Travel
2020.05.13

この花の下にはお宝が?世界遺産でRPG!石見銀山妄想クエスト

この記事を書いた人

「この花がある地底にはお宝が眠っているはず」
村人からの情報を手掛かりに、言われたとおり花が咲いている場所の近くの祠(ほこら)にザッザッザッと入って行く。
まるで初期ファンタジーRPGの一場面のようですが、想像力を働かせればこんな世界観が楽しめる場所が日本に存在します。遠い昔、海の向こうの人々に銀が眠る場所「HIVAMI」と呼ばれた島根県の石見。そう、2007年に世界遺産として登録された「石見銀山遺跡とその文化的景観」の主要な構成要素である石見銀山です。
さあ、妄想ファンタジーの旅に出かけましょう!

旅のはじまりは温泉津温泉

銀の山へ行く前に、HP回復(旅の疲れ回復)のために立ち寄りたい場所があります。島根県大田市にある温泉津(ゆのつ)温泉は、江戸時代の町割りがそのまま残る静かな温泉街で、国の重要伝統的建造物群に指定されています。世界に向けて銀を積み出していた港が近くにあったことから、港とともに栄えました。実はこの温泉津温泉の町も「石見銀山遺跡とその文化的景観」の構成要素のひとつになっているのです。

温泉街には元湯と薬師湯の2ヶ所の外湯があり、特に薬師湯は日本温泉協会の天然温泉の審査で「オール5※」の評価を得た最高級の天然温泉。毎日掃除しても付着する湯の華の層が、泉質の濃さを物語っています。これは回復系呪文ホイミ、ベホイミどころか、ベホマズンすら可能な温泉かも!?

透明な源泉は、空気に触れる事で薄い茶褐色のような黄金色のような色に変化していますが、季節や時間によってその色は微妙に違うのだとか。

※源泉、泉質、引湯方法と距離、給排湯方式、加水、新湯注入率の6項目を5段階で評価


「この辺に銀の山があるという噂を耳にしたんだけど」と宿で聞いてみると、「噂ではこの道の先にお宝が眠る山があるらしい」との妄想情報が!
温泉津温泉でHPがフルになった後は、そんなことを想像しながら石見銀山へ向かいます。

石見銀山遺跡とその文化的景観

石見銀山が世界遺産だということをご存知の方は多いでしょうが、実は石見銀山はいくつかある構成要素の一つで、ユネスコには「石見銀山遺跡とその文化的景観」が世界遺産として登録されています。“その文化的景観”には先ほどの温泉津の町並みも含まれています。
石見銀山は1527年に発見され、1923年の休山まで約400年に渡って銀を産出した世界有数の鉱山遺跡です。最盛期には世界の産銀量の約3分の1を占めたといわれる日本の銀。そのかなりの部分がここで産出されたものと考えられています。現代に生きる私たちは「日本は資源のない国」だと感じていますが、こんな時代もあったんですね。

画像:石見銀山世界遺産センター展示より

世界に知られた石見銀山

石見銀山の銀は、鉱石から銀を吹き分ける灰吹法(はいふきほう)という精錬技術で生産されており、高品質で信用が高く、アジア諸国とヨーロッパ諸国の交易において重要な役割を果たしていました。
16世紀にヨーロッパで描かれた日本図には、Hivami(石見)の近くにArgenti fodinae(銀鉱山)の記載が確認できます。よく見ると「安芸」「長門」「因幡」らしき地名も見られて興味深い地図です。しかもこの地図、RPGぽくってワクワクしませんか?

画像:石見銀山世界遺産センター展示より(中村俊郎様所蔵)

世界遺産に登録された石見銀山の価値とは

石見銀山は
・世界的に重要な経済・文化交流を生み出した
・伝統技術による銀生産方式を豊富で良好に残す
・銀の生産から搬出に至る全体像を不足なく明確に示す
という点が評価されて、鉱山遺跡としてはアジアではじめての世界遺産に登録されました。
石見銀山には現在900余りの間歩(まぶ、銀を採掘する坑道)が確認されています。かつての製錬工房や生活の場が1,000ヶ所以上も残り、銀山と共に発展した大森地区には武家屋敷や商家が良好な状態で保存されていて、今なお歴史的景観を守るためにボランティアガイドや住民らが景観や環境保全に努めています。ドリンクの自動販売機さえウッディにデコレーションされていて、周囲の景色との調和の努力が感じられます。

画像:石見銀山世界遺産センター展示より

そんな昔ながらの景観が残る大森地区で、村人に山に眠るお宝について聞いてみたら「白い小さな花の下には銀が眠っているらしい」という妄想情報をゲット!!

白い小さな花を探して銀の眠る山へ

教えてもらった白い小さな花は「ハクサンハタザオ(白山旗竿)」といい、竿に白い旗が付いたような小さなかわいらしい姿。初夏に咲く花なので冬には花は見られません。もう一つの手がかりがハクサンハタザオと一緒に見かけることが多い「ヘビノネゴザ(蛇の寝御座)」(別名:カナヤマシダ)というシダ植物で、鉱山を探す山師の間では「金山草」とも呼ばれています。他のシダは冬になっても枯れませんがヘビノネゴザは冬になったら枯れるので、その昔、山師たちは冬には枯れたシダを探したそうです。

「ハクサンハタザオ」 画像提供:島根県三瓶自然館サヒメル/大田市観光振興課

鉱山とこれらの植物には関係性があって、ハクサンハタザオやヘビノネゴザは重金属を好み、高濃度で体内に蓄積する植物なのです。これらは“指標植物”ともいわれ、鉱床のある場所、これから入る坑道近くでも見ることができます。

「ヘビノネゴザ」 画像提供:島根県三瓶自然館サヒメル/大田市観光振興課

銀山の坑道「龍源寺間歩」へ

ハクサンハタザオとヘビノネゴザを手掛かりにお宝が眠る祠を発見!あ…、すみません。これも妄想です。ここは「龍源寺間歩(りゅうげんじまぶ)」。江戸時代中期に操業されていた坑道で、一般公開されています。間歩というのは銀を採掘した坑道のことで、石見銀山に600余りある坑道のうち龍源寺間歩と大久保間歩は見学することができます。

※龍源寺間歩は一般公開されていますが、大久保間歩は事前にツアーを予約する必要があります

いざ、坑道へ!

入るのに特別な装備や呪文はいりません。私がこんなに勢いをつけているのは、閉所恐怖症と暗所恐怖症のため(笑)
私のことは気にせず、みなさまはご心配なく楽しんでください。

入ってみての印象は「美しい…」。光と影のコントラストが幻想的な空間を作り出しています。はぐれメタルに出会えそう(笑)

坑道内では明治時代の機械堀りの跡とは異なる、江戸時代の手掘りの痕跡(ノミの跡)がよくわかります。
真っ暗な坑道の中の灯りは、サザエの殻に油を入れて灯す「螺灯(らとう)」が使われていたそうです。ボランティアガイドの方に見せていただきましたが、手元しか見えないような小さな灯りです。そんな暗い坑道で、経験と勘を頼りに銀の鉱脈を探り当てていたというのですから驚きです。

石見銀山の初期は地表から銀を直接掘り出していましたが、やがて鉱脈に沿って銀を追うように地中を掘り進めるようになりました。石見銀山の坑道の上下には同じような坑道が数多く存在しています。まさにダンジョン!

画像:石見銀山世界遺産センター展示より 大久保間歩の鉱床

龍源寺間歩では、“竪坑”という排水のための穴を何ヵ所も見ることもできます。スポットライトで照らされていますので、すぐにわかりますよ。
そろそろ外へ。

「リレミト!!」
あ、呪文はいりませんでしたね。龍源寺間歩の旧坑道の先には、外に繋がる新坑道(観光用の坑道)がありますので、万が一ひとりぼっちでも迷う心配はありあません。


石見銀山の鉱石の銀含有率は0.1%程度。1Kgで1gです。江戸時代に機械なしでこのような坑道をいくつも掘り、0.1%の銀を求めた鉱夫の仕事は重労働。そのかわりお給料はとても良かったようです。
“福面”という今でいう防塵マスクのようなものや、新鮮な空気を送る送風装置も使われていましたが、石塵や油の煙で肺がやられ平均寿命が30歳程度だったとか。とても過酷な職場で、今ならブラックやら労災やら言われるのでしょうが、昔はお宝を探し当てて一攫千金も夢ではなかったのかもしれません。

ぜひRPGの主人公気分でお宝探しの冒険の旅を楽しんでみてください。

石見銀山世界遺産センター
開館時間 8:30~17:30 
展示観覧時間 9:00~17:00( 最終受付 16:30 ) ※3月~11月は30分延長
有料展示室観覧料 大人310円、小中生150円
休館日 毎月最終火曜日・年末年始

書いた人

生まれも育ちも大阪のコテコテ関西人です。ホテル・旅行・ハードルの低い和文化体験を中心にご紹介してまいります。普段は取材や旅行で飛び回っていますが、一番気持ちのいい季節に限って着物部屋に引きこもって大量の着物の虫干しに追われるという、ちょっぴり悲しい休日を過ごしております。