Culture
2020.12.21

祈るために踊る。映像舞踊作品「地水火風空 そして、踊」が配信!尾上菊之丞さんインタビュー

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舞台芸術として長い歴史を持つ日本舞踊ですが、コロナ禍により未だ舞台での上演は様々な制約や制限を余儀なくされ、日本舞踊家たちも舞台で踊る機会を数多く失ってきました。先行きの見えない不安の中、舞踊家たちが祈るために立ち上がり、劇場空間を飛び出して映像を制作しました!世界的な現代美術作家・杉本博司氏が設立した神奈川県・小田原の江之浦測候所(えのうらそっこうじょ)。あるいは奇跡の清流と言われる高知県の仁淀川(によどがわ)など、さまざまな場所で踊る舞踊家たち。日本舞踊家にとって、踊ることは生きること。踊りを通して希望を届けたいという願いに満ちた作品「地水火風空 そして、踊」が完成。2021年1月2日から配信されます。

日本の踊りは古来より、人々の祈りと願いを神仏に捧げたもの

作・演出を担当したのは、スーパー歌舞伎やラスベガスの歌舞伎海外公演の振付など多方面で活躍する尾上流家元の尾上菊之丞さん。「日本の踊りは古来より五穀豊穣や子孫繁栄、病気平癒といった人々の祈りと願いを、人間の身体を通して表現し神仏に捧げたものです。踊りの原点ともいえる祈りと願いを、映像芸術として観客の皆さまに届けることに挑戦しました。踏みしめる足は大地を鎮め、祈りの跳躍は炎を揺らす、突き上げる手は風を呼び込み、流れる水に清められた乙女は、天女となって空高く舞い上がる。そして、私たちはまた踊り出します。私たち日本舞踊家にとって生きていくために必要なものは、地・水・火・風・空という五大や五輪と言われる五つの要素のほかにもう一つ、『踊』 という要素なのです」と語る。それでは、この作品に込めた思いをお聞きしてみましょう。

ロケ場所のひとつとなった仁淀川に自ら入り、演出を考える尾上菊之丞さん。

ーー舞踊の原点でもある“祈り”。すでに様式美が確立された日本舞踊を踊っている中においても、その“祈り”ということを強く感じられることはありますか?

尾上菊之丞:まず第一に、三番叟(さんばそう)のように、五穀豊穣、子孫繁栄、国土安穏を祈願する儀式的な舞踊演目が数多くあります。道成寺も祈りの中にある作品と言えます。そもそも登場人物の内面や心のうちを表現することが舞踊の本分ですから、常に祈りの心を持って踊っていると考えられます。

江之浦測候所は、芸術的なパワースポットだ!


ーー今回、舞踊(祈り)の場所として、奇跡の清流と言われる高知県仁淀川、そして世界的な現代美術作家杉本博司氏が設立した神奈川県・小田原の江之浦測候所をお選びになっていますがその理由を教えてください。

尾上菊之丞:劇場ではなく屋外での撮影を考えた時、真っ先に思い描いたのが江之浦測候所のガラス舞台でした。昨年NHKの撮影で同地を訪れた経験があり、その時から江之浦での作品創りを意識していました。360度が舞踊の背景。そして無限を感じさせる舞台で踊ることで、理屈抜きに神聖な表現体になり得る可能性がある。その舞台の特異性は唯一無二、この場所以外にないと確信していました。どんなに強行スケジュールで江之浦に行っても、いつも生きる力、創造するエネルギーを与えられることを実感する、そんな場所です。
仁淀川は、今回主人公となる乙女が潔斎をする場所として選びました。その乙女が水中で踊るシーンを撮りたい!しかもできれば自然の中で!というのが発想でした。極限まで透明な水でなければ撮影が不可能。ミーティングでは「本物の水でなくても」とか「ロケは不確定要素が多いのでプールで撮影してはどうか」などのご提案をいただきましたが、江之浦との釣り合いが取れなくては作品として成立しないと考え、強行しました。しかもロケ地を探しているときに、偶然テレビ番組で仁淀ブルーを知り、高知の友人にすかさず連絡をとりました。

乙女が潔斎をする場所として選んだ仁淀川

仁淀川で潔斎をする乙女/藤間爽子

ーー実際にその場所に行かれた時に感じられたインスピレーションや、製作エピソードがございましたら教えてください。

尾上菊之丞:江之浦は芸術的なパワースポットだと思います。あの場所に立てば誰でも創作意欲が湧き出てくる。ここで踊りたい!創りたい!となるでしょう。自然と杉本博司氏の芸術との関わり、バランスを、五感を通じて感じられる。今回のタイトル「地水火風空 そして、踊」はロケ地を決定してから、何度か江之浦に足を運んだことによって生まれました。
仁淀川もロケハンで行ったときの興奮は忘れられません。川に足を入れるだけで全身が浄化されるような感覚でした。日本にもこんな美しい清流があるのかと。こんなことでもなければ、もしかしたら訪れることもなかったかもしれない。そう思うと、映像作品への挑戦は、私にとってかけがえのない経験。そして新たな世界への一歩を踏み出すきっかけをいただけた、貴重な機会と言えます。撮影の日は快晴でしたが10月末ということもあり、水の温度は大変な冷たさでした。出演の藤間爽子さんは、映像では涼しげな表情をしていますが、実のところは寒さとの戦い。何度も身体が硬直し、呼吸を整え、ギリギリの撮影でした。

祈りの場に立ち会うようなつもりでご覧いただければ幸いです

雨乞いの乙女たち/花柳喜衛文華、花柳笹公、花柳秀衛、坂東はつ花、藤間眞白、藤間蘭翔

ーー読者の中には、舞踊をどう観れば良いのかがわからない人も多いと思うのですが、今回の映像を観るにあたっての見どころやポイントがあれば教えてください。

尾上菊之丞:今回の「地水火風空 そして、踊」は、物語性はほとんどなく、各シーンが踊りの根源的な要素を含んだ祈りと願いで綴られています。元々踊りは、我々人間の想いや願いを神に捧げるためのものであったり、魂を鎮めるためのものであったわけです。
今の時代だからこそ、祈りの場に立ち会うようなつもりでご覧いただければ幸いです。言葉で伝えた方が伝わりやすいことは踊りで表現する必要がないのです。言葉では伝わりきらない想いや熱量を、見てくださる方に感じてもらいたいのです。そしてその思いが伝播することを望んでいます。圧倒的な自然の美しさと、日本舞踊という様式を通して美意識を磨いてきた我々の融合が見どころです。
まずは、理解しようとしないこと!楽器がメロディーを奏でるのと同じように、踊りは身体が音楽を奏で、リズムを発し、言葉を内包しているのです。音楽なら喜怒哀楽やシチュエーションを感じますよね。踊りも同じように音楽や踊りの動きから、喜怒哀楽やシチュエーションを想像してみてください。歌舞伎舞踊のように、役柄があり、物語がある作品とは一線を画します。絵画を見たり、音楽を聴くような気楽な気持ちでご覧ください。

2021年新春、祈りの場に、立ち会ってみましょう!


芸能の原点回帰ともいえる祈りに焦点をあて、踊り・音楽・豊かな自然が織りなす新感覚の映像舞踊作品「地水火風空 そして、踊」に、期待は膨らみます。作・演出は尾上菊之丞。キャストは日本舞踊界で活躍する19名の日本舞踊家たち。主演は、演劇・テレビなどで女優としても活動する若手日本舞踊家の藤間爽子。世界に希望をもたらす選ばれし天女役を舞い踊ります。また、日本舞踊松本流の前家元である歌舞伎俳優の松本白鸚が圧倒的な存在感で作品のテーマである祈りの心を体現します。ロケ撮影の中心となったのは、現代美術作家・杉本博司氏が設立した神奈川県小田原の江之浦測候所。松本白鸚の祈りを神々しく描く冒頭では東京・乃木神社。潔斎のシーンは、奇跡の清流と言われる高知県仁淀川。音楽を担当したのは演奏、作曲、プロデュースと多岐に渡る活躍で知られる藤舎貴生。振付は花柳昌太朗、花柳大日翠。

●配信チケット情報
映像作品配信公演「地水火風空 そして、踊」
配信日時/2021年1月2日(土)12:00〜2021年1月15日(金)23:59
配信メディア/PIA LIVE STREAM
チケット料金/¥3,500(税込)
※チケット購入には、会員登録(無料)が必要です。
※別途チケット発券手数料がかかります。
チケット販売期間/2020年11月21日(土)12:00〜2021年1月14日(木)23:59
チケット購入ぺージ/https://w.pia.jp/t/chisuikahuukuu/

主催/企画/問合せ先/公益社団法人日本舞踊教会
電話 03・3533・6455(平日10:00〜17:00)
メールアドレス info★nihonbuyou.or.jp (★を@に変えてお送りください)