。
源氏物語あらすじ全まとめ。現代語訳や原文を読む前におさらい
スタイル抜群の美人画が得意! 鳥文斎栄之
武士出身で、美人画を得意とした江戸時代後期の浮世絵師・鳥文斎栄之(ちょうぶんさいえいし、1756~1829年)の作品です。
※浮世絵師の詳しい解説はこちらの記事をご覧ください。
浮世絵とは?代表作品と絵師たちをまとめて解説!基本や歴史が全部わかる
三十三帖 藤裏葉(ふじのうらば) 夕霧と雲井雁の結婚
光源氏の息子・夕霧と、頭中将の娘・雲井雁(くもいのかり)が、晴れて結ばれた日を描いています。傘の下にいるのが新婦・雲井雁でしょうか。
平安時代は高貴な女性が外を立って歩いたり、顔を見せたりすることはありませんでした。「風流略源氏」では、そのような文化の違いが見られるほか、ヘアスタイルや衣装も江戸時代風になっているのが面白いですね。
光源氏と3人の若い女性
この絵は『源氏物語』のどのシーンを描いたものなのでしょうか。メトロポリタン美術館の説明には Prince Genji and Three Young Women とあるので、若き日の光源氏と妻(光源氏の幼さから察するに、葵上?)と、傍近く仕える女房たちでしょうか。
平安時代は下膨れだった顔が、ずいぶんスッキリしていますね。
当時人気No.1の浮世絵師 歌川国貞
数万点もの膨大な作品を残し、圧倒的な人気を誇った歌川国貞(うたがわくにさだ、1786~1865年)。『源氏物語』の世界をどのように描いたのでしょう。
三十五帖 若菜下(わかなげ) 柏木、女三の宮を垣間見る
光源氏の正妻・女三の宮(おんなさんのみや)を垣間見てしまった柏木(かしわぎ、頭中将の息子)。その美しい姿が忘れられず、彼女の猫を譲り受けます。猫を繋いでいる紐が、2人を結ぶ運命の赤い糸のようですね。後に女三の宮は柏木の子を妊娠し、泥沼展開に……。
この浮世絵には、非常に豪華な色彩や技巧が取り入れられていることから、公に出版されたものではなく、私的に刷られたものではないかと推測されます。
ちなみに、同じシーンを別の浮世絵師・楊洲周延(ようしゅうちかのぶ、1838~1912年)も描いています。
こちらは、衣服やヘアスタイル、化粧などが平安時代風になっています。柏木が女三の宮を目撃し、恋に落ちる瞬間を描いた作品です。女三の宮の姿を見せてしまうきっかけとなった猫が、足元に描かれています。
肉感的な美女を描く 礒田湖龍斎
鈴木春信に私淑し、その影響を大きくうけた礒田湖龍斎(いそだこりゅうさい、1735~1790年?)。浪人出身で、もとは春広と号していましたが、湖龍斎と名を改めてからは春信の影響を離れ、肉感的な美女を描いた独自のスタイルを確立しました。
二十八帖 野分(のわき) 台風が六条院を襲う
光源氏の住まい、六条院を野分(台風)が襲ったシーンを描いた作品。光源氏の息子・夕霧が、光源氏最愛の妻・紫の上を垣間見てしまい、その美しさに驚愕します。
強風で倒れそうになる障子を押さえる紫の上(恐らく)から、足が大胆に見えています。現実的な肉感を描いた礒田湖龍斎らしい、官能的な作品です。
二十五帖 蛍(ほたる) 蛍に照らされる玉鬘
光源氏が養女として引き取った美しい女性、玉鬘(たまかずら)。蛍兵部卿宮(ほたるひょうぶきょうのみや)という男性が玉鬘と対面している最中、光源氏は玉鬘に蛍を放ちます。淡い蛍の光に照らされた玉鬘の姿はあまりに美しく、蛍兵部卿宮は恋しい想いを募らせるのです。
湖龍斎の浮世絵では、この官能的なシーンをかなりカジュアルに描いています。場所は、どこかの川のほとりでしょうか。カップルが夏の夕涼みを楽しんでいるかのような趣です。
「誰でもミュージアム」とは?
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