インドネシアは、2億5000万人もの人口を誇る国である。
これだけ国民の数が多いと、経済成長もダイナミックな形になる。最近ではミドルクラスが増え、国内消費も増加している。ただでさえインドネシアは「内需の強い国」と言われ、リーマンショック最中の時ですらもGDPのプラス成長を達成した。
それがミドルクラス増加というイベントを迎え、消費動向はますます盛況になってきている。
その中で特に注目されるのが、飲食業界だ。
日本でもお馴染みのあの飲食店も、インドネシアにこぞって進出している。
高級ショッピングモールにうどん店が
グランド・インドネシアは、ジャカルタ中心部にある高級ショッピングモールである。
インドネシアのショッピングモールは、アミューズメント施設に似た機能も備えている。休日になると家族連れの客が車に乗って首都圏各地からやって来る。中にはメイドを同伴させた富裕層のファミリーも見受けられる。
そんなグランド・インドネシアの3A階にレストランコーナーがある。ここの目玉飲食店は、日本の丸亀製麺である。インドネシア人にとって、うどんという料理はかなり斬新なものだった。そもそもこの国にはあまり麺料理というものはない。せいぜい大手食品メーカーのインドフードが販売するインスタント麺かビーフンくらいで、あとは中華料理店やイタリア料理店に行かなければ本格的な麺にはありつけない。
また、インドネシアの料理は基本的に油を多く使う。ナシゴレンにしろ鶏肉料理にしろ、必ず油を使って調理する。それがあるから、インドネシア人にとってのうどんは「あっさりとした麺料理」という認識のようだ。
インドネシアの吉野家
グランド・インドネシアの丸亀製麺にはファミリー客だけでなく、昼休みの会社員も訪れる。
ホワイトカラーが高級ショッピングモールを訪れて平均よりもやや高めの昼食を楽しむ、というのはよくあることだ。
たとえば、このグランド・インドネシアには吉野家の店舗もある。牛丼の吉野家だ。しかし日本の店舗とは、その雰囲気が大きく異なる。大工や左官、鳶の諸兄が腹を空かせながら吉野家に駆け込む光景は、日本では珍しくない。一方でインドネシアではそういうことはあり得ない。この国の肉体労働者は、モールの外にあるカキリマ(移動式屋台)で一服済ませる。無論、カキリマの飯のほうが断然安い。
即ち、インドネシアの吉野家は「ホワイトカラー向けの飲食店」なのだ。もちろんワーキングクラスに属する家族が休日に吉野家で食事をすることはあるが、それはせいぜい月に一度か二度のものである。
ココイチもある!
若い頃の筆者は、今よりも大飯食らいだった。
CoCo壱番屋に行けば、必ず1kgのカレーライスを注文していた。さすがに今では胃が追いつけないが。
実はグランド・インドネシアにもCoCo壱番屋が進出している。こちらも現地市民には大人気だ。だが、インドネシアのココイチは先述の吉野家と同じように、あくまでもホワイトカラーかファミリー向け。ライスの量は500gまでである。そうとは知らずに「1kgでお願い」と店員に頼むと、変な顔をされるので要注意だ。
ともかく、東南アジアの飲食業界では日系企業が存在感を発揮している。
去年、マレーシアのクアラルンプールに渡航した時のことだ。この当時はクールジャパン機構の出資する伊勢丹が不調で、そろそろ身売りするのではと噂されていた。国庫が関わっているクールジャパン機構に対しても相当な批判があった。「メイド・イン・ジャパンの製品は、実は魅力的なものがないのでは」とも言われていた。
この時の伊勢丹の店内が閑散としていたのは事実だが、それと正反対に大いに賑わっていた一角もあった。それは飲食店フロアだ。
「小売がダメでも飲食では成果を出す」というのは、駐在員の間でも言われている日系企業の特徴である。大企業のみならず、地方の中小企業ですらも東南アジアに進出して成功を収めているほどだ。
話を元に戻してしまうが、インドネシアを始めとした東南アジア諸国ではそれだけミドルクラスが増えているということでもある。
食の多様化
GDPがある基準に到達すると、「食の多様化」という現象が発生する。
東南アジアは日本よりも極端な「米文化圏」である。ここで言う「極端」とは、東南アジアでは米以外の穀物をあまり栽培しないという意味だ。特に小麦は殆ど生産されない。
が、近年では小麦粉の消費量が飛躍的に伸びている。市民の生活水準が底上げされ、伝統的なメニューではないものにも手を出せる余裕が出てきたのだ。それがパンであり、菓子であり、小麦粉を使った麺である。
この「食の多様化」に追従できるだけのバリエーションが、日本料理にはあるということだ。