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Gourmet
2019.12.20

全身トロの深海魚、アブラボウズはどんな味?駅弁になった巨大魚を追ってみた

この記事を書いた人

「あぶらぼうず伝説」という、そそる名前の魚の駅弁を見つけました。そういえば、全身脂たっぷりの魚がいて、人間にはその脂が消化できないので翌朝大変なことになるらしいと聞いたことあるけど、まさか……? さっそく入手し、食レポをしようと思ったら、奥深いニッポンの魚食世界へいざなわれました!

えっ、この魚食べていいんだっけ?

「あぶらぼうず伝説」は、小田原の駅弁。手に入れてみました。駅弁って土地の特産品や地のものがあれこれ詰め込まれていて、食べるのも選ぶのも楽しいですよね。パッケージやネーミングひとつとってもおもしろい。「あぶらぼうず伝説」もなかなかです。

イラストと紹介文が載っていました。アブラボウズという名前、おもしろいですよね。漢字で書くと「油坊主(脂坊主)」。地元・小田原では「オシツケ」という地方名で呼ばれています。魚の地方名については不明なところが多いのですが、「城内の毒見役が押し付けあったから」という説があるらしい。

箸を入れると、身がほろっとほぐれるやわらかさ。口に運ぶと、とろりととろけてしまいました。白身なのに、脂ののったトロのよう。

駅弁なので、冷めてもしっかりおいしい味噌幽庵焼きになっています。かといって、たれの味の主張はほどよく、魚本来の味もしっかり。皮の焼き目もほどよく、丁寧な手仕事を感じさせます。身の繊維から脂がジワリ、と滲み出します。翌朝お腹は痛く……なりませんでした!

販売元の「東華軒」さんに聞くと、「たれの味が魚の脂に弾かれてしまうので、何度も何度も試作を重ねて改良していきました。焼き時間についても、微妙に時間を調整しないと焼き目がつかない、逆にちょっとでも焼きすぎると皮が焦げてしまうなどの苦労もありました」とのこと。ちなみに、好評のため東京駅などの「駅弁屋 祭」にも早朝、数量限定で「あぶらぼうず伝説」の販売をはじめたらしいですよ(早朝狙いが確実)。

広報担当者が、解凍後の身の様子や切り身を撮って送ってくれました。

脂たっぷりのアブラボウズ・アブラソコムツ・バラムツ


神奈川県立生命の星・地球博物館提供(瀬能 宏撮影)

アブラボウズ、おそるべし。かわいい名前のわりに超難関の「ととけん」(正式名称:日本さかな検定)最高峰である1級に合格した友人の加藤秀幸氏に聞いてみました。

――あぶらぼうずってどんな魚?

加藤氏:アブラボウズはギンダラ科の魚で、2メートルぐらいまで育つ大きな魚だよ。名前の通り、脂分たっぷり。おいしい魚だけど市場流通量は少なくて、超貴重。

――脂だらけで、食べるとお腹を壊すって本当?

加藤氏:お腹を壊すのは、アブラボウズと混同されるアブラソコムツでしょう。それからバラムツもまぎらわしい。これらはクロタチカマス科で、どちらも1.5メートルぐらいに成長。アブラボウズ同様に身に脂分を多く含むけど、アブラソコムツとバラムツは食用として流通しない。理由は脂の種類。アブラボウズの脂分の主成分は不飽和脂肪酸のグリセリドで、どちらかというと身体によい脂。アブラソコムツとバラムツの脂の主成分はワックスエステル。人間はワックスエステルを分解できないので、たくさん食べたら100%下痢!

――そういえば、沖縄には「インガンダルマ(ミ)」という魚がいて、脂たっぷりでおいしいけど翌日下痢になるって聞いたことある…。

加藤氏:それも、アブラソコムツ。市場ではこれらの有毒魚は流通できない決まりがあるから、一般には流通しないはず。資源量的には、アブラボウズよりもアブラソコムツとバラムツのほうが多いんだけどね。

――とはいえ、「超うまい!」と聞いたらなにがなんでも食べてみたいねえ!

加藤氏:漁業者や釣り人の中には、自己責任で食べる人もいるみたい。僕は食べたことがないけど、食べた人に聞くと、バラムツはかなりおいしくてクセになるそうだよ。ただし、三切れ以上食べると必ず下痢をしてツライって。別の友人は『アブラソコムツこそ最高の美味。刺身が極上だけど一切れだけ』と言っていたな。

――食べたことも見たこともない人ばかりなのに、話題になるよね。

加藤氏:魚屋やスーパーには並ばず、お目にかかる機会がないのになぜこんなに話題になるのか? それは、アブラソコムツやバラムツが釣りの対象魚として人気だからという理由もありそう。彼らは普段、大陸棚付近の深海で暮らしているけど、夜になると魚やイカなどの獲物を求めて駿河湾などの浅いところまで出てくるの。1メートル超えの巨大魚がルアーで釣れるとなれば、釣り人が黙っていないでしょう。巨大魚を釣って食べたら信じられないぐらいおいしかった! といった感じで大げさな都市伝説が生まれたのかもしれないね。

アブラボウズ、見る? 食べる?

希少で仕入れも安定しないためいつも出回るわけではありませんが、小田原あたりではときどきスーパーで切り身が出回るらしいですよ。さすが高級魚だけあって、価格は一切れ1,000円前後。そのほか、小田原の場外市場にある「なみ」という食堂などで、アブラボウズを使った料理が登場することもあるとか。刺身や煮つけが絶品らしいので、見つけたらぜひ食べてみたいですね。生体が見られる水族館を調べると、「沼津港深海水族館」で飼育展示中でした。※2019年12月調べ

名前のせいもあり、妙に好奇心も食欲もそそられるアブラボウズ。駅弁をきっかけに、あれこれたどってみましたが、日本の魚食文化っておもしろい!

◆取材協力

東華軒 http://www.toukaken.co.jp/
神奈川県立生命の星・地球博物館 http://nh.kanagawa-museum.jp/

書いた人

出版社勤務後、編プロ「ミトシロ書房」創業。著書に『入りにくいけど素敵な店』『似ている動物「見分け方」事典』など。民謡、盆踊り、俗信、食文化など、人の営みや祈りを感じさせるものが好き。四柱推命・易占を行い、わりと当たる。