京都の老舗・亀屋良長はなぜヴィーガン対応の低GI和菓子をつくったのか? その3年間を徹底取材

京都の老舗・亀屋良長はなぜヴィーガン対応の低GI和菓子をつくったのか? その3年間を徹底取材

目次

京都の老舗が打ち出す画期的な新商品誕生秘話の裏側に迫る

私が京都に足繁く通うことになった理由はただひとつ。それは老舗と呼ばれる100年以上続く専門店の存在でした。

ひとつの店にいくら通っても「わかった」と思うことがないぐらいに、その家に流れるものづくりの哲学が面白い。しかもこの街には老舗が1,000以上もあるのだから飽きることがありません。

店とのつきあいを深めるこのごろ、私の興味は当代が手がけた新商品に注がれています。想像してみてください、数百年前に誕生した商品(超ロングセラー)の横に、当代(初代からみたら超若造)が考案したものを並べる勇気。それってすごい! 伝統を守るだけではなく、時代が求める新商品開発に挑むことも老舗の務め。どこかの代でヒット作が生まれ、それをつないで今日まで店は続いているわけですね。

100年前のものが古臭くなく、できたばかりのものが目新しすぎず、これぞその家らしいと買い手を納得させるものづくりの苦労は老舗の店主だけが経験できること。ということで、100年先もこれは売れてる! と勝手に太鼓判を押した新商品にまつわるものがたりを当代の店主にうかがい、紹介していきたいと思います。

亀屋良長は江戸時代から続く菓子司

©︎YFT, 山田 圭司郎

京菓子の名門とうたわれた亀屋良安からのれん分けをするかたちで、享和3(1803)年に創業。創業地は現在と変わらず、四条・醒ケ井(さめがい)。

菓子づくりに欠かせない清らかな水を求めて初代がこの地を選び、以来この店の菓子製造には醒ケ井の井戸水が使われています

本店店内ではこの井戸水がふるまわれているので、試飲してみてください。まろやかで澄んだ味わいがして、この家が大事にしているお菓子のこころに触れた気もちがします!

8代目となる当主は吉村良和さん(なんと、水の味を何種類も聞き分けできる特殊な才能をもつ⁈)。奥様の由依子さんが後ほど紹介する「吉村和菓子店」の店主を務めています。

代表銘菓「烏羽玉」は200年超のベストセラー

新商品ご案内の前に、この店が今日まであり続けた家宝とも呼べる代表銘菓を紹介しましょう。それがこの「烏羽玉」(うばたま)。

檜扇(ひおうぎ)の実・ぬばたまを模した小さな餡玉です。菓子の銘(名前)「うばたま」は「ぬばたま」の響きが転用されたもの。

京菓子の伝統として和歌の題材が菓子銘に使われますが、ぬばたまも黒を想起させる枕詞です。漆黒に輝く餡玉は、波照間島の黒糖風味。明治時代にはすでにつくられていた記録があるそうで、シャレてますね。
烏羽玉6個入りで1箱450円。餡玉の仕上げに寒天をかけてつややかな輝きを生む。あしらいには、けしの実。本店の喫茶スペースでは烏羽玉と8代目の手がけた新しい餡玉のお菓子の食べ比べができるセットを提供中。

自然の甘みだけを用いる「吉村和菓子店」とは?

2016年6月に亀屋良長が立ち上げた新しい和菓子ブランド「吉村和菓子店」。「からだにもこころにも優しい京菓子」をうたい、これまで高級和菓子には使われてこなかった天然の甘味料であるココナッツシュガーやてんさい糖、パラチノースなどが甘みの元に。

これらの天然甘味料は白砂糖に比べると血糖値の上昇はゆるやかで(これが低GIのお菓子といえる理由。GI値とは食後の血糖値の上昇度合いを表す数字)、穏やかに糖質が吸収されると言われています。

食材も天然素材に限定、着色料も使わずに食材の色そのものを使うところも京菓子界では勇気ある挑戦です。

現在は低GI食品や糖質オフ、ロカボといったキーワードが日常に入り込んでいますが、発売当時は体に負担の少ない食べものは、それを切実に欲している人たちだけに届くものという印象がありました。

だからこそ私は、この新しいお菓子の登場に驚いたのです。低GI和菓子! そして京都の老舗がつくると自然な甘みでもこんなにおいしくできるんだ、と。

同時に200年の格式ある京菓子屋が狭いターゲットを相手に商売をするのはなぜ? と疑問が生まれたのも事実。これからの時代、スローカロリーなお菓子を必要とする人が増えていくことは想像できても、京都の老舗であれば幅広い客層にあうお菓子をつくるイメージがあったからです。
2016年に亀屋良長は店内を大きく改装。新しく吉村和菓子店のコーナーも設置された。

低GI和菓子開発の裏に8代目当主の大病があった


その疑問は、吉村良和さん・由依子さんに話を聞いたらすんなりと解けました。

実のところ良和さん自身の体質に変化があって、お菓子づくりに対する考え方にも変化が生じ、そこに吉村和菓子店の原点があったのです。

「今から10年前、30代に入ったころ僕の頭に初期の脳腫瘍が見つかって。体は回復していったのですが、その過程で肉や魚、乳製品、精製された砂糖と粉の組み合わせ(餅菓子やホットケーキなど)を受け付けないというか、食べたら体に異変が起こるようになってしまったんです
これからは自分が納得したものを口に入れなくては、と思ったときに自分の仕事にも同じ思いが生まれました。

おいしくて、そして食べる人の体を気遣ったお菓子をつくりたい。伝統的なお菓子の世界では、この点に重きを置いてこなかったことですが」と語る良和さん。

「ちょうどそのころ、亀屋良長のお客様からも糖質制限をされている方への贈答にどんなお菓子がいいかしら? 糖尿病を患っているけれども和菓子をちょっとだけ食べたいといった相談があって。そういったお客様の声も後押しになり、白砂糖を使わない和菓子をつくることに踏み切れたんです」と由依子さん。

「ただし新しいお菓子を販売するにあたっては亀屋良長から出すのは違うな、と。同じお菓子の範疇で、体に優しい・そうでもないという印象をお客様に与えたくない。そこで亀屋良長と線引きをするために、吉村和菓子店という新しい屋号をつけました」(良和さん)。

デビュー作「焼き鳳瑞」は、ここが体に優しい

吉村和菓子店のお菓子は、由依子さんがアイディアを出して試作を行い、それを受け取った良和さんが最終的な形に落とし込むといった流れで生まれます。

現在販売中の商品は、「焼き鳳瑞」、「美甘玉」(みかもだま・「烏羽玉」をココナッツ風味の白餡玉にしたもの)、「焼きココナッツ」の3種類。ここでは最初に誕生した「焼き鳳瑞」を紹介します。

焼き鳳瑞<種まき>1箱1,000円(税抜、袋入りであれば850円税抜)。湿気に弱いお菓子のため、3個ずつ包装が分かれている心遣いがうれしい。

まず気になるのは鳳瑞(ほうずい)という名前。これは和菓子の種類で、卵白に錦玉液(寒天に白砂糖を加えたもの)を合わせ固めた干菓子の一種です。

吉村和菓子店では鳳瑞をつくるにあたり、卵白に低GI値のココナッツシュガーとパラチノースをあわせます。

この和風メレンゲとも呼べる土台の上に玄米、韃靼蕎麦、抹茶、マカデミアナッツ、かぼちゃの種、黒ごまなどをのせ、低音のオーブンでじっくり焼き上げるので「焼き鳳瑞<種まき>」の名前がつきました。

口に入れるとシュワっととけるメレンゲに反して、トッピングはカリッっとした食感を強調。たっぷり甘みがなくても満足度の高い食べごたえに仕上げています。メレンゲにははったい粉(麦を炒ったもの)入りとプレーンがあって、はったい粉のこがした風味がたまりません! 小さいころに口にしていた昔ながらの素朴なおやつの味がよみがえるというか。

甘くなくて、香ばしくて、いくら食べても飽きない。そんなお菓子を吉村和菓子店の看板菓子に、と最初からメレンゲを使うことは頭にありました」と由依子さん。

開発秘話は続きます。

「たまたま知り合いの北海道農健機構の方から韃靼蕎麦炒りごまをいただいて、これを使って試作が始まりました。亀屋良長にはフランス菓子と和菓子を融合した Satomi Fujita by KAMEYA YOSHINAGA というブランドもあるのですが、商品にある和三盆焼メレンゲも参考になりましたね」

ところが! 通常とは異なる甘味や食材をメレンゲに加えると、色がつかないし、すぐにしぼんでしまう結果に。

「味のバラエティを増やすことが本当に難しかった。ずっーと失敗続きでした(笑)」(由依子さん)。

見た目が地味な健康菓子の行き詰まりをブレイクした、ある食材とは…?

発売当初は飛ぶように売れるわけではなかったけれど、これまでに見たことのない形や食感、かつ体に優しいというコンセプトに反応は上々。

1作目<種まき>に続いてシリーズ2作目を希望する声に押されて続編を考えた由依子さんですが、なんと2作目から行き詰まります(早い!)。土台のメレンゲは精製度の低い砂糖を使うため、どうしても見た目は茶色。トッピングも天然素材にこだわるがために、色展開に限りがある。

「いくら体に優しいお菓子と言っても、見た目も楽しいほうがいいのに、それができない。季節とともに彩りを変える京菓子に見慣れているぶん、そこはあきらめきれないところでした」(由依子さん)。

道が開けたのは、野菜のビーツを原料にしたビーツパウダーとの出合い。メレンゲに粉末ビーツを混合すると、パッと目を引くピンク色に。か・わ・い・い!

この発見から色のバリエーションが増えて、通年展開の<種まき>と季節ごとに変わる焼き鳳瑞という2ライン展開が可能に。ここから人気に火がつき、吉村和菓子店の知名度も上がることになったのです。

とはいえ、ビーツパウダーに続く発色のよい食材(しかもメレンゲの焼き上がりに影響のない)はまだ見つかっていません。着色料不使用で心が華やぐお菓子をつくるのって、実は難しいことなんですね。

焼き鳳瑞のシリーズを誕生順にご紹介します

焼き鳳瑞は9枚入。9つの味それぞれの解説を眺めると、健康を意識したお菓子にだって、季節感や味のバリエーションがつけられることがわかりますよね?

通年展開の<種まき>。私は韃靼蕎麦の実が大好き。はったい粉と有機発芽玄米も味わい深い。

バレンタインデー向けにカカオニブを配した<待ち春>。山椒とカカオの組み合わせ、オツです。

ピンク色のメレンゲがここから登場。母の日の贈り物に好評の<華やぎ>。いちごと和紅茶!

新茶の季節に<お茶畑>。王道の抹茶もよし、玉露はありがたくいただきました。

秋の豊穣を寿ぐ<実り>。りんご・くるみ・シナモンが店主の由衣子さん、おすすめ。

動物性不使用の<あづき茶>はこれから通年展開の予定。小豆オン小豆が地味に滋味でした。

ザ・リッツ・カールトン京都のVIPをもてなすヴィーガン対応の焼き鳳瑞

デビュー3年目を迎えた2019年、良和さん・由依子さんは焼き鳳瑞の特別版<花あづき>を製作しました。

これはザ・リッツ・カールトン京都のVIP宿泊者を対象に提供されるウェルカムスイーツ。<花あづき>の依頼を受けることになるきっかけには、シリーズ最新作<あづき茶>の完成がありました。

<あづき茶>はこれまでの焼き鳳瑞とはまったく異なる、ヴィーガン対応としての焼き鳳瑞。卵白の代わりに小豆の煮汁を泡立てて、ココナッツシュガーを加えたものです。卵白不使用でもメレンゲもどきがつくれる技術にもびっくりですが、発想のヒントが亀屋良長に在籍していたアメリカ人研修生にあったという逸話も、この店に流れるのびやかな空気の表れでしょう。

「実際のところは、ひよこ豆の煮汁を泡立てるとメレンゲのようになるという話でした。試作してみたら納得するできではなかったのと、残った大量のひよこ豆をどうしよう…と。うちはカレー屋でないし(笑)。頭を切り替えて小豆の煮汁でやったら、意外とうまくいきました」(良和さん)。
ザ・リッツ・カールトン京都仕様の<花あずき>は木箱に納められ、これは吉村和菓子店でも贈答に用意されているものと同じ形。贈答品として成立する低GI菓子をつくった点でも、吉村和菓子店のあり方は新しい。

伝統ある亀屋良長ではなく、あえて吉村和菓子店のお菓子をVIPゲストの贈答に選んだ理由は?

ザ・リッツ・カールトン京都のPR・山集杏里さんに回答いただきました。

「これまでいくつか亀屋良長さんのお菓子をいただいてきましたが、吉村和菓子店の焼き鳳瑞<あづき茶>はすべての素材がグルテンフリー・アレルギーフリー(特定原材料7品目を含まない)であることが決め手でしたね。

先に完成された<あづき茶>を基本に、ラズベリー、カカオニブなど海外のお客様が食べ慣れている素材と、宇治抹茶・小豆・山椒など日本特有の素材を掛け合わせて<花あづき>が完成しました。昨今、さまざまな食物制限のあるゲストが多いなかで、このお菓子なら自信をもって提供できます」。

ちなみに、宿泊者からの評判はとてもいいそう。そうでしょうとも!

長く京都で培われてきた技術や育まれてきた美意識、そして洋の食材も和菓子に取り入れる好奇心が結集したこの焼き鳳瑞は、吉村和菓子店にしかつくることができない世界標準の和菓子。小さくてかわいらしいけれども、ファンシーにならないところもこの家に受け継がれている品だと思うのです。

ロカボな和菓子を立ち上げて、いま思うことは?

「体に優しいお菓子とうたいながらも、吉村和菓子店のすべての商品にパラチノースを使っているわけでもないし、お菓子に一貫性がないようにも見えるかもしれないなぁ」と思いもかけない言葉を口にした良和さん。

この言葉の背景には、パラチノースを一定以上の量を使うと味わいが軽減するというのが良和さん・由依子さんの考えにありました。

手づくりならではの愛らしさ、口にしたときにほっとするおいしさは残したい。それがうちのような小さな和菓子店が健康菓子をつくる役割だと思います」(由依子さん)。

良和さんが8代目を継承してから、亀屋良長のイメージはずいぶん変わりました。

味の軸は変わらずとも、お菓子を見てときめくほわっと気がゆるむ、といった人の感情を揺さぶるものをとても意識してつくられているように感じます。「これ、あの人にも食べてもらいたいな」と思わせるお菓子が増えたことで、亀屋良長を訪れる人の層が大きく広がりました。

「フランスに留学していたパティシエとコラボレーションしたりと唐突なことをやっているように見えるかもしれませんが、昔の人も舶来菓子を日本風に食べやすく変えて新しいお菓子をつくってきましたよね。僕は和菓子って“菓子を和える”という意味もあると考えています。であれば、和菓子にカカオニブやココナッツを合わせたりすることも自然な流れです」(良和さん)。

おふたりに共通する考えは「これまでもこれからも、食べてくれる人が求めるお菓子をつくりたい」ということ。

「それが体にいいものなら、越したことがない。その気持ちでこれからも吉村和菓子店を続けていくと思います。大量生産はできないので、価格もそれなり。相手の健康を思う手立てとして、うちのお菓子があればいいですね」(良和さん)。

京菓子の老舗には「最高度の技術で最上のお菓子をつくる」ことが期待されていて、それはこれからの時代も変わりはないでしょう。でもその「最上」の意味合いが、砂糖たっぷりの甘さからくる幸福感だけではないとも感じられるこのごろ。

とはいえ、甘いものがまったくない世界は心がツライ。ほのぼのしたり、なぐさめられたり、お菓子がも心にもたらすことって大きいですよね? それはどんな健康状態の人でも同じはず。

あの人と一緒に「ちょっと甘いものでも」というときに、吉村和菓子店という選択肢が増えたことが私にはとてもうれしい。老舗の新商品第1号としてこのお菓子を紹介したい理由はここにありました。

亀屋良長の新商品「スライスようかん」

スライスようかん、2枚入500円(税抜)
昨年発売の「スライスようかん」に、バターようかんが付いてリニューアル!

スライスチーズのようにシートになったようかんをパンにのせて焼くだけ。手軽にあんトーストができて、しかも食べ切りというのが気がラクですね。

亀屋良長のあんこですから、味はとびきり。これも世代を超えて、国境を超えて愛される新しい和菓子なんだと思います。

あんバタートースト、焼けてます!

食べ方は簡単!「スライスようかん」をパンにのせてしっかり焼く。

ようかんがグツグツとなったら食べごろです。中央にあるバターを全体に広げるもよし、そのままでバターなし・ありを食べ分けるもよし!

絶品あんこのグツグツする様子をちょっとだけおすそわけしますね!

◆亀屋良長/吉村和菓子店
住所:京都市下京区四条通油小路西入柏屋町17、19番合地
電話:075-221-2005
公式サイト

撮影/田中麻以(静物、動画) 写真提供/亀屋良長、ザ・リッツ・カールトン京都
*次回は山田松香木店の蚊遣り香「夕涼み」を紹介します。

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