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2021.01.05

非効率だけど豊かな暮らし。遠野の養蜂家が作る「ウッドスマホスピーカー」に込められた想い

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私たちの身の回りにはモノが溢れている。使い捨ての過程に、愛着は存在しない。大量生産・大量消費の中で、私たちは安くて機能性が高いものを選びがちだ。しかし、一回立ち止まって、持続可能な暮らしについて考えてみる必要がある。その商品は誰がどこでどのように作ったのか。人口減少や環境破壊など数多くの社会問題が存在する今、より顔の見える消費を心がけたい。

2020年12月。「日本のふるさと」と言われる岩手県遠野市を訪れた。民俗学発祥の地とも言われ、柳田國男の『遠野物語』の舞台になった他、多くの人々を虜にしてきた場所だ。この場所でもう一度、里山と共にある持続可能な暮らしを見つめ直したいと感じた。そこで、猟師をはじめとする様々な人を取材してきた。

地域や自然と関わる仕事の魅力を伝える

取材を進める中で、養蜂家・猟師である高橋蔵(おさむ)さんという方に出会った。「昔から受け継がれてきた地域の養蜂組合や猟友会は高齢化が急速に進んでいる」とのこと。蔵さんは、それらの団体内では最年少という立場で、地域や自然と関わる仕事の魅力を伝えようと奮闘されている。

お話を伺う中で、「実は最近、こんなものを作ったんだよ」ということで、教えてくださったのがウッドスマホスピーカーだ。素朴な風合いで美しい木目のスピーカーにとても興味を持ち、詳しくお話を伺うことにした。

ウッドスマホスピーカーの誕生

このスピーカーはインテリアとしても使えるおしゃれなデザインになっている。蔵さんによれば、「家電量販店には性能の良いスピーカーがたくさんあるけど、あえて遠野の自然素材を使って製作したかった」という。そのこだわりの製作過程や背景が気になるところだ。

背景①活用されていない杉

蔵さんは前職で、林業担当の公務員をされていた。その際に、昔植えられた杉が今では活用されていないことを痛感したという。

杉は日本全国に数多く植えられており、昔から神社仏閣の建材などに使用されていた。一方で、花粉症の原因の一つにあげられるなど、日本人にとっては良くも悪くも身近な木だ。しかし、近年は外国産の木材が台頭する中で、活用されずに荒れてしまう杉林が増えてきた。

岩手県遠野市の杉林もその例外ではない。このような経緯から、地域の余剰資源である杉の木材を使ってスピーカーを製作しようと考えたのだ。

背景②ミツロウワックスを作っている

スピーカー製作の背景は、杉の活用だけにとどまらない。現在、蔵さんは養蜂のお仕事をされており、蜂蜜を作る傍でミツロウも作っている。ミツロウとは「蜂の巣」のことで、働きバチが蜂蜜を体内に入れた後に、蝋腺(ろうせん)という器官から分泌されて作られる。

そのミツロウ(2割)と遠野産のなたね油(8割)を混ぜ、ミツロウワックスとして商品化しているのだ。あくまでもミツロウは副産物。蜂蜜だけ売る人が多く、商材として考えていない場合が大半を占める。しかし、これが勿体無いので、有効活用したいと思ったそう。

ミツロウワックスと杉のコラボレーション

知り合いの木工作家・小関直さんに杉の端材をスピーカーの形に切り貼りしてもらい、それに蔵さん自らミツロウワックス(写真左上)を塗った。こうして完成したのが「ウッドスマホスピーカー」だ。杉は木目に表情があり、1つ1つ模様が違う。焦がし加工をすることで、良い味が出る。そこに安心安全の天然素材であるミツロウワックスを塗ることで、唯一無二の遠野産スピーカーが出来上がったのだ。

非効率だけど豊かな暮らし方

このスピーカーは、スマホの音が出る側を上から差し込み再生すると、横の穴から増幅した音が出る仕組みになっている。穴の大きさは一定なので、正直、市販のスピーカーのように音量を細かく調整をすることはできない。でも、自然を感じる木目の風合いは美しく、スマホスタンドのような機能も含め空間に置くだけでも癒される。そして、そこに込められたストーリーを含めると感慨深いものがある。プラスチックのような工業製品ばかりが溢れた都市の空間に、癒しを添える存在になるかもしれない。また、これをお土産品と考えれば、「遠野ならでは」を持ち帰る意味でとても良い一品となるだろう。自分用はもちろん、プレゼント用にするのも良いかもしれない。

蔵さん曰く、「効率を求めるなら市販されているスピーカーを買えばもっと良いものが手に入る。でもインテリア雑貨として、木のぬくもりが感じられるスピーカーは少ない。女性を中心として売れ行きも上々で、効率性を求めている人だけではないことがわかった」とのこと。これからの展開が楽しみだ。

杉原千畝と杉

ちなみに話は逸れるが、岩手県遠野市は杉原千畝の妻・幸子ゆかりの地(※)。千畝とも非常に関わりの深い土地だ。千畝が第二次世界大戦中にナチス・ドイツの迫害からユダヤ人を救ったのち、これに感謝したイスラエルは1985年に杉原千畝の名前にちなんで約400本の杉をエルサレムに植樹した。つまり、遠く離れたエルサレムと杉と遠野がキーワードとして繋がるのだ。何れにしても、その土地の人の想いが乗って、荒れた杉林が活用されたら嬉しい。持続可能な暮らしを考える上で、効率化された世界とは別にある豊かさを見つめ直したい。

※杉原千畝の妻・幸子は今の静岡県沼津市で生まれ、岩手県遠野市で育った。

ウッドスマホスピーカーとミツロウワックスは遠野市のふるさと納税の商品です。
・ウッドスマホスピーカーの詳細はこちら
・ウッドスマホスピーカーとミツロウワックスセットの詳細はこちら
・ミツロウワックスのみの詳細はこちら

書いた人

千葉県在住。国内外問わず旅に出て、その土地の伝統文化にまつわる記事などを書いている。得意分野は「獅子舞」と「古民家」。獅子舞の鼻を撮影しまくって記事を書いたり、写真集を作ったりしている。古民家鑑定士の資格を取得し全国の古民家を100軒取材、論文を書いた経験がある。長距離徒歩を好み、エネルギーを注入するために1食3合の玄米を食べていた事もあった。

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人生の総ては必然と信じる不動明王ファン。経歴に節操がなさすぎて不思議がられることがよくあるが、一期は夢よ、ただ狂へ。熱しやすく冷めにくく、息切れするよ、と周囲が呆れるような劫火の情熱を平気で10年単位で保てる高性能魔法瓶。日本刀剣は永遠の恋人。愛ハムスターに日々齧られるのが本業。