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Gourmet
2019.10.02

大阪市立東洋陶磁美術館、マリメッコ茶室は400年の時を超えた奇跡のコラボだった

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若い女性を中心に、世界中で愛されている「Marimekko(マリメッコ)」。ブランド名は知らなくても、ケシの花をモチーフにした「Unikko(ウニッコ)」のデザインを目にしたことのある人は多いことでしょう。このマリメッコのファブリックを取り入れた斬新な茶室が大阪に誕生したと聞き、会場へと出かけました。

マリメッコとは?

テキスタイルブランドとして知られるマリメッコは、アルミ・ラティアにより1951年にフィンランドで創業。それまで見られなかった鮮やかな色彩と力強くユニークなデザインは、次第に世界で注目を集めて現在に至ります。ファションアイテムから、食器やテーブルクロスなどキッチンアイテムまで多種類の製品を展開しています。

訪れたのは、大阪・中之島

マリメッコ茶室が展示されているのは、大阪・中之島公園敷地内にある大阪市立東洋陶磁美術館。中之島は大川に形成された中洲で、かつては蔵屋敷が建ち並ぶ経済の中心地でした。江戸時代から栄え、明治からは欧米の建築技術を取り入れた建物が多く建設され、中央公会堂など歴史的建造物が今も残ります。大阪市立東洋陶磁美術館は、シックな佇まいが周囲の景観と調和して市民に愛されています。中之島周辺は朝の連続テレビ小説「あさが来た」の舞台としても、注目されましたね。

江戸時代初期、蔵屋敷との行き来のために架けられたと言われる栴檀木橋(せんだんのきばし)から見る中之島

大阪市立東洋陶磁美術館は、国宝や重要文化財を含む良質な陶器のコレクションで知られています。自然採光を取り入れたり、回転台で陶器が回り360度鑑賞できたりと、ユニークな展示が陶器ファンに人気です。

周囲の緑と、色調の異なる陶磁器タイルの外壁がマッチしています

いざ、美術館の中へ!

美術館の中へ入るとエントランスの天井から吊るされたマリメッコプリントが目に飛び込んできます。こちらの美術館は写真撮影が可能です。印象的なデザインは写真映えするので嬉しいですね。

期待に胸がワクワク!

今回の展示は、「マリメッコ・スピリッツ」と題した日本国内の特別展。3名のデザイナーが「JAPAN」をテーマとした新作パターンを披露しているのも話題です。

「JAPAN」がテーマのパターンを興味深そうに見る来館者

ついにマリメッコ茶室と対面!

今まで見たことのないキュートな茶室に、入った瞬間、思わず歓声をあげてしまいました!この茶室は、大阪の展覧会のためだけに設計されたものだそう。なんて贅沢なのでしょう。こんな茶室でお稽古したら、気持が浮き立ちそうですね。
私の茶道への入り口は、中学校の茶華道部です。文化祭では部員達でお点前をしましたが、こんなステキな空間があったら、さぞ盛り上がったことでしょう。

なんて可愛い!!こちらも写真撮影OKなのは嬉しいですね!

茶室の外観は、美術館の周囲の景色からファブリックが選ばれています。ひとつひとつ微妙に形の違う石が描かれている「Kivet(石)」は、近くを流れる堂島川のイメージの連想から。都会にありながら自然豊かな印象から、水と緑の自然を表す「Hyasintti(ヒヤシンス)」が施されています。

大胆な図柄なのに、お互いに引き立てあって美しい!

今までにないオリジナルな21世紀の茶室

茶室誕生のきっかけは、館長の出川哲朗さんの「フィンランド人と茶席に入るイメージで、上座や下座のない円形に近いものができないだろうか」というアイディアからでした。

出川さんの原案を元に茶室建築家の飯島照仁さんが設計デザインし、実現化していきます。しかしマリメッコのファブリックを使う試みは、予想以上の試行錯誤が続きました。「全く新しい茶室は、誰もが初めての試みでした。茶室制作の専門家集団の総力で、長い年月を経て作られてきた茶室文化の中で、今までにない21世紀の茶室が生まれたと思います」と出川さんは語ります。

茶道や茶室が何であるのか? マリメッコにはそこからの説明が必要で、学芸員の宮川智美さんが直接メールで何度もコンタクトを取って、進めていったそう。飯島さんが設計デザインで目指したのは市中の山居としての、簡素で趣きのある茶室。千利休が完成させたといわれている、古い草庵の茶室の写真を送って、デザイナーに思いを伝えました。

亭主が茶を点てる点前座に座る出川さんと、客座に座る宮川さん

マリメッコのファブリックを活かす挑戦

飯島さんは日本で唯一といっても過言ではない茶室を専門とする建築家です。現在、国内外の茶室と路地の設計に携わっています。今まで多くの茶室に関わった飯島さんにとっても、マリメッコとのコラボレーションは挑戦だったようです。「人気の高いマリメッコのイメージを壊さないか心配でしたし、今まで西洋のファブリックを使ったことがなかったので、最初は不安でしたね」と率直に語ります。

マリメッコのファブリックを手に取りながら話す飯島さん

茶道家としての顔も持ち、茶の湯の普及に尽力する飯島さんにとって茶室は、お茶が点てられる場所であることは大切な条件。飯島さんの提案により茶席の準備をする水屋のスペースも加えられることに。水屋の存在によって、実際に機能する茶室として、携わる関係者は具体的な意識に変化していったそうです。円形に近い優しい空間のイメージを元にして、床の間と水屋の配置、客の導線を考慮した八角形の茶室がデザインされました。

水屋空間には、マリメッコを代表するウニッコの2019年春バージョンが施されています。亭主が茶席に出入りする時に、客側から目に入る心憎い演出。「ウニッコはどこかに使いたいと思っていました」と出川さん。当初はよりインパクトのある赤を希望しましたが、マリメッコとのやりとりで、このデザインに。

対話から生まれた利休好みを意識した茶室

室内の壁は、植物が生い茂る暗めの「Letto(湿原)」のファブリックが使用されています。「当初はこのままだと印象が強いので、プリント生地の裏面を使うことを提案したのですが、マリメッコ側にとっては、それはとても受け入れられないことだったようです」と宮川さん。

代替案として考えられたのが、ファブリックの上から薄い和紙を貼って印象を和らげるというもの。床の間から水屋への入り口(茶道口)にかけては、手漉きの美濃紙を貼ったところ、落ち着いた空間に。「手漉き和紙の漉きむらが、機械的ではない隙間を生み出してくれました。千利休は、完全を超えた不完全なものを好みました。利休の茶室に見られる、丸い塗り回し、そして引きずり壁がイメージできて、求めていた茶室ができると確信できましたね」と飯島さん。

点前座側には壁の下側に白い和紙(西ノ内)、客座側には青い和紙(湊紙)を貼る利休時代からの「腰張り」を取り入れることで、茶室として調和の取れた空間に。

同じファブリックを使用しながら、床の間の左側と右側でまるで印象が違います。

マリメッコ側から最初は白い天井を提案されましたが、それでは洋室の印象が強いものになってしまう。「茶室の天井は清浄を保つ象徴的な意味と、竹やへぎ板で変化を与える役割」と伝えたところ、それならと創業者アルミ・ラティアによる「Tiiliskivi(レンガ)」が選ばれることに。

マリメッコにとっても未知の茶室を共に作ることは、新鮮な作業だった様子。双方の文化を理解して歩み寄った結果、草庵の茶室に使われる竹を縦横に配す「竹垂木(たけたるき)・竹小舞(たけこまい)」を連想させる天井となりました。

この茶室を手掛けたのは、飯島さんと数々の茶室に携わった専門家集団です。「茶室の工法にならって釘は1本も使わずに組んでいます」と飯島さん。床柱には京都の北山丸太を使い、障子は継ぎ目が印象的な「石垣張り」と、隅々まで神経の行き届いた本格的な仕上がり。

共通する戦乱の苦しさから求めた癒しの精神

マリメッコは約70年前の戦後間もないフィンランドで立ち上げられました。物資の少ない混沌とした時代に、色鮮やかで力強いデザインは、人々に元気を与えます。戦国時代を生きた千利休は、心の安らぎ求めて茶の文化を確立しました。「共に自然を大切にする点に、通じるものを感じますね」と飯島さん。利休好みスタイルとマリメッコの柄が、見事に調和したこの茶室は、年代や国や文化の違いも超える懐の深さを感じます。大阪の堺で生まれ異文化交流に積極的だった利休は、この茶室を見たらきっと喜んだことでしょう。

マリメッコ茶室で茶会も開催!後日動画も公開

7月には限定70名で、飯島さんが亭主をつとめる茶会も実際に催されました。使用された美術館所蔵の数々の名品の中には利休の花入れもある贅沢なもの。八角形の形は自然と車座の形になり、ほっこりとした居心地の良い空間での茶会になったそう。現在、茶室の様子をおさめた映像を作成中。完成後はwebサイトで見られるとのことです。

マリメッコ好きな若い女性が、「茶室を見学して日本文化に興味を持った」というコメントを寄せているそう。可愛いけれど、可愛いだけじゃない奥深い魅力に溢れたマリメッコ茶室は、一見の価値ありです。

特別展「マリメッコ・スピリッツ」

会期:2019年7月13日(土)~10月14日(月)

大阪市立東洋陶磁美術館 基本情報

住所:大阪市北区中之島1-1-26(大阪市中央公会堂東側)
開催時間:9時半~17時(入館は16時半まで)
休館日:月曜日(9月16日、9月23日、10月14日は開館、翌日休館)
入館料:一般1200円 高校生、大学生700円(中学生以下は証明書提示で無料)
公式webサイト:http://www.moco.or.jp/

※日本とフィンランド外交関係樹立100周年記念特別展示、「フィンランド陶芸・芸術家たちのユートピアーコレクション・カッコネン」、豊臣秀次が所持していた国宝・油滴天目茶碗などの平常展など、館内の展示がすべて見られます。

書いた人

幼い頃より舞台芸術に親しみながら育つ。一時勘違いして舞台女優を目指すが、挫折。育児雑誌や外国人向け雑誌、古民家保存雑誌などに参加。能、狂言、文楽、歌舞伎、上方落語をこよなく愛す。ずっと浮世離れしていると言われ続けていて、多分一生直らないと諦めている。