長野県野沢温泉
『村のホテル住吉屋』
信州一の温泉街である野沢温泉は、1998年の冬季オリンピックで競技開催地のひとつにもなったスキーの聖地。ですが、かつては雪の季節は他地域と隔絶される厳しい気候の土地だったゆえ、温泉街としてのはじまりは、夏季の避暑地としてだったとか。
野沢での滞在にほっこりと気持ちがなごむのは、明治大正の面影を残す温泉街としての風情と、ここに暮らす人々とのふれ合いがあるからに思います。朝に夕に、温泉熱を利用して食材を茹でる場面に遭遇し、13もの外湯では、明るいうちからひと仕事終えたお年寄りや小学生と一緒になる。土地の暮らしぶりがうかがえるところが、癒しポイントなのです。ここは言わずと知れた、野沢菜漬け発祥の地。取り回し鉢を前菜に会席料理をいただく夕食にも、野沢産のお米のおいしさが際立つ朝食にも登場。
そんな野沢で、郷土料理を昔ながらのスタイルで提供しているのが「住吉屋」。江戸時代からこの地に伝わる〝取り回し鉢〟と呼ばれる料理がいただけます。この取り回し鉢、そもそもは祝いの席に人が集まると何品も食べきれないほどつくり、それを大皿や大鉢に盛って長老から小皿に取り分けるという、いわば家庭のもてなし料理。地物(じもの)野菜や山菜などを使ったどれも素朴な料理ですが、これに限っては板前ではなく、村の女性たちがつくるのだとか。
ここではぜひ早起きを。朝の光のなかでお風呂に入り、ゆっくり朝食を味わったら、携帯電話をオフにして。野鳥のさえずりや雪解け水の流れを聴いているうちに、またうとうとと…。そんなふうに、ゆるやかな時間を楽しみたい湯宿です。本館別館合わせて14の客室は、趣も窓からの景色も異なる。夏季でも雪を残した妙高山を望める部屋も。
手をかけ工夫して。愛情たっぷりの素朴なおかずです。
取り回し鉢料理。上の3品は、カレーいも、塩煮いも、いもなますと、いずれもじゃがいも料理。高冷地ならではの良質なじゃがいもは、さまざまな姿と味で鉢に盛られる。
ごぼうの丸煮。
野沢温泉のお湯ガイド
毛無山(けなしやま)斜面の谷間から噴出する温泉は鎌倉時代には広く利用され、江戸時代になると半農半宿の宿屋が立ち並んだ野沢。今でも源泉は30余りという豊富な湯量を誇る。住吉屋の目の前には、90℃という高温の源泉で野菜や卵などを茹でる、村民の共同施設〝麻釜(おがま)〟が。