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2019.08.20

縄文人もミーハーだった!縄文中期の最前線トレンドは「信州ブランド」の黒曜石【長野】

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縄文人の謎のこだわり、信州産黒曜石

縄文時代には、(たぶん)誰もが欲しがった黒曜石ですが、しかし黒曜石であればなんでもよかったというわけではなかったようです。不思議なのは、縄文人が「ムダに」産地にこだわっていた、ということです。

良質な黒曜石の採れる「名産地」と呼ばれる場所は全国に数箇所あり、どこで採れたものであったとしても、黒曜石の実際的機能に違いはありません。どこのものでも、問題なく石鏃にも包丁にも加工でき、切れ味に違いがあるということもありません。にもかかわらず、なぜか縄文人は「信州産」の黒曜石をこぞって欲しがったというのです。ここでは、学芸員の村田さんに聞いた信州産黒曜石の「ブランド化」のお話をご紹介します。

①ムダに黒曜石を取り寄せる奈良の縄文人

縄文時代に活躍した刃物はもちろん黒曜石だけではありません。実際、刃物といえば「東の黒曜石、西のサヌカイト」という構図があったと村田さんはいいます。サヌカイトとは、鋭い切れ味を持つ岩の一種で、弥生時代には戦争に使う武器として全国的に流通しました。黒曜石のあまり採れない西日本では、このサヌカイトが黒曜石と同じような役割を果たしていたようです。しかし不可解なのは、まさにサヌカイトの原産地であり、黒曜石を利用する文化のない奈良県でも、信州産の黒曜石が出土しているということ。(!)奈良の縄文人は、生活に必要のない黒曜石を、わざわざ遠く信州まで取りにいっていた、あるいは取り寄せていたということです。


サヌカイト(Wikipediaより 吉田有岐撮影)

②地元にもあるのに、なぜか信州産が欲しい北海道と青森の縄文人

日本で黒曜石の採れる火山は、無論八ヶ岳だけではありません。むしろ、国内最大規模の産出量を誇るのは北海道なのです。にもかかわらず、信州産の黒曜石は、600km以上離れた青森県でも、なんと北海道でも出土しています。青森なら、どう考えても北海道のほうが近いですし、北海道にいたっては、国内最大規模の採掘地が目と鼻の先にあるのにもかかわらず、です。


北海道産黒曜石で作った石鏃。右は村田さん製作、左は私、笛木が作りました。(照)

③単なる実用品を超えた「ブランド品」

北海道産の黒曜石は、量、質と共に国内ナンバーワンですが、実は縄文人にはあまり人気がなかったようで、東北以南では見つかっていません。一方信州の黒曜石は、北は北海道から南は奈良まで、黒曜石を必要としない地域にまで広く流通しているのです。もし、縄文人にとって黒曜石が単なる実用品にしかすぎなかったのだとしたら、産出量と流通量はある程度比例してもいいはずです。縄文人が、海を超え、山を超え、苦労してでもどうしても手に入れたかった信州の黒曜石は、実用を超えた「ブランド品」としての価値がついていたのかもしれません。

書いた人

横浜生まれ。お金を貯めては旅に出るか、半年くらい引きこもって小説を書いたり映画を撮ったりする人生。モノを持たず未来を持たない江戸町民の身軽さに激しく憧れる。趣味は苦行と瞑想と一人ダンスパーティ。尊敬する人は縄文人。縄文時代と江戸時代の長い平和(a.k.a.ヒマ)が生み出した無用の産物が、日本文化の真骨頂なのだと固く信じている。