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2020.11.02

梅酢や味噌で日本の味を広める!パリの高級メゾンも注目、日仏女性2人組ユニット「バルボステ」

この記事を書いた人

フランスの錚々たる高級メゾンの間で、口コミで広まった、日仏女性二人組のイベントフード・クリエーション・スタジオ「バルボステ(Balbosté)」。二人組とは、シャーロット・シットボンさん(Charlotte Sitbon)と金子さやかさん。イベントフード・クリエーション・スタジオといっても、まだあまり馴染みがありません。企業がイベントでクライアントに軽食を提供する際、ケータリングで賄われることが多いのですが、それをアートに昇華させたのが、バルボステ。聞き慣れない単語ですが、シャーロットさんのルーツであるユダヤの言語、イディッシュ語で「家を取り仕切る女性」という意味があります。彼女のお母さま、お祖母さまのような、しっかりとした強い女性でありたい、という願いが込められているそう。その名のとおり、数々の高級メゾンのイベントでその采配を振ってきました。

ブランドイメージや、発表予定の新製品に合わせたフードをクリエイトし、パーティで提供します。立食パーティーに特化していて、お腹を満たすというよりも、食べ物を使い、香り、味、食感を通じて、ブランドの世界観に没入する体験を提供しています。例えば、土の香りがする新しい香水を発表するのに合わせたもの、という要望があれば、それを食べられる形に仕上げます。すべてを虹色でコーディネートしたいという依頼があれば、それも叶えます。

ふたり共、料理人としての経験は無く、自宅のキッチンから創作は始まりました。そして、パリのロックダウン明け、2020年9月から本格的にアトリエを始動しました。これまでは企業向けでしたが、今後はこのアトリエを拠点に料理教室を行うと同時に、月1回1週間、店舗として商品を一般販売することになりました。

バルボステのアイコニックなグラデーションにあわせたショーウィンドウの装花

SNSで出会った対称的なふたり

シャーロットさんは代々パリの宝飾デザイナーという家に生まれ、確かな審美眼を磨かれながら育ちました。美術大学時代には陸上競技をしており、手早く食べられて健康的なものはないかと考えて、食べ歩きできるサラダとして生春巻きに行き着いたというアイディアマン。卒業後は広告代理店に就職し、コマーシャルコミュニケーションの仕事をしました。その後も趣味で生春巻きを作っていたのですが、会社を辞めて本格的に食に関わる仕事をしたいと模索し、バルボステを創設。今はバルボルステでブランディング、アートディレクション、コミュニケーションを担当しています。

美しい生春巻き

同じくパリ在住のさやかさんは、味のクリエーション担当。島根県雲南市の出身で、豊かな自然に囲まれ、昔ながらの風習や食生活が残る山間の村で育ちました。一緒に暮らしていたお祖母さまは、農業に熱心で食べ物を大切にし、四季折々の恵みを保存食にする習慣がありました。ご自身も、お祖母さまやお母さまから、手作りの味を引き継ぎました。結婚して渡仏すると、パリの生まれ育ちだけれど純日本人の娘さんに、日本人としてのアイデンティティや誇りを、食を通じて伝えられたらと思うようになり、味噌や麹を自作し始めたのです。

ケータリングで使われているお椀たち

そんなふたりの出会いはSNSでした。手作りの日本食の写真を、日々インスタグラムに投稿するさやかさん。それをみたシャーロットさんからの声がけにより、2年前に二人組のバルボステは生まれました。初めて一緒に仕事をしたとき、周りの人たちから、もう何年も長く活動しているようだと驚かれるほど息がピッタリ。そんな対称的な自分たちをYin Yang(陰陽)の組み合わせだと言います。

日仏併記のロゴをあしらったエコバッグ

芸術に昇華された食べ物

日仏の双方のエスプリを盛り込み、芸術の粋に仕上げられた食べ物たちは、パリでもごく一部の人のみぞ知る世界で展開されていました。でも、この度のアトリエ開店に伴い、一般の方でも購入できるお菓子が誕生。フランス菓子であるギモーヴ(guimauve:マシュマロ)を日本古来の組紐結びにしたり、和菓子の琥珀糖をモチーフ型で抜いてみたり、ふたりの遊び心が詰まっています。

トマト、ライムなど驚きのある味のマシュマロ

抹茶林檎、ローズマリーとフランボワーズ、アニスとアーモンド、という見た目も味も個性的な琥珀糖

始めた頃は、すぐに真似されてしまうかもという不安もあったそうです。でも今は、毎回各クライアントのために試行錯誤をするので、表面上の真似はできても、コンセプトまでは真似されない自信があるといいます。特に「エタ・デスプリ(état d’espris:気持ち)」を大事にしているそう。バルボステの仕事はクライアントのブランドを下支えするものであって、主役ではないという自覚を持ち、サービスや雰囲気など感覚的なものを重視しています。

パリと日本をつなぐ、出雲の伝統工芸鶴亀

そんなバルボステが、最近、また新しい活動を始めました。実は、美しい食べ物だけでなく、日本で廃れていく伝統工芸のサポートや、日本の食品のコンサルティングも始めたのです。
さやかさんの地元は出雲大社の大注連縄(おおしめなわ)の生産地でもあるのですが、後継者不足から伝統技術の衰退が不安視されています。そこで自分たちで何かサポートできることはないかと考え、大注連縄に付けられていた縁起物の鶴亀を、パリでクリスマスプレゼント用に販売することを思いつきました。
地元の島根では、昔からある民芸品として新鮮味がなかった鶴亀。さやかさんがお土産にパリに持って帰ってくると、シャルロットさんは一目見て素敵! と、おしゃれに部屋に飾っていたそう。驚きつつも、その魅力を再確認したのでした。

さらにこちらの鶴亀は、技術伝承を行っている女性グループ「鶴亀」によって作られています。全くの素人だった彼女たちが職人の元へ習いに行き、それを子どもたちに教えることで、世代を越えた郷土愛を育む交流が生まれています。地域の人々をつなげる鶴亀でもあるのです。
そんなご縁を結ぶ鶴亀の想いは、地元から更に遠く離れたパリのさやかさんにまで届きました。地元の伝統をパリで伝えていくことはとても刺激的で、離れて暮らしていても、つながっていられることに幸せを感じるといいます。このような愛が溢れる活動から生まれた鶴亀は、福がたっくさん詰まった縁起物であることは間違いありません。自然の素材を活かしつつ、細かな技工を凝らした作品は、これからパリの人々を魅了することでしょう。

日本の味をパリで広めるために

彼女たちは日本の食品をフランスで販売するにあたっての、コンサルティングも始めました。第一弾は、梅酢でした。

製品はオリジナルのままに、フランスの生活にあった使い方や、その背景にある物語を、フードアトリエやSNSを通じて丁寧に伝えていきます。バルボステの考えるローカリゼーションとは、「日本人が思う正解を押しつけず、日本のものが《特別》にならないように、親しみやすく分かりやすくなっていること」。
さやかさんの味噌づくりは、麹菌を除き、すべてフランスのスーパーで手に入る素材を使用しています。オーガニックの大豆、南仏のカマルグの米、ブルターニュのゲランドの塩、とフランス産にこだわりつつ、日本の味を表現。身近に手に入るものを使うことで、トレーサビリティと継続性に配慮しています。
使い方も、塩分濃度を下げた白味噌をパンに塗る提案をしたり、ポタージュスープにコクを出すために味噌を足すアドバイスなど、フランスの食生活に合わせたものになっています。甘めの白味噌は、生クリームと混ぜてイチヂクにかけても美味しいそうです。

コロナ禍でも新たなビジネス展開

パリではコロナの影響で、ブランドの新作発表会や、展示会の中止が続いています。そういった場面での活躍が多いバルボステでは、どのような影響を受けているのか気になりました。
パリの外出禁止期間中、会えなかったふたりは、リモートでも活動を続けていました。特にインスタグラムの更新は、毎日欠かさずに行なってきました。遠隔での新商品開発アイテムとして思いついたのが、日本料理伝統の飾り切り。調理方法を試行錯誤した末、その美しさを活かしたピクルスになりました。インスタグラムに投稿すると、フランス大手出版社のライフスタイル誌から掲載しないか、と声がかかりました。

それが下のピクルスです。撮影用の食品をコーディネートする人を、フランス語でスティリスト・キュリネール(styliste culinaire)というのですが、今後そういった活動も広げていくそうです。
最近はこのピクルスを作るワークショップも始まりました。クライアント企業に出向き、出張アトリエとしても行っています。そこで、前述の梅酢を使うという提案も。一石三鳥なお母さん的アイディア!

最後に、さやかさんにフランスで働く上での心得を聞いてみました。自分のイメージしていることと違っていたとしても、ノーと言わないようにしているそう。かつて作業療法士だった経験から、違うやり方でも辿り着けたら良いというセラピー的な考え方をすることで、物事はうまく進むといいます。

ケータリングからスタートし、様々なクライアントからの要望に応えるうちに、イベントでの食全体の演出、アートディレクションへと表現の幅を広げてきました。コロナの影響でイベントが中止されるようになった反面、これまでバルボステを利用した企業から、VIP顧客用ギフトのオーダーメイドの依頼も増えました。それに伴い、パッケージデザイン、オリジナルの商品開発もスタート。

ひとことでは説明のつかない多岐にわたる活動ですが、一貫した信念があります。いくつものアイディアを融合させて、軽やかにビジネススタイルを変化させていく柔軟さ、数々の一流メゾンの難しい要求に対応してきた経験値。名前の由来通りの家を取り仕切る女性像が目に浮かびました。日本からのリモートでのお仕事依頼も受付けています。サイトとインスタグラムでは、今までの美しい活動をみることができ、眺めているだけでも楽しいのでぜひ!

店舗名: Balbosté
住所: 26 Rue de l’Échiquier, 75010 Paris
営業時間:変則的なため要確認
公式webサイト:https://www.balboste.com/
インスタグラム:https://www.instagram.com/balboste_paris/

書いた人

フランスで日本人の夫と共に企業デザイナーとして働きながら、パリ生まれだけど純日本人の娘を子育てしています。 本当は日本にいるんじゃないかと疑われるぐらい、日本のワイドショーネタをつかむのが速いです。 日々の仏蘭西生活研究ネタはコチラ https://note.com/uemma