大正、昭和と、数多の文豪に愛されてきた熱海の名店をご存知ですか?熱海といえば美術愛好家に愛されるMOA美術館もあり、話題を集めているスポットです。美術館を楽しんだあと、少し足をのばして熱海の名店を巡るのも旅の大きな楽しみになります。
志賀直哉が愛した「レストラン スコット」のビーフシチュー
上野の老舗洋食店や横浜のホテルの厨房で腕を磨いた初代が、昭和21(1946)年に熱海で開業。
東京の奥座敷と呼ばれた熱海には、政財界から芸能・文学・芸術界まで、多くの人が逗留しましたが、志賀直哉(しがなおや)が気に入っていたのがここのビーフシチューです。1週間かけて仕込んだデミグラスソースで5、6時間煮込むというレシピも味も、当時のまま。とろりと舌でほぐれる優しい味わいは、この店の佇まいのよう。昭和のご馳走は、いまだ健在です。
ビーフシチューのほか、チキンカツや小海老とマカロニのグラタンなど、洋食屋の王道的メニューが多数!戦後間もなくの物がない時代も、苦労して手に入れた食材ですき焼きをつくったりなど、客の注文に応じた。
WEBサイト:レストラン スコット
太宰治が『人間失格』を執筆した地「起雲閣」
池泉回遊式庭園を囲むように建てられた、和洋の建築が美しい起雲閣。熱海の三大別荘といわれた名邸のひとつが基となるここは、大正から昭和にかけ、海運王、鉄道王、ホテル王と呼ばれた名士によって受け継がれてきました。
昭和22(1947)年には旅館として開業。熱海を代表する名宿として多くの文豪が逗留しましたが、現在は公開施設に。静けさと豊かな緑、そしてモダニズム建築。リニューアルでますます魅力的になったMOA美術館とともに訪れたいアートスポットです。
政財界で活躍した内田信也により大正8(1919)年に建てられた日本建築、昭和4(1929)年に根津嘉一郎が建てた洋館に加え、文化交流施設として貸し出しをする音楽サロンなども。
WEBサイト: 起雲閣
横山大観が愛した「本家ときわぎ」の和菓子
2018年に創業100年を迎える和菓子処。初代は熱海びいきの文人たちとも深い親交があったとか。
現在の建物は戦後建て替えたもの。京都の宮大工の手により、外観のインパクトもさることながら店内の折上小組(おりあげこぐみ)格天井も見事!
本煉(ほんねり)、小倉、柚子など7種類の羊羹や、ぷるぷるっとしたやわらかさが身上のきび餅、香ばしい最中など、お菓子はどれも端正な風情。美しい掛け紙と掛けひもをまとったパッケージからも、この店の真摯さが伝わります。
菓子ケースに横山大観などが写っている写真も飾られている店内は、和菓子屋らしい佇まい。売り子の白衣と三角巾にも昭和レトロを感じる。店の片隅からは、香り高いきな粉をまぶしたきび餅を切り分ける包丁の音が聞こえてくることも。
WEBサイト: 本家ときわぎ
谷崎潤一郎が愛した「モンブラン」のモカロール
創業者は横浜のホテルなどで修業した料理人で、戦後まもなく熱海でフレンチレストランを開業。現在は洋菓子店ですが、ホテル時代にスイス人シェフから学んだというそのお菓子は、懐かしさも漂う美しさです。店名でもあるモンブランは、サヴァランに生クリームをのせた、白い山というその名のとおりの白さ!
多くの熱海びいきに愛されていますが、なかでも谷崎潤一郎はここのモカロールがことにお気に入りだったとか。
初代のころから変わらないというモカロールは、もともとコース料理のデザートとして出されていたもの。コーヒー風味のバタークリームとふわふわのスポンジ生地に、顔がほころぶ。りんごの季節なら、限定のアップルパイもぜひ!
WEBサイト: モンブラン