浮世絵といえば美術館で見る高尚なもの……そんなイメージを持たれている方も多いのではないでしょうか? しかし、盛んにつくられていた時代の浮世絵は、現代の雑誌や広告のように誰もにとって身近な存在でした。子どもにとっても身近なものだったようで、江戸時代後期から明治時代中期にかけては、ゲームのような作品が流行しました。「おもちゃ絵」と呼ばれた子ども向けの浮世絵は、双六のように遊ぶものや、切り抜いて小箱に貼るもの、カードゲームのように見せ合いっこするものなど、さまざまな形態で楽しまれていたようです。この記事では、今見てもキュートなデザインからプッと吹き出してしまうものまで、楽しいおもちゃ絵を3点をご紹介します。
江戸の人気職業! 力士がずらり!
与力に火消し、そして力士。「江戸の三男(さんおとこ)」にも選ばれた江戸の人々の憧れの職業、力士。大人向けの浮世絵にも主題として描かれることの多い相撲の力士ですが、その姿は臨場感あふれる試合の姿が多いかも? 一方、子ども向けのおもちゃ絵では、まるでカードゲームのように整然と描かれているのが特徴です。
そろいのポーズでみんな同じ姿のように見えますが、ヘアスタイルも顔つきも、まわしもちょっとずつ違うのです。同じ色を合わせたり、切り抜いて比べ合いをしたのでしょうか。自由に遊び方を考えられるのも、おもちゃ絵の楽しみのひとつです。
夢が広がる! 身の回りの日用雑貨
おもちゃ絵には、着せかえ人形のようなものがいくつかありますが、こちらは雑貨バージョン。1枚の浮世絵の中に、当時身近にあった生活用品が約100点描かれています。切り抜いておままごとのように遊んだり、欲しいものを選んだりして、理想の部屋を妄想していたのかもしれません。
「どうぶつの森」のような自分だけの空間をつくるゲームが大人にも人気であるように、このおもちゃ絵も大人も楽しんだのではないでしょうか。
ちょっぴり下ネタ! たぬきの八畳敷き
おもちゃ絵の題材のなかには、思わず笑ってしまうようなものも多くあります。例えばこの「たぬきの八畳敷き」をテーマにしたおもちゃ絵。さまざまな人物、職業、場面がひょうきんなたぬきの姿で描かれています。
遊び方を想像すると、切り抜いたものを順番に見ながら大人が子どもに描かれた内容を説明したり、絵だけ見せて書かれた文字を当てたり……。遊んでいる時間は、ニヤニヤが止まらなかっただろうなと想像できます。
教材としても役立てられたおもちゃ絵
葛飾北斎や歌川広重、歌川国芳など名だたる絵師たちもつくったといわれるおもちゃ絵。名前の響きから玩具のイメージが強くありますが、江戸時代の子どもたちにとっては身の回りの文化を学ぶ教科書でもあったようです。明治時代に入ると、文部省が教材用として本格的におもちゃ絵の製作に乗り出しました。また文明開化と同時に大人向けの浮世絵市場が衰退したこともあり、子ども向けの浮世絵が盛んにつくられるようになったといわれています。明治時代中期まで盛り上がったおもちゃ絵ですが、大正時代の関東大震災(1923年)を機に激減し、その流れは現代の児童雑誌の付録へと受け継がれます。
「誰でもミュージアム」とは?
パブリックドメインの作品を使って、バーチャル上に自分だけの美術館をつくる「誰でもミュージアム」。和樂webでは、スタッフ一人ひとりが独自の視点で日本美術や工芸の魅力を探り、それぞれの美術館をキュレーションしています。「誰でもミュージアム」はwebメディアだけでなく、各SNSアカウントや音声コンテンツなど、さまざまな媒体のそれぞれのプラットフォームに合わせた手法で配信。アートの新しい楽しみ方を探ります。