福井県小浜市から約20㎞離れた矢代という集落にある「民宿かどの」。ぎっちりと身が詰まった600g以上の大ぶりの鯖(さば)を使用し、自家製のへしこを製造しています。国産鯖と無農薬栽培の糠(ぬか)を使用したへしこが評判を呼び、今では年間製造数の1000本のうち、半分が売約済み。すべて口コミで注文がくるといいます。そんな幻のへしこの魅力を探るべく、「民宿かどの」を営む角野(かどの)さん一家を取材しました!
国産鯖と無農薬栽培の糠にこだわった、保存食の逸品
親子3人で営む「民宿かどの」は、釣り船と民宿、そして最近は水産加工品も手がけている
「国産鯖と無農薬栽培の糠を使うのが、うちの方針。それに余分な調味料をまったく加えていないのも魅力なのかもしれません。口コミの力はすごいですね」と息子の角野高志さん。
へしことは、鯖や鰯(いわし)、イカなどさまざまな海の幸を塩漬けしたあとに、約1年もの間、糠に漬け込んでつくる保存食。へしこという不思議な呼び名は、押し込むことを「圧(へ)し込(こ)む」と呼んだという説や、魚を塩漬けにしたときに出る干塩(ひしお)がなまったとの説があります。
糠がおいしいので、洗い落とさずに糠をつけたまま、ほんのりと弱火で炙るとよいという
炊きたてのごはんに、少し焦げた香ばしい「へしこ」をのせて、ハフハフと飯をかき込む。角野さん親子3人がつくるへしこは、塩辛さと魚のうまみが渾然一体となっています。野性的で、コクのあるおいしさといったらもう、これほどのご飯のお供はほかにありません。
鯖街道で有名な小浜の鯖も、近年は漁獲量が減少し、年間を通じて供給が見込めるノルウェー産の鯖が原材料のほとんどになってしまいました。もうひとつは、現代人の舌の変化。塩分を控えたいという健康志向から、調味液を加えた減塩のへしこが生まれ、こうした商品が市場を席巻(せっけん)するようになったのです。
桶の周りに白く見えるのが酵母で、夏に働きが活発になる。塩分は約20%もあるが、この高濃度の塩水が雑菌の侵入を未然に防いでいる
しかし、角野さんがつくるへしこは、昔ながらの製法で、素材の力を十全(じゅうぜん)に引き出したもの。塩辛さをうまみへと変化させるには、製造段階のそれぞれにポイントがあるといいます。
「血が臭みを生むので、とにかく鯖を漬け込む前に徹底的に掃除すること。それと熟成の間の温度管理もすごく大切なんです」
こだわり抜いた糠と塩で、肉厚の鯖の中にうまみをしっかり保存している
へしこには生の鯖の3倍のビタミンB1が含まれます。ちびりちびりと楽しむ酒のアテとしても、実に優秀なへしこ。糠の食文化を象徴する非凡な味がクセになります。
ここに取材しました!
◆民宿かどの
住所 福井県小浜市矢代4-42
公式サイト