文化人ゆかりの街
初めて訪れる街もいつか来た街も、ゆっくり歩いてみれば知らなかった風景に出合うことができます。美術館や庭園に行く目的のある旅も楽しいですが、時間をかけて気ままに散歩をする旅はなんて贅沢!今回はJR山の手線の北西部、東京を代表する閑静な山の手の街として知られる目白近辺を訪れました。学習院や川村学園、日本女子大学などの学園が点在し、皇族や旧華族、芸術家たちとのゆかりも深い場所です。
並木道から路地裏へ味わいのある坂を上がったり、下がったり
鳥の声と緑のにおい。地下鉄の改札から地上に出て、ほんのわずか歩いただけなのに、都心の喧噪はいずこやら。神田川沿いの遊歩道には桜並木が続いて、のどかな雰囲気が漂います。ひときわ甲高くキイキイと鳴いているのは、おそらくヒヨドリ。午前中は特に、都会でも鳥たちの声がにぎやかです。
遊歩道を歩いていくと、右手に見えてくるのが「ホテル椿山荘東京」の冠木門。ここから庭園内に入ってみることにしましょう。明治時代、山縣有朋の邸宅と庭園であった約2万坪の敷地内には、約100種類の椿が育ち、5月ごろまで咲く品種もあるといいます。椿や季節の花々を愛でながら、三重塔や伊藤若冲が下絵を描いた五百羅漢像など史跡めぐりをするのも風流です。
ホテルの正門から目白通りへ出ると、目に飛び込んでくるのは「東京カテドラル関口教会 聖マリア大聖堂」。静々と中に入ってみると、祭壇の十字架の後ろから差し込む光の美しさにしばし言葉を失います。聞けば、ステンドグラスではなく、薄い大理石が使われているのだとか。荘厳な太陽の透過光。心清らかに落ち着く時間です。
さて、次は「永青文庫」へと向かいます。木立の中に佇む、白壁と緑青色の窓枠が印象的な建物は旧細川侯爵家の家政所(事務所)であったもの。「永青文庫」から胸突坂を降りる途中には「関口芭蕉庵」があります。松尾芭蕉は1677年から4年間、神田上水改修工事の監督として、緑豊かなこの地に居を構えたのだとか。
-2013年和樂6月号より-
目白の旅後半はこちらから