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Gourmet
2018.11.29

こんな茶の湯ライフがあった! 井戸茶碗を極めて。メーカー勤務 平金昌人さん

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茶の湯は、ちょっと難しい感じがして、身構えてしまうけど、「お気に入りの茶碗でお茶を飲むだけ」と考えたら、やってみたい! という気持ちになれるはず。ここでご紹介するのは、茶の湯という知的な遊びに魅入られた人たち。行き詰まってしまったときは別の世界に触れるのもいいんです。和樂INTOJAPANでは漆芸家、アバンギャルド茶人、サラリーマン陶芸家…それぞれのお茶との向き合い方に迫り、全3回「日常のお茶こそROCK!」を毎週木曜日に更新します。「なんだ、お茶ってこんなに自由なんだ!」と新しい発見が見つかるかもしれません。

「会社員だからこそ、井戸茶碗だけにのめり込めるんです」
第3回 メーカー勤務 平金昌人さん

茶の湯2016年、憧れだった穴窯をいちから自分で築窯した。外での一服も格別だ。

趣味というには本格的な腕前。平金昌人さんの井戸茶碗を一度でも見た人は、お茶を嗜んだことがない人でさえ、レベルの高さに驚きます。陶芸を趣味で楽しむ人は数多いますが、茶の湯の抹茶茶碗という特定ジャンルの、それも朝鮮半島からもたらされた井戸茶碗という種類しかつくらないという人は、おそらく全国で平金さんただひとり。心から愛するものを極める、これこそロックンロールです。

平金さんの茶の湯ROCKその1
人生は限られている。だからとことん“好き”を突き進む

茶の湯

窯場があるのは、滋賀県甲賀市の朝宮地区。平日は兵庫にある会社の寮で過ごし、週末にこちらに移動する。ハードな二重生活かと思いきや、本人は「メリハリのある暮らしがいいんです」と笑顔で話す。こうして、じっくり茶碗を眺めているのが、至福のひとときだ。

茶の湯呼び継ぎの趣が威風堂々!

平金さんの茶の湯ROCKその2
井戸茶碗しかつくらない。それほど奥深い魅力がある

のどかな田んぼに囲まれた信楽の朝宮地区。茶畑を望む集落の一角に、平金昌人さんのセカンドハウスがあります。「なんかドキドキしてます」と照れ笑いする平金さん。取材をきちんと受けるのは初めてといいます。「とてつもなく上手い井戸茶碗をつくっているサラリーマンがいる」と聞いたのは数年前のことでした。茶陶のなかでも井戸茶碗は、最もハードルが高いやきもののひとつ。そもそもこれはどんな茶碗なのでしょうか。
 
茶の湯高台脇にのみ、美しいかいらぎを生み出すのは至難のわざだ。

井戸は、李朝時代に朝鮮半島で焼かれた高麗茶碗の一種で、現存作品では大徳寺孤篷庵(こほうあん)所有の喜左衛門井戸が有名です。「枇杷(びわ)色」のボディ、竹節に似た「高台」、そして高台まわりの釉薬(ゆうやく)の縮れ「かいらぎ」などが井戸の特徴だといわれています。

茶の湯ホカホカの混ぜご飯の茶碗も、ここではもちろん井戸。

「陶芸をはじめたのは平成8(1996)年ごろ。それから4年後の東京勤務時代、益子の陶芸家・岩見晋介さんのところで見学したのをきっかけに、井戸茶碗にハマりました。本職ではなく、会社勤めの人間だからこそ、井戸茶碗だけを追究できる。それに二足のわらじが、僕のエネルギーになっているんです」井戸には、つくり手の仕事の痕跡すべてが茶碗の表情として現れます。だから轆轤目(ろくろめ)を指でなぞると、作者の感情や、その人柄さえも伝わってくることがあるのです。「見込みのコテ(ヘラ)やシッタ(作業台)の跡、釉(くすり)掛けのときにできる高台脇の指跡に気づいてもらえるでしょうか。かいらぎは、勢いよく削った荒々しい素地肌にしか現れません」と平金さん。つくり手が徹底的に手数を減らしてもなお現れてくるもの。そこが井戸茶碗の最大の魅力です。

平金さんの茶の湯ROCKその3
お茶で遊ぶときは、頭も感受性ももっとやわらかく

茶の湯玄関から茶室にかけて気持ちよい風が通り抜けていく。

茶道具は、自分の感性に響いたものを骨董市で見つけたり、自作したり。仕覆も知り合いの茶友につくってもらうという。今日は、自ら削った竹一重切花入に、可憐な野菊と南天を入れて。

茶の湯

茶の湯左は竹一重切花入。右は数年前の書き初めの作品。茶友である“ぎおん楽楽”の中田智之さんがもっている益田鈍翁(ますだどんのう)筆の「茶狂」が本歌という。

茶の湯地元の紫香楽茶寮うずくまる本舗製の銘菓「黒柿」は素朴な甘さ。

陶芸やお茶を通じて、素敵な人たちとつながっていく

茶の湯お茶で出会った仲間たちとのんびり一服の時間。右から奥田美穂さん、市川将基さん、大森弘美さん家族、平金さん、点前は三窪笑り子さん。

そんな平金さん、もっと茶碗を知るために茶の湯の稽古もはじめました。すると幅広い世代の、個性的な人たちとつながりが。「僕は、大寄せ茶会の『おもてなし』ではなく、みんなで茶の湯の雰囲気を楽しみたいんですね。亭主も正客もなくて、お茶でワイワイと盛り上がる、みたいな。思いやりのあるやわらかなつながり、そんな感覚が、かけがえのない時間をつくってくれるような気がするのです」それを強く意識するようになったのは、昨年に妹の朋子さんを乳がんで亡くした経験も大きかったといいます。「約10年に及ぶ闘病生活でした。僕たちは双子で、相方がいなくなるのは……ちょっと言葉で表せません。……人生は……人生は、とてもせつない。今日会った人と、次も会えるとは限らない。だから『楽しいことから一生懸命やっていく。だれかと一緒に過ごすなら、この一瞬を大切にしたい』と、本気で思うようになったんです」

茶の湯朝宮はお茶の生産が盛んな土地。一番茶の時期には、平金さんも茶摘みを手伝うという。

茶の湯平金昌人さん。化学メーカー勤務のかたわら自作の穴窯で井戸茶碗のみを制作。注文が殺到しているが、残念ながら個展は未定。しかし、茶碗やお茶に関する魅力的な情報をSNSで発信中。

「日常のお茶こそROCK!」全3回

第1回 漆芸家・「彦十蒔絵」代表 若宮隆志さん
第2回 アバンギャルド茶会主宰 近藤俊太郎さん
第3回 メーカー勤務 平金昌人さん