橋の上で戦っている2人の武将。1人は薙刀(なぎなた)を持ち、もう1人は高下駄(たかげた)を履いて刀を抜いた状態で橋の欄干(らんかん)に乗っています。
この2人は、いったい誰? 何をしているのでしょう?
同じモチーフの別の作品
ごめんなさい、ちょっと意地悪してしまいました……。
こちらの鐔(つば)なら、一瞬にして分かる! というかたも多いのではないでしょうか。
この画題のもとになったエピソード
正解は、牛若丸(=源義経)と弁慶。2人が初めて出会って主従の絆を結んだという、有名な五条大橋のシーンです(五条大橋ではなく、別の橋が本来の舞台だったといわれますが)。
童話や絵本などで広く知られるお話で、1000本の太刀を集めようとしていた弁慶が最後の1本を奪おうと待ち構えていたところ、やってきた義経に逆襲されて家臣になった、というものです。
ただ、このエピソードの出どころと見られる『義経記(ぎけいき)』も創作の色が非常に濃いものであり、完全な史実のみを描いたものではないといわれています。
なお、『義経記』には橋の上での決闘はなく、弁慶が義経の家臣になるまでに3回の戦いがあったと書かれています。
遊び心満載!
さて、鐔のほうに目を戻してみましょう。
ちょっと分かりづらかった1枚目の鐔も、よく見てみると、それぞれの人物を示す特徴が見て取れます。
義経のほうが子どものときの牛若丸の姿ではなく、成長した武将として描かれているため、少し分かりづらいのですが、格好は伝えられている義経の姿そのものです。足元については高下駄で、ここは有名な伝承を受け継いでいるよう。
エピソードそのままではなく、アレンジを加えて描く、これもまた作者の遊び心が感じられて楽しいですね。
とはいえ、『義経記』の中の義経は、このときすでに大人の扱いを受ける「元服(げんぷく)」の儀式を終えています。
もしかしたら、もともとのエピソードをより忠実に描いているのは、こちらのほうなのかもしれません。
裏を見てみると……
2枚目の画像の鐔、こちらも実は遊び心に富んだ、おもしろい作品なのです。
ちょっと裏を覗いてみましょう。
天狗が木の上から2人を見ています。
義経は鞍馬山で天狗に武芸を教わったという伝承があります。この天狗が、教え子である義経を陰(裏)から手助けしている(見守っている?)、という設定なのですね。
「誰でもミュージアム」とは?
パブリックドメインの作品を使って、バーチャル上に自分だけの美術館をつくる「誰でもミュージアム」。和樂webでは、スタッフ一人ひとりが独自の視点で日本美術や工芸の魅力を探り、それぞれの美術館をキュレーションしています。「誰でもミュージアム」はwebメディアだけでなく、各SNSアカウントや音声コンテンツなど、さまざまな媒体のそれぞれのプラットフォームに合わせた手法で配信。アートの新しい楽しみ方を探ります。
◆「誰でもミュージアム」プロジェクト、始動! パブリックドメインの作品で自分だけの美術館をつくろう
主要参考文献:『日本古典文学全集第31巻 義経記』小学館