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2021.07.01

50代ライター時田、初めて滝に打たれてみた!奥多摩の霊山、御岳山の宿坊体験記

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「冷たいっ!」と思いつつも、ざぶざぶと滝つぼの中へ。吸い込まれるように、そのまま立ち止まることなく、滝へと向かって歩いていきます。
つい先ほどまで「大丈夫かなぁ、できるかなぁ」と頭をよぎっていた思いは消えていて、自分でも不思議なくらい、何も考えることなく自然と滝の目の前に。

ドキドキ……。

「えいっ!」と気合を入れて、そのまま滝の下に進み、まわれ右をして岩によりかかります。
「最初は、体の外側の汚れを洗い流すような気持ちで」と説明を受けていましたが、そんなことはすっかり忘れて「あっぷあっぷ」といった状態。滝に打たれて痛いとか冷たいとかよりも、「息ができない!」というのが第一印象だったのです。

し、死んじゃう!


ここは奥多摩の霊山、御岳山。宿坊が集まっていることで知られていますが、その中で「滝行」を行っている宿坊を訪問。50を過ぎて、人生初めての「滝行」を体験してきましたっ!

ライター時田さん、初めての「滝行」!

そもそも「宿坊」とは?

ところで、そもそも「宿坊」とは何でしょうか。

しゅくぼう……? 聞いたことあるけど、なんだろう。

簡単に言うと、寺や神社などにある宿泊施設のこと。もともと「一般的には他の地からきた修行僧の寄宿する僧院」(岩波仏教辞典第2版)でした。それが檀家や講(町内会など、参詣する団体)のためのものとなり、やがて一般の参拝者も利用できるようになりました。

宿坊は本来、質素な施設ですので、風呂・トイレ共同で簡素な部屋というのが普通ですが、最近は高級ホテルのような宿坊も登場しています。寺社によっては、朝のお勤め、写経や写仏などに参加できます(もしくは参加が条件)。旅館などへの宿泊とは違う独特な体験ができることから、ここ十数年来、宿坊への宿泊は静かなブームとなっています。特に女性からの人気は高く、関連ガイド本やサイトも少なくありません。

へ〜!宿坊が観光の目玉に!

宿坊は日本全国各地にあります。都心から一番近い宿坊として知られているのが、奥多摩の御岳山(青梅市)なのです。

都内でも宿坊体験できるんだ!

関東一の霊山 御岳山

御岳山には、現在、約20軒の宿坊が集まっています。もともと、御岳山山頂に鎮座する武蔵御嶽神社の参拝者のための宿でした。

武蔵御嶽神社からの風景。標高は約930m

武蔵御嶽神社は736(天平8)年の創建と伝えられます。御岳山は関東随一の霊山とされ、古くから修験者たちの修行の場となっていました。数々の有力者や武士、そして庶民からも信仰された神社には、国宝を含め貴重な文化財が数多く収められていて、宝物殿で観ることができます。

また武蔵御嶽神社には、日本武尊(やまとたけるのみこと)が狼に導かれてきたという伝説があり、狼が「お犬様」として信仰されています。犬が多産であることから安産の神様、また「老いぬ」にかけて長寿の神様とされてきましたが、最近は犬の守り神としても有名になっていて、愛犬を連れた参拝客も多く見かけます。

わんちゃんと一緒に参拝も!

御岳山にはJR青梅線御嶽駅から10分弱バスに乗り、ケーブルカー(御岳登山鉄道)に約6分乗って到着しますが、ケーブルカーにはペット運賃があり、ペットスペースもあります。武蔵御嶽神社の手水所には犬用も。ペットのための御守も、もちろんたくさんそろっています。

ケーブルカーはふもとの滝本駅(407m)から御嶽山駅(831m)へ登る。平均勾配22度は関東一。最急勾配は25度になる

御嶽山駅からはしばらく整備されたほぼ平坦な山道が続く

集落の道。ところどころで険しい坂となる

武蔵御嶽神社の鳥居

御岳山で唯一滝行を実施 静山荘

さて、今回お世話になった宿坊は静山荘。御岳山の宿坊は滝行を行っていることで知られていて、かつては数軒の宿坊が実施していましたが、今ではこの静山荘だけになっています。

静山荘の外観

ほかの御岳山の宿坊同様に、江戸時代から宿坊を営んできた静山荘。ご主人の橋本薫明(よしあき)さんは、武蔵御嶽神社の御師(おし)。御師とは、参詣者の案内や宿泊などの面倒をみる神職のことです。詳しい資料は焼失してしまったとのことですが、橋本さんで10代目以上にはなるそうです。

ほほ〜ぉ。

ケーブルカーの御岳山駅を降りて、しばらくほぼ平坦な山道を歩き、8分ほどで静山荘に到着。御岳山の集落の中では最もケーブルカー駅に近い場所にあります。ちなみに、武蔵御嶽神社までは駅から30分以上。集落の中には、かなりの急坂もあり、結構きついです。

客室数は8~32畳まで6室。現在はコロナ禍で受け入れは5人までと制限していますが、通常、多い時には20人を収容できます。滝行コースのほかに、瞑想コース、断食コースもあり、こちらでも静山荘は知られています。客は圧倒的に女性が多いとのことです。

瞑想に断食! 仕事に疲れたときいいかも……。


静山荘の部屋と料理。滋味深い味わいの料理は人気が高い(画像提供:静山荘)

滝行へ出発

午後3時前、広間に集まりいよいよ滝行へ向かいます。

20代、30代の男性、40代の女性と私の計4人がこの日の参加者。私以外は滝行や静山荘宿泊のリピーターです。ここで、白い鉢巻き、白いふんどし、白装束、サンダルが配られます。ふんどしをするのも初体験です、たぶん。

やっぱりふんどしなんだ。

静山荘を出発して集落の道を歩いていくのですが、山なので当然起伏が激しい。急こう配の道を歩いているだけで、息が切れてしまいます。目指す滝までは徒歩約30分。これも修行のひとつといえそうです。武蔵御嶽神社の参道を横切るときに、神社方向に一礼。そこからは山道へ入ります。なだらかな下りが続きますが、この先は山歩きが楽しめる散策道となっていて、ハイキング客にも人気のコースとなっています。

しばらくは歩きやすい山道を進むのですが……

御岳山には、七代(ななよ)の滝と綾広(あやひろ)の滝があり、いずれでも滝行が行われます。今回は七代の滝へ。天狗岩という横から見ると天狗の顔に見える観光スポットの手前で、滝へと降りていきますが、この道がなかなかの険しさ。途中、いくつか鉄でできた階段が設置されているほどです。

滝に到着するまでも大変だ。

滝へ降りていく道はかなり険しく、鉄製の階段も

それまで滝が存在する気配がなかったのですが、急に水音が聞こえてきました。階段を降りて右の奥に七代の滝が現れました。「水が少ないな」というのが滝を見ての印象。想像よりも小さな滝でした。

打たれるんだから、多いよりはちょっと安心……?

七代の滝は大小8段の滝からなっていて、全体で約50mの落差がある

神様へ祈りを唱え、いよいよ滝行へ

橋本さんが青いビニールシートを広げて、滝つぼ近くの岩の間を覆うように広げ始めました。女性はこちらで着替え。男性は少し離れた場所で着替えをします。

準備ができると、滝つぼのまわりに集まり、男性はふんどし一丁の姿に。体を動かし、神様への祈りを唱え、丹田のあたりで魂を両手で包み込むように揺らし、右手の人差し指と中指を立てて上から下へ切るように「えいっ」と何度か気合を入れます。橋本さんがごく自然に滝つぼへ入り、滝の下へ。悠々とした動きで、優雅な気配さえ感じます。滝行を始めて40年とのこなので、当たり前かもしれませんが。

滝に打たれる橋本さん
た、たしかに余裕を感じるぞ。

滝行は3回行います。最初は体の外側の汚れを洗い流すように、最後は体の内へと滝の流れを取り込むように、との説明が広間でありましたが、頭の中は真っ白になっていて、この時点から何も考えていませんでした。

え、頭が真っ白!?

男性が順に入り、続いて女性。私は最後です。そのときの様子は冒頭のとおり。橋本さんは滝つぼの真ん中にいて、滝の前で橋本さんの声に続いて「えいっ」と気合を入れて、滝の下へ。そして、ふたたび橋本さんの「えいっ」の気合のあとに、「えいっ」と滝から離れます。

これを3回。

1回じゃないんだ。

女性の方は「気持ちがいい」とすがすがしい顔で、最後は橋本さんが終わりの気合を入れても、しばらくそのまま滝に打たれていました。

確かに、滝行からイメージする厳しさというよりも、滝に打たれていると気持ちよさも感じます。ただし、冒頭のとおり私は溺れかけているような、情けないありさま。広間での説明も忘れ去っていました。かろうじて、丹田の前で手を組かまえていただけです。「水が少ない」という印象も消え去っていました。

リピートすれば体感も変わるのかな?

滝には打たれたものの、本当の「滝行」を実践したとはいえない結果でした。しかし、ほかにはない新鮮な感覚に包まれたのも確か。何度が体験していけば、しっかりと意義のある滝行ができるはずです。

宿坊へ宿泊するのが本来の滝行コースで、この午後の滝行のあとは宿坊へ戻り、入浴、夕食を終えて、瞑想、呼吸法などを行い、翌朝にふたたび滝行へ。朝食後、瞑想をして終了となります。

このコロナ禍、「自分を見つめ直したいというお客様が増えてきました」と橋本さん。実際、5月半ばに予定していた取材も予約がいっぱいのため、6月になりました。

1年以上続くコロナ禍。自分でわからないほど、体や心は疲れ切っているはず。奥多摩の霊山での滝行は、いろいろなものを洗い流し、いろいろなことを気づかせてくれるのではないでしょうか。

静山荘公式サイト:https://www.seizan.gr.jp

書いた人

1968年、北海道オホーツクの方で生まれる。大学卒業後、アフリカのザイール(現コンゴ)で仕事をするものの、半年後に暴動でカラシニコフ銃をつきつけられ帰国。その後、南フランスのマルセイユで3年半、日本の旅行会社で3年働き、旅行関連を中心に執筆を開始する。日本各地や都内の路地裏をさまよい歩く、または右往左往する日々を送っている。

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我の名は、ミステリアス鳩仮面である。1988年4月生まれ、埼玉出身。叔父は鳩界で一世を風靡したピジョン・ザ・グレート。憧れの存在はイトーヨーカドーの鳩。

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