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2020.02.05

招き猫1000体がお出迎え!京都「猫恋寺」は御朱印も絵馬も猫づくしだった

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2019年3月に誕生した謎多き京都の新名所

千年の古都・京都は、実は「変わり種スポット」の宝庫でもあります。その中でも、斜め上を行く変わり種ぶりで、全国から人が訪れるのが、猫恋寺(みょうれんじ)です。

寺名に「恋」の文字が含まれているのも珍しいですが、「実は猫カフェや猫雑貨店の屋号でした~」というオチではありません。れっきとした、日蓮聖人門下 本門法華宗大本山妙蓮寺(京都市)の末寺として、2019年3月に創建したばかりの新しいお寺です。

ネットで検索してみると、猫恋寺の公式サイトはなく、関連情報もまばら。ただ、Facebookのアカウントは開設されています。それを見ると、日々更新され、ひたすら招き猫の人形や絵、とくに招き猫が描かれた御朱印を撮った画像がアップされています。

猫恋寺のFacebookページ

写真画像は日替わりですが、文面は毎回同じ。「招き猫御朱印 完全予約制090-82380307市瀬俊照 京都市中京区御池通堀川交差点南側を東を南へ鍛冶町177」などと、基本情報のみが記されています。

「完全予約制」というのが気になりますね。どういったお寺なのでしょうか。予約の電話をして訪れました。

そこは招き猫に埋め尽くされた異空間

猫恋寺は、世界遺産・二条城から歩いて2分のところにあります。路地を入って行くので、少しわかりづらいかもしれませんが、下の写真のとおり、カラフルなのれんが目印です。左手に「御朱印処」と表札があり、のれんに「猫恋寺」と印刷されているので間違いありません。

のれんがはためく猫恋寺の寺門(?)

でも、そのたたずまいは、どう見てもやや古びた普通の民家。お寺っぽさは微塵もありません。「もしかしたら何かの間違いかも」と思いつつ、意を決して中に入ります。

玄関の引き戸を開けて、目に飛び込んできたのは、招き猫の数々。福助人形といった郷土玩具も混じっていますが、圧倒的に招き猫が多いです。その数は1000体に及ぶとか。

壁という壁に招き猫がびっしり

でも、どことなくシュールな雰囲気も…ここは愛猫家が集う桃源郷か、はたまた修羅の地か? 思わず神経が張り詰めます。

ですが、応対してくれた方の柔和な笑顔に、緊張は吹き飛びました。この方が、猫恋寺の住職・市瀬俊照(いちのせしゅんしょう)さんです。

猫恋寺の住職・市瀬さん

外も中も民家ですが、それもそのはずで、ここは市瀬さんのご自宅。ここを自宅兼お寺として使い、拝観者を受け付けているそうです。お子さんは独立され、今は一人暮らしだそう。

御朱印や絵馬もひたすら招き猫

ちょうどこの時、遠方からお見えの拝観者が1人来ており、市瀬さんはその方のために御朱印を描いていました。

御朱印帳を見開きにして、2匹の招き猫が丁寧に描かれていきます。時間にして10分余りでしょうか、仕上がった御朱印は、いかにも福を呼びそうな雰囲気を放っていました。

拝観が事前予約制で、しかも1日5人限定というのは、御朱印を描くのに時間がかかるからだそうです。

御朱印の種類もとにかく豊富。上の見開き御朱印は、「迷ったらこれ」というベーシックなものです。

観光プランが詰まっていて忙しい人向けに、すぐに渡せる書置きバージョンもあります。

日付以外は既に描いてある書置きの御朱印

市瀬さんは、蛇腹式の縦長の冊子を持ってきました。開いて中をみると、そこにはあまたの招き猫の絵が! 拝観者に、この中から好きなものを選んでもらって描くための、御朱印の見本帳だそうです。

バリエーション豊かな招き猫の絵が載る御朱印の見本帳

さらには、十数ページに及ぶ、多くの招き猫と経文が入った御朱印もあります。この場合は完成まで2~3日要するため、御朱印帳をいったん預かって、出来上がったら送るか、引き取りに来てもらうかたちとなります。こちらの朱印料は5千円となります。

全部で十数ページにもなる経文入りの御朱印

絵馬すらも猫まみれでした。猫恋寺には奉納するスペースはないので、持ち帰って裏に願い事を書き、室内のよく見える場所に安置します。

4種類ある絵馬は、それぞれ2匹の招き猫が願い事を引き寄せてくれるそう

本山は由緒ある京都市内のお寺

ここまでくると「すごい」の一言に尽きますが、これはぜひとも市瀬さんが猫恋寺を創建したいきさつを知りたくなりますね。

冒頭で記したとおり、猫恋寺は、妙蓮寺の末寺としてスタートしています。

妙蓮寺の由緒を読むと、「日蓮大聖人より京都布教のご遺言を託された日像聖人が入洛し、初めて草履を脱いだ道場です。日像聖人により日蓮聖人の御教えは京都へ伝わり広まりました」とあります。つまり、草創期(13世紀)の日蓮宗(法華宗)を京都に広めた立役者であったわけです。

下って安土桃山時代には、「1キロ四方の境内に27ヶ院を有する大寺院」であったものの、天明の大火(1788)によって大打撃を受け、寛政元年(1789)に復興して今日に至るとあります。

現在の妙蓮寺本堂

市瀬さんが、この妙蓮寺と縁ができたのは、およそ30年前。

「寺で、郷土玩具を写生する会というのがあり、その時、妙蓮寺塔頭・圓常院の住職の佐野充照(さのじゅうしょう)さんと趣味が合って一緒にどこかへ行ったりしていました。そして、お寺の法事などをお手伝いするようになったのです」と市瀬さん。

頼まれて描いた約100枚の御朱印が転機に

2018年夏に、市瀬さんに転機が訪れます。佐野さんから電話がかかってきて「御朱印に招き猫を100枚ほど描いてほしい」と頼まれたそうです。折からの御朱印ブームで、市瀬さんは快諾し、これによって招き猫の御朱印を描くという流れができました。

実は、市瀬さんは、個展を何度か開催するほどの力量を持った絵師でもあります。近々、グループ展にも参加する予定だそうで、出展予定のゴッホをオマージュした絵も飾られていました。

市瀬さんによるゴッホを題材にした絵

一時は、郷土玩具全般も描いていたのですが、雑誌の取材を受けた際に取材者から「招き猫に絞ってみてはどうですか」とアドバイスがあり、それ以来招き猫オンリーへと路線転換したそうです。展覧会へ出す絵は、どちらかといえば余技のようです。

妙蓮寺・佐野さんの依頼による招き猫の御朱印を描き終えてしばらくしたら、今度は佐野さんから、「ギャラリーで展覧会を開催してもあまり人が来ないから、自分のところでやってみてはどうか」とすすめられ、猫恋寺という「お寺の名前をもらい」、2019年3月に住職としてデビューしたというわけです。得意の招き猫が奇縁となって、お寺まで開いてしまう。縁とは誠に異なものだと思いませんか?

お寺ができて1年足らずですが、市瀬さんに今後の展望をうかがうと、「団塊の世代なので、生活の資として年金をもらいつつ、御朱印など描きながら地道に寺の活動を続けたいです。仏教の中でも一番開けた日蓮宗・法華宗ということで、仏教の説法といったものよりも、お寺でレコードを聴く会を開くなど、趣味にからめた草の根活動がいいですね」と答えられました。

猫恋寺は、まだ知る人ぞ知る存在ですが、SNSの口コミで各地から毎日のように人がやってきます。猫が好きで、御朱印も好きであれば、ぜひ立ち寄ってください。

猫恋寺 基本情報

住所:京都市中京区御池通り堀川東入ル下ル 鍛冶町177
電話:090-8238-0307(要予約)
Facebook:https://www.facebook.com/招福山-猫恋寺しょうふくざん-みょうれんじ-374464859988990/

書いた人

フリーライター。北国に生まれるも、日本の古くからの文化への関心が抑えきれず、2019年に京都へ移転。趣味は絶景名所探訪と美術館・博物館めぐり。仕事の合間に、おうちにいながら神社仏閣の散策ができるYouTube動画を制作・配信中→Mystical Places in Japan