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2020.03.14

日本の歴史上3度目の危機!高齢化問題を乗り越えた先に桜の黄金時代はやってくるのか?

この記事を書いた人

桜が大好きな私だけではなく、桜好きなら誰もが一度は憧れませんか?
桜の開花前線と共に南から北上する日本横断の旅。
これができるのも現在、日本の8割以上の桜がソメイヨシノであるからだと言われています。

そうはいっても、憧れの吉野山で満開に咲き誇る吉野桜に初めて出会えた時は、その壮大な光景がやはり圧巻の美しさだったので涙が出るほど感動し、夜桜にも酔いしれました。
さらに、地方へ行くほどソメイヨシノ以外の桜にも出会える頻度も増して、感動もひとしお!
都市部などではソメイヨシノばかりが目につきますが、開花時期が重なれば出会える地方にあるそれ以外の品種の桜も素晴らしく、多彩な中にあるからこそ、余計にソメイヨシノの素晴らしさも引き立っていました。

でも、美しく咲く桜が無ければ、このようなある意味、贅沢とも言える旅も実現しません。
というのも、日本全国の桜の高齢化が進んでいるという事実があるからです。
桜の名所にある桜の存続問題も各地で深刻さを増しています。

日本の桜は現在、3度目の大きな危機に直面している


日本の桜は、今回で3度目の大きな危機に直面しているとのこと。
ご存知でしたか?
この危機の話をする前に、この3度の危機にさんざんな思いで関わってきている現在の日本の桜の大部分である「ソメイヨシノ」の品種について少しご説明します。

桜の危機とソメイヨシノ

桜は大ざっぱに分けると2種類あり、日本に数十種類ほどある原種の「山桜」とこの山桜を品種改良した園芸品種の「里桜」に分けられます。
桜はもともと突然変異によって新しい品種が生まれやすいので、品種改良がしやすいことでも知られています。
日本の歴史上1番の桜の黄金時代とも言われている江戸時代末期頃には、里桜である桜の園芸品種が300種類以上ほどもの数まで増え、日本中には様々な種類の桜が咲き誇っていたとのことです。

クローンで増やしたソメイヨシノ


そんな桜の黄金時代に染井村の職人によって発見された突然変異で誕生した桜の品種「ソメイヨシノ」は、エドヒガンザクラとオオシマザクラの自然交配種。
その美しさから、この桜の品種を後世に残すために増やすことになりましたが、桜の仲間は、同じ遺伝子同士では交配できません。
言い換えれば、同じ木の花からは種が作れないのです。
そこで、接ぎ木をして増やすことになりました。
この方法だと、同一遺伝子のものが増えていくので、クローンと同様になります。

だから、日本で現在大部分を占めているソメイヨシノは、桜の花が咲くタイミングもほぼ同じ。
日本各地に植えられているソメイヨシノであっても、温かい気候の南から春の訪れに少し時差がある北に向かって、次々と伝染するように目覚めを迎えて咲いていきます。
同じエリアのソメイヨシノの桜であれば、同時期に咲き、同時期に散っていくのもこのためなのです。

日本の桜史上、最初の大きな危機


江戸時代末頃に誕生したソメイヨシノは、明治時代以降に全国に爆発的に拡がっていきました。
ソメイヨシノは生育のスピードが早く、わずか数年の若い木のうちから花が咲き、数十年で大木となります。観賞用の桜としてこれまでになく見栄えも素晴らしいとあって、これまで数百種類も多彩にあった里桜をそっちのけにして、人々はこの新しい品種の桜に夢中。

しかし、この人気を急激に押し上げたのは、実は、明治維新での新政府だったと言われています。この政府は、その前の時代の徳川時代から続いている様々なものを一斉に排除しましたが、桜も例外ではなかったのです。桜の名所となっていた場所にあった山桜さえも新しく誕生したこのソメイヨシノに植え替え、全国の桜をソメイヨシノ一色に置き換えていきました。

この政府の動きにより、武家屋敷や大名屋敷の庭園などに加え、神仏分離による廃仏毀釈(はいぶつきしゃく)で寺社仏閣の荒廃も加速。こうしたエリアに植えられていた園芸品種である様々な立派な里桜がぞんざいに扱われて、切り倒され薪にされてしまったものもたくさんありました。
これは、日本史上初めての里桜の絶滅の危機となりました。

明治維新の里桜の危機の救世主現る!

そんな里桜にとって救世主となったのが江戸(現在の東京)の桜を保護するために立ち上がった植木職人の高木孫右衛門(たかぎ まごえもん)。桜にとって地獄のような環境となってしまっている中でもかろうじて生き延びている桜の品種の種を絶やさないように、枝を分けてもらい、自宅の土地で84種類のサトザクラを保護し、増やしていきました。

その後、荒川の堤防を改修する必要がでてきた時に、この堤防を保護するため、これらの里桜を植えることを提案したのが政治家の清水謙吾。交渉の末、移植が決定。
78品種、3225本もの里桜の苗が荒川沿いの両岸に6km近くもの距離に渡って見事に移植されました。これまで庶民が見ることができなかったような全国の桜の優良品種が寄り集まった他に例が無い場所となり、まもなく、「五色桜」と呼ばれる桜の名所になっていきました。

さらに後には、様々な公園や公共施設などにも移植されていき、里桜が再び色々な場所で咲くようになり、絶滅の危機をようやく免れることができました。
また、国内だけではなくアメリカのワシントンDCにも12種、3020本もの桜が1912年に贈られ、ポトマック川の河岸を中心にホワイトハウスの庭でも日本の里桜の種が途絶えることなく存続しています。

日本の川沿いに桜が多い理由


前述の五色桜もそうですが、日本では、川沿いに多くの桜が植えられているのを多く見かけます。
そもそも河川沿いに桜が植えられるようになったのは、なぜだかご存知ですか?

昔、日本の治水設備が十分でなかった時代、大雨が降るたびに頻繁に川が氾濫するのを阻止するために低予算で行える苦肉の対策として、堤防の代わりに桜を植えることが考案されました。
それは、桜が満開になれば、お花見に大勢の人々が訪れるので、土手に盛られた土が大勢の花見客に踏み固められ、強固な土手が手っ取り早く自然にできあがる!と考えられたからなんだそうです。

このため、川沿いに堤防代わりとして、多くの地域で桜が植えられるようになったので、昔の名残りとしてこれがまだ現代でも残っている桜の名所も多くあります。
しかし、後述で説明しますが、この美しい光景もまもなく日本から消えてしまうのではないかと言われています。

日本の桜史上、2度目の危機

こんなに苦労して桜の種を絶やさないように多大な努力が注がれ続けてきたにもかかわらず、なんと、第二次世界大戦が始まると、燃料で使用される薪として、日本中の桜の木も再び次々と倒されていき、桜並木も消えてしまいました。
日本の桜は再び全滅の危機へ!!

1945年の太平洋戦争終結後、そこに残ったのは日本中の焼野原。
この大きな過ちと惨事からの早い復興を願いながら日本中の焼野原にソメイヨシノの苗木がたくさん植えられました。その後も何かのお祝いや記念行事があるたびに、この桜の品種の苗木が植えられるようになっていったので、あっという間にソメイヨシノが全国に広がっていきました。

日本の桜の名所づくりに貢献してきた公益財団法人 日本花の会だけでも、この財団が創設された1962年以来、これまでに200万本以上ものソメイヨシノの苗の提供を全国各地に行ってきたそうです。

日本の桜史上、3度目の危機が現在なのです!

このようにして戦後に再び一斉に植えられたソメイヨシノは、日本全国にある桜の8割以上を占めていますが、現在、一斉に高齢化問題に直面しています。

成長が早いことで知られているソメイヨシノですが、裏を返せば、この桜の寿命は他の品種に比べて短めで、一般的には60年ほどと言われています。
それでも、環境の良い場所で適切に育てられているものの中には、100年や200年以上も生き続けている長寿の桜もいます。

個体や生育環境の差はありますが、40年を超えると外観ではわからなくても木の内部が腐り始めているものも少なくないとのこと。平均寿命と言われている60年に達したソメイヨシノの内、8割もがいつ倒木してもおかしくないほど内部は腐っているらしいです。

とくに近年は桜にとっても非常に住みづらい環境の悪化が進んでいるとのことで、平均寿命もさらに短くなっていると言われています。
ソメイヨシノは非常に繊細な種で、些細なことで病気にもなりやすい。高齢になるほどそのリスクも高い。接ぎ木によりクローン化で増やされているので、1つが病気になると次々と感染していくスピードも速いので、全滅してしまう危機とも常に隣合わせ。

一斉に高齢化を迎えているなら、新しい苗木を植えるなどで世代交代をさせて対策を取ればよいではないかと思っている人も多いかもしれませんが、この桜が植えられた戦後と現在は社会事情や環境も大きく異なっており、新しい苗木を植えられないケースも結構あるんです。

日本全国の川沿いの桜が次々と消えていく!?

1998年に河川法の改正が施行され、川沿いの桜の運命と存続はこの出来事によって大きく変えられてしまいました。かつては、河川の堤防も兼ねて植えられた桜の木でしたが、この法の改正の施行以降、治水対策が理由で、川の堤防に木を植えることが一切できなくなってしまったからです。
根が弱ってくると地面にすき間が生まれるので堤防が決壊しかねない。植えた木が何かの理由で倒れれば堤防が機能を果たさなくなる。倒木によって川の水があふれてしまう危険性が高いなど…。

一足早い春を告げてくれる桜の名所 河津桜の危機


この河川法改正の施行で大打撃を受けたのが河津桜。
日本全国の中でも毎年一足早い春を告げてくれる静岡県河津町でしか見られない日本でも有数の早咲きの桜として、その名は国内だけではなく国外にも知られており、桜の人気名所の1つです。
お花見のメインとなる河津川沿いには、約4キロにも渡って800本もの河津桜の木が毎年満開の花を咲かせて、この並木道の絶景を豪華に彩っています。
日本人だけではなく世界からの観光客も多く、毎年100万人もの人々が訪れているので、地元の人々にとって、この桜による経済効果も非常に大きいと言われています。

河津桜の寿命は現在はっきりしたところは分かっていないらしいのですが、河津川沿いで偶然発見され、発見者の自宅の庭で大切に育てられている河津桜の原木は現在60年以上たっています。でも、外観上は元気で毎年素晴らしい花を咲かせているようです。そして、この原木から挿し木をして苗を増やし、大きくなった木々を河津川沿いに植えたのが40年くらい前。
河川法の改正案が施行されてから、この名所のメインとなる河川沿いには一切植えることができないので、現状ある桜をいかに長生きさせるかということに力が注がれているとのこと。その後のことはまだはっきりとは決まっていないそうです。

世界文化遺産にもなっている奈良県の吉野山の桜の危機


1300年以上もの長い歴史を持っている吉野山の桜。
この山の桜のほとんどはシロヤマザクラという山桜なので、ソメイヨシノよりも寿命が長く、80年から100年ほどあると言われています。
保全活動も古くから行われてきており、3万本もの桜を保全するために対策チームも古くからあり、現在も毎年300本以上もの新しい苗木を植え続けているそうです。

しかし、近年、若い木々が病気などで枯れてしまったり、樹木が弱って樹皮の生まれ変わりがなくると発生するウメノキゴケが多くの木々を覆ってしまったりという事態が発生しており、この桜の存続を脅かすような深刻な問題となっているとのこと。
昨今の異常気象などによる環境の変化が直接影響しているのかは定かではありませんが、高齢化問題よりも深刻となってしまっているこの桜の問題。本来、里桜よりも強いとされる山桜にこうした事態が起きているので、里桜も他人事としてみていられないという声もあります。

東京の桜の危機


都内の桜の多くもソメイヨシノの高齢化問題に直面しています。
若い苗木を植えて次のソメイヨシノが花を咲かせるまでの期間をうまくバトンを繋ぐことで、世代交代をしてこの問題を解決することもできそうに見えますが、人間の事情でこれができない場所が1番多いのが東京なのです。
植えられた当時とは大きく変化した現在の社会情勢や環境の中で、都内に植えられているソメイヨシノを中心とした桜たちも大きな絶滅の危機にさらされています。

戦後の焼野原状態とは異なり、現在、都内の土地は過密化しています。
都内でよく見かける道路沿いに植えられている桜も道路拡張、無電柱化などによる地下へのインフラの収納化などで妨げになるなどの理由で、様々な状況で厄介者扱いされています。
さらに、学校や公共施設にも多く植えられているソメイヨシノも花弁がコンクリートの上に落ちてこびりついた状態になると滑りやすくなり危ないので行政機関が頻繁に掃除。この費用がかかることも問題に…。

また、お花見でも同様のことですが、校庭などに植えられた桜の根本付近がある土の上を人が座ったり、走ったりなどして踏圧すると繊細な桜の木の根は傷ついて一気に弱るので、寿命も一気に短くなってしまいます。これにより、植え替えの頻度が増すので維持管理費も含めてお金がかかるという問題。
さらに、ソメイヨシノが一気に満開に咲くお花見シーズンも問題が山積み。多くの人が集中することで引き起こされる交通渋滞、お花見でのマナーが悪くお酒に酔った人等にまつわる犯罪や事故の多発、お花見後に出るゴミ問題など…。

これらは、ほんの一例にすぎません。
でも、どれもすべて人間の事情。
さらに都内の桜は、環境の悪さから年々、寿命も短くなっています。
そんな環境下にあるソメイヨシノの桜が次々と消えていっていても、そのことにさえ気づかない人も大勢います。
時代の流れで変化せざるを得ないのは理解できますが、ぞんざいに扱われることとは別です。

高齢化問題を乗り越え、再び桜の黄金時代を迎えたい!!


日本の桜は、現在、3度目の大きな危機に直面していますが、この危機を引き起こしたのは、全てに共通して、人間の身勝手さではないでしょうか。

今回挙げた以外にも多くの桜の名所で行われている高齢化問題の取り組みや保全活動は、ソメイヨシノが寿命を迎える前に再びソメイヨシノを植えて、世代交代のバトン渡しのサイクルをつなげていくというものがほとんど。

そのかわりに、環境にあった場所で、歴史上1番の桜の黄金時代となった江戸時代のように多彩な桜が植えられ、それらが育っていける環境作りを行うほうが今後、素晴らしい未来の花が咲くのではないかと思っているのは私だけでしょうか。
多彩で多様性に溢れていることで、突然の出会いによる変異や進化で優れた桜が自然に生まれる確率も増えることでしょうし、ソメイヨシノ以上の桜を目にする日だって到来するかもしれません。

桜の高齢化問題によって様々な問題も浮き彫りになってきていますが、過去から学んで過ちを繰り返さなければ、今後、到来するのは、桜の危機ではなく、桜の黄金時代!
その日が来るのを心から願っています。

書いた人

猫と旅が大好きな、音楽家、創作家、渡り鳥、遊牧民。7年前、ノラの子猫に出会い、人生初、猫のいる生活がスタート。以来、自分の人生価値観が大きく変わる。愛猫を連れ、車旅を楽しむも、天才的な方向音痴っぷりを毎度発揮。愛猫のテレパシーと自分の直感だけを頼りに今日も前へ進む。