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2021.07.27

雨雨雨雨霧霧霧霧黒い北海道。地獄絵図となった「自転車不倫野宿ツアー2」

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僕のソロキャン物語 VOL.4 「自転車不倫野宿ツアー2.流れ者図鑑」

「ごめんなさいごめんなさい、もうワルイ事はしません」
ひとりでの自転車キャンプ旅で、ひどい土砂降りにやられ、峠をヒーヒーしながら上ってる時に、過去にケンカした女性を思い浮かべ、いつも頭の中で謝り倒している。
しかし天は許してくれるはずもなく、空しくもさらにひどい雨になるのだった。
自分の最初の試練は、忘れもしない1997年の夏、北海道だった。

2度目の北海道自転車キャンプ撮影旅

1996年、この連載の第1回で記した林由美香との自転車不倫野宿ツアーは、AV版では「わくわく不倫旅行 200発もやっちゃった」というタイトルでリリース、しかし本作はAVとしては初の劇場映画として「由美香」というタイトルで、劇場でも公開された。

  • 映画『由美香』が引き金になった、僕の最初のキャンプ旅〜自転車不倫野宿ツアー〜
  • これがキッカケとなり、自分は自転車旅と北海道に魅かれ、翌年の1997年に入ってすぐに世界一周もできるキャンピング自転車を手に入れ、次に備えた。

  • これがあればいつでも大脱走できる。ポータブル家出セット、僕の大旅行用自転車について
  • そして、自転車不倫野宿ツアー第2弾も、AV版と劇場版のドキュメンタリーを制作する事になった。
    次の女性のお供は、前回の林由美香のようなプロ女優の女性ではなく、AV初体験、演劇&自主映画作家のAという女性(20年以上昔の事とはいえ、本作ドキュメンタリーでは女優本人との関係性が修復されておらず、本人のお気持ちを考慮し、この記事においては、お名前を伏せる事に致しました。ご了承下さい。筆者)で、今回はカメラを2台用意し、お互いに撮り合いながらの旅という事にした。
    今回も不倫といえば不倫になるのだろうが、それなりの関係ではあったが、どちらかと言うと子弟関係に近い感じだったのだと思う。

    この旅が、自分のキャンピング自転車の最初の旅となった。
    この年の6月に自転車は完成し、翌月7月の中旬に、当時まだ東京の有明から出航していた船に乗り込み北海道の釧路に上陸した。

    この旅では前回のような明確な目的地はなく、北海道の外周を約一か月半ほど放浪するスタイルを取った。同じように放浪している人たちに興味を持っていて、そんな人たちも映画に登場してもらおうと思ったので、映画タイトルを「流れ者図鑑」とした。

    当時、林由美香にフラれた痛手もあり、次はそれを払拭するような勢いのあるものを作りたかった。

    映画「由美香」の旅の時に描いた妄想の図。次はこんな女性と旅できたらいいなと思った

    新たにフレッシュで上昇志向が強いAという女性と共に、出発する前は希望に溢れていた。
    きっと、二度目の北海道で、晴れて気持ちが開放的になり、スカッと抜けきったものを作る事ができるに違いない。

    そう信じ切って出発した。

    しかし、この時は、まさか一か月に渡る悪天に見舞われ、キャンピング自転車を作った最初の旅なのに、今までの旅の中でも最悪の部類に入るものになろうとは、夢にも思っていなかった。

    映画「流れ者図鑑」旅日記より。妄想を実現させようと、実際に行動を起こしたが…

    一か月に渡る悪天

    北海道には「梅雨」は無い。
    通常、皆様がイメージする北海道は、晴れた空、果てしなく広がる台地、爽やかな風、などだろう。
    自分もこの旅の出発前は、そう思っていたし、前年の旅でもそのイメージはあった。

    しかし、後に何度も北海道に行った感触では、この土地は「梅雨」こそ無いものの、
    「同じ天候が長く続く」という特徴を持っているようだった。

    例えば晴れると、同じ晴れパターンが一週間~二週間ぐらいは平気で続く。
    雨や曇りでも同じだった。いったん雨になると、次の天候にチェンジするまでしばらく期間を要する場合が多いのだ。

    この撮影旅は、よりによって一か月もの悪天が続いた。
    ここまで長いのも珍しいかもしれないが、これは事実だ。
    しかも冷夏。
    7月末から8月末ぐらいの間、晴れたのは数日で、しかも半日持たず、すぐに曇天に変わる。
    真っ黒い雲が二人の自転車を追いかけてくる映像さえ撮れた。

    北海道の黒雲

    釧路に船で上陸し、反時計周りで、道東方面に、根室、知床、などを周り、オホーツク海側に出て網走などを通過して北上した。
    この間、オホーツク海の上空に冷たい低気圧がしばらく張り付き、低温注意報が発令された。
    8月なのに最高気温が8度という状況が何日も続いた。

    この時、自分はまだ北海道の旅は二度目である。
    服装も、そこまでの防寒服は用意しておらず、雨、霧に加え、低温での長期テント生活、8月なのに各地の店などは室内で暖房をたいていた。
    想定外の状況が続き、相棒のAと共に、少しづつ精神が蝕まれていった

    「流れ者図鑑」旅日記

    グリーンの色がA、茶色が平野
    お互い、交互に毎日書いていた

    蝕まれる精神

    天候というのは、人の精神にかなりの影響を及ぼす。
    長期の自転車旅、テント生活だと尚更である。

    晴れていれば美しい大地も曇天や雨ならただの荒野に見える、冷たい雨に打たれれば体温は奪われ、洗濯ものも乾かす事が難しく面倒な事が増える。
    カメラや撮影機材にも気を使う事が多くなり、テントの撤収もかなり面倒で、考えねばならない。
    雨の場合、走らず停滞する事も多いが、曇りだったとしても、出発時の心のテンションは下がる。
    まだ免疫ができていない二度目の北海道は過酷であった。

    道中、ついにテルテル坊主を作り、自転車に括りつけて走った。

    そして、初参加のAはAVに対する免疫はもちろん無く、この作品の場合、最終的には他の旅人との「からみ」も考えていた。
    彼女に対しては恋愛感情や情もあり、自分以外の男性に「からみ」をお願いする抵抗心や、複雑な感情が、道中、揺れ動いた。

    そんな状況で、イライラも募り、北海道の黒い空と共に自分の精神はおかしくなった。
    網走の漁港で二人で外で弁当を食べている時、Aのちょっとした言動(何を言われたか覚えていない)で突然、自分はキレて、弁当を地面に叩きつけ暴れた。

    これが皮切りとなって、二人とも精神異常に突入していった。

    オレは事故で故障したビデオカメラを路上で繰り返し蹴り上げ、Aは、誰もいないサロマ湖のほとりで、カメラに向かい、たった一人絶叫した。

    「楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい楽しい」

    Aは上昇志向が強く、逃げるという術を選べず、自分の身を守るため狂気という檻に入らざるをえなかった。
    「楽しくありたい」
    楽しくできるはずがない状況で、逃げる事もできず、この状況を楽しく乗り切ろうとする事で、必死に身を守ろうとした。

    「楽しい楽しい楽しい」という彼女が繰り返しつぶやく言葉は、もはや空しい呪文のように、黒い雲の北海道の原野に響いた。

    狂気の映画「流れ者図鑑」

    その後、二人の狂気は稚内で爆発、一時、沈静化もするようにも見えたが、結局は問題は解決する事もなく、それは旅が終わって、映画が完成されても、修復される事は無かった。

    Aは、その後、オレの悪口を各所に書き散らし、映像の世界から足を洗い、今は何をしているのか不明である。

    当時の「流れ者図鑑」パンフレット。Aとは公開前に絶縁状態となったため、映画の感想をお願いした著名人を招いての座談会で収録された



    前回の「由美香」の旅とは違い、ハッピーエンドは無かった。
    これが、キャンピング自転車を作って最初に受けた雨と狂気の洗礼の旅だった。
    それ以降、何度も北海道を旅しているが、ここまでの長期間、黒い雲に覆われた旅は一度もなかった。
    一体あれは何だったのか?

    完成した「流れ者図鑑」という映画は、人がどうやって狂気に囚われていくのか?が正確にわかる狂気が充満している映画だ。

    旅の最後の日にAが書いた日記
    この後、今でも途切れたままだ。

    なんのかんのと非常に貴重な記録を撮影する事ができたAには、今は感謝をしている。
    おそらく、彼女の中ではいまだに打撃を受けたままで、この映画は抹殺したいぐらいだろう。
    自分が許されなかったとしても、記録は残る。
    その一点だけでも良かった、というのが、自分の正直な気持ちだ。

    みなさまも、長期ソロキャンの場合、黒い雲と雨には、ご注意を。
    日本の雨は、人を狂わせるのに十分な力を持っている。

    僕のソロキャン物語

    書いた人

    映画監督  1964年生 16歳『ある事件簿』でマンガ家デビュー。『ゲバルト人魚』でヤングマガジンちばてつや賞佳作に入選。18歳より映画作家に転身、1985年PFFにて『狂った触角』を皮切りに3年連続入選。90年からAV監督としても活動。『水戸拷悶』など抜けないAV代表選手。2000年からは自転車旅作家としても活動。主な劇場公開映画は『監督失格』『青春100キロ』など。最新作は8㎜無声映画『銀河自転車の夜2019最終章』(2020)Twitterはこちら