美術鑑賞の後は、江戸情緒の残る街を散策
上野の代名詞、恩賜上野公園が誕生したのは明治6(1873)年。それまでこの敷地は徳川将軍家の菩提寺・寛永寺の境内であり、不忍池から不忍通りを挟んだ池之端のあたりは江戸を代表する門前町としてにぎわっていました。江戸の風情を残した小さな商店も、明治大正期のハイカラモダンな建築物も、昔と変わらない雰囲気で残っている、東京でも貴重なエリアがここ。しばし、タイムトリップいたしましょう。
上野のお山は歴史と文化の宝の山
池之端という地名が示す「池」とは不忍池のこと。池のほとりの、さらに小さなエリアに集中して横山大観や森鷗外、三菱の創始者・岩崎家が住まいを構えていたことでも知られています。近代日本文化の発信地として、明治政府発足と共に生まれ変わった上野恩賜公園(通称上野公園)には日本初の動物園・恩賜上野動物園や日本初の博物館・東京国立博物館や音楽堂など、〝日本初〟の文化施設が集中。一方、近代化する上野の〝お山〟とは対照的に池之端には江戸時代から続く名店がそろっていました。進化しつつも江戸の名残が感じられるこの街に惹かれる人は多かったはずです。
不忍池には鴨多し。夏の蓮池観察も楽しい。
実際、森鷗外、谷崎潤一郎らの作家が足しげく通った鰻割烹「伊豆榮」のご主人にうかがうと、「上野の博物館を見た後、山を下って池之端へ、伊豆榮の鰻を食べて本郷へ抜けるのが文化的散歩道としてもてはやされた」のだとか。先達にならい、私たちも美術鑑賞後に的を絞って、最新の上野の〝文化的散歩道〟を探しに歩いてみましょう。
上野公園竹の台広場から東京藝大への小道。
まず足を運んだのは上野公園内の「竹の台広場」。東京スカイツリー開業に伴い、上野公園に生まれた新スポットです。噴水を挟むようにふたつのカフェができて、テラス席も充実。これまでは美術館と駅の行き来で、上野公園は通過するだけ…といった方にこそ提案したい、なごみの場所です。
竹の台広場から東京国立博物館をのぞむ。
池天神下の梅が咲いたら上野の山の桜ももうすぐ
竹の台広場まで来たら、東京藝術大学まで足を延ばし、その先の「桃林堂」で一服を。朝9時から営業しているので、美術館開館前にお抹茶でしゃっきりするのもおすすめです。上野の山を下って池之端方面へ行く道はいくらでもありますが、公園まで戻って不忍池に向かう王道ルートで行きましょう。
小鯛焼で知られる「桃林堂」。店内では焼きたて、皮の耳付きを提供している。
上野の山には「上野大仏」ほか、銅像や歌碑、古墳など小さき文化遺産の宝庫。自分だけの立ち寄り処を発見するのも楽しみ。
顔だけでも1.8mある「上野大仏」。
ランチはフレンチレストラン「コーダリー」。昼に夜に、池之端界隈をよく知る紳士淑女が集まる店は料理の味もさることながら、盛り付けも繊細で美しい。美術鑑賞の余韻を楽しむにはぴったりなのです。
「コーダリー」のランチコース2,800円から、この日のスープはにんじんのポタージュ。
さて、お腹を満たしたら「横山大観記念館」へ。ここでは床の間に掛けられた作品を畳に座ってのんびりと、といったふうに大観の邸宅に招かれた気持ちで絵画鑑賞できるのが特徴。目を向ければ、ガラス戸をはじめ部屋のあちらこちらに芸術家ならではの美しく住まう工夫に気がつきますが、大観はもともと建築家志望だったとか。野趣あふれる庭も本人の好みが反映されていて、梅は白梅、桜であれば大島桜。大観の好んだ客間「鉦鼓洞」は庭に突きだした部屋で、ここに座ってお庭を眺めているとゆっくりと時間が過ぎていくよう。
横山大観記念館は大観の終の棲家を、作品展示も兼ねて公開している。手入れされた中庭。
上野で開催中のオススメ美術展!
ボイマンス美術館所蔵 ブリューゲル「バベルの塔」展
会期 開催中~2017年7月2日(日)
会場 東京都美術館
住所 東京都台東区上野公園8-36
アルチンボルド展
会期 開催中〜2017年9月24日(日)
会場 国立西洋美術館
住所 東京都台東区上野公園7-7
開館時間 9時半〜17時半(金・土は20時まで)
休館日 月曜日