なぜこんなにかわいいのか? さまざまな時代の日本美術を眺めていると、ふとそんな思いにとらわれることがあります。府中市美術館(東京)で開かれている「動物の絵 日本とヨーロッパ ふしぎ・かわいい・へそまがり」展には、どうも“かわいい”動物の絵が集結しているらしい! そんなうわさを聞いたつあおとまいこの2人はそそくさと出かけて、西洋のりりしい動物の絵と見比べながら日本の動物のかわいい描写を楽しみ、それぞれの画家たちのセンスに感じ入りました。
えっ? つあおとまいこって誰だって? 美術記者歴◯△年のつあおこと小川敦生がぶっ飛び系アートラバーで美術家の応援に熱心なまいここと菊池麻衣子と美術作品を見ながら話しているうちに悦楽のゆるふわトークに目覚め、「浮世離れマスターズ」を結成。さて今日はどんなトークが展開するのでしょうか。
モフモフの子犬を描いた江戸時代の名絵師
つあお:円山応挙(まるやま・おうきょ)といえば犬ですよね! 猫派のたわくし(=「私」を意味するつあお語)でも応挙の犬にはかなりメロメロになりますけど、犬派のまいこさんとしてはどうですか?
まいこ:日本画のかわいい犬の絵の中でも、応挙はピカイチだと思いますよ!
つあお:それにしても、なんてモフモフなんだろう。
まいこ:特に黒い犬と薄茶色の犬がモフモフですね!
つあお:これってみんな子犬ですよね?
まいこ:そう、子犬です! パピーですね! 私が子どもの時から17年間飼っていた犬もパッピ君という名前でした。
つあお:子犬を描くなんて、応挙もずるいなぁ。かわいいに決まってるじゃないですか!
まいこ:でも、こんなにかわいく描くのって、実はすごく難しいんじゃないですか?
つあお:そもそも応挙って、すごい技術の持ち主で、「リアリズムの画家」と言われる側面もありますからね。ちょうちょとかセミとかカブトムシとかを描いた写生帖を見ると本当にリアルで、この時代の日本の絵とは思えないほどです。
まいこ:そうでした! 子犬の絵があまりにもかわいくて、うっかりそれを忘れてました(笑)。そういえば、応挙はこわ~い幽霊の絵でも有名ですよね。初めて足のない幽霊を描いたのも彼ではないかと言われている。
つあお:生き物から幽霊まで! なるほど、わかったぞ! 応挙は、ひょっとしたらこの絵に子犬の魂を描き出しているんじゃないかな。
まいこ:わーお、素晴らしい解釈! 確かに、ものすごく写実的なんだけど、この子犬たちは現実にはなさそうな瞳やポーズで人の心に響くかわいさを表現したのかも。
つあお:江戸時代にはすでに犬のペット化が進んでいたそうですから、多分応挙は、愛玩動物として子犬を実際に見てもいたんでしょうけど、その姿のもっと奥にあるものを描き出したとも言えるんじゃないでしょうか。
まいこ:きっとそう! だから見るほうも、我を忘れて見入ってしまう
つあお:もう本当に目が釘付け!
まいこ:私の目も釘付けです! なんか、子犬がほかの子犬の上に乗っかってたり、その陰から目が半分だけ出てたりするのがやたらかわいい!
つあお:きっと子犬って本当にそうやって遊ぶんだろうけど、なんだかそういうリアリティーがあるっていうよりも、応挙の思いが表れているような気がしますね。
まいこ:応挙も子犬が大好きだったんですね! 気が合いそう(笑)。そう思いながらジーっと見ていたら、描かれたのがかわいい犬になるための重要なポイントを見つけました。
つあお:ほぉ。どこですか?
まいこ:口があることです!
つあお:ワン!
まいこ:そう、そしてその口が笑ってることですね。
つあお:ホントだ。子犬たち、笑ってますね!
短い手足がたまらない猫
つあお:猫も犬に負けてはいられません!
まいこ:そうそう! 猫好きのつあおさんとしては、頑張らないと!
つあお:応挙よりはずいぶん後の時代なんですけど、この展覧会には昭和時代の洋画家、長谷川潾二郎のとっても素敵な猫の絵が出品されてるんですよ!
まいこ:2枚ありますね!
つあお:そうなんです。2枚とも猫は横になってるんですけど、ヒゲを顔の片側に3本しか描いてない眠った猫のほうが、この画家の絵としては有名です。
まいこ:へぇ。ちなみに、どうしてその猫のヒゲは3本なんですか?
つあお:画家が6年ぐらいかけて描いているうちに、その猫が死んじゃったらしいんです。それでやむなく。
まいこ:あら〜。6年もかけて1匹の猫を描くというのはすごい!
つあお:よほど思い入れがあったのでしょう。それでね、長谷川潾二郎にはもう1枚猫の絵がある。それがまた、すごくかわいいんですよ! この絵です。
まいこ:クッションの上にいるみたいだけど、空を飛んでるようなポーズにも見える!
つあお:なんか短い手足を投げ出しちゃってて、もうたまりません。
まいこ:つあおさん好みの猫なんですね(笑)。
つあお:ふふふ。
まいこ:ほかにかわいいと思えるポイントがあるんですか?
つあお:なんだか、今ひとつ写実的じゃないところが、やっぱりかわいいんじゃないかと思うんです。
まいこ:なるほどー! 写実的だと猫の目って怖いかも。
つあお:何せ、もともとは猛獣ですからね。
まいこ:ネズミや鳥を食べる肉食ですからねー。でもこの絵だと肉食っぽくない。
つあお:キャットフードでオッケーです(笑)。
まいこ:毛糸が転がってるのも、この猫がおっとりしてることを表してるみたいに見えます。
つあお:猫って遊ぶのが大好きですからねぇ。
まいこ:毛糸に絡んでモシャモシャにしちゃうのかな?
つあお:しちゃうしちゃう。やっぱり画家は、家で遊んでる猫を見て魂をつかまれたんでしょうね。
まいこ:もう1枚の絵のトラ猫と2匹飼ってたのかな?
つあお:多分、描いた時期が違うんだと思います。
まいこ:つあおさんも飼ってみてはいかが?
まいこセレクト
この子犬も超絶かわいい! 円山応挙のリアルな子犬たちとは対極にあるほど単純化されていて、本物に似せて描く気など微塵もなさそう。突き抜けたゆるさの中にハートを射抜くほどのかわいさが宿っています。
か弱く細長い足と、謎にぽっこり膨らんでいるお腹。そのお腹に紐をくくりつけられているのに本人は全然気にしていなさそうな無垢な顔。。。
そして今回知った衝撃的な事実は、手紙か何かを紐でくくりつけられて歩いている場面なのかと思っていたのに、杭に結びつけられている場面だということ! あまりにリアル感のないヘタさに(仙厓さんごめんなさい!)思わず吹き出してしまい、さらにこの絵が好きになりました。
でもそれで「きゃふんきゃふん」と鳴いているのですね。かわいそう~! こんなに頼りなさそうでかわいい犬が鳴いていたら、ダッシュで走り寄って救出し、家に連れて帰りますよ!
【豆知識】
「動物の絵」展の企画者の一人である府中市美術館学芸員の金子信久さんによると、この絵の主題は「狗子仏性(くしぶっしょう)」。禅の有名な公案の一つで「犬にも人間と同じように仏性、つまり仏になる資質があるか」(金子信久著「かわいい江戸の絵画史」より引用)ということを問うものだそうです。 このゆるさをもってそんな難題を突きつけてくるとは! 恐るべし仙厓!!
つあおセレクト
江戸時代の日本には虎はいなかったので、絵師たちは中国伝来の絵画だけでなく猫を見て描いたなんて言われることがよくあるけれど、それにしても、何たるかわいさ! 所蔵している京都国立博物館はキャラクター化して「トラりん」という愛称をつけ、着ぐるみまで作ってしまったほどなんです。やはり猫族は素晴らしい!
つあおのラクガキ
浮世離れマスターズは、Gyoemon(つあおの雅号)が作品からインスピレーションを得たラクガキを載せることで、さらなる浮世離れを図っております。
虎も猫族。箱や桶があればどうしても入ってみたくなるようです。さて、この桶巣虎(オーケストラ)は、どんな演奏をするのでしょうか?
展覧会基本情報
展覧会名:府中市美術館 開館20周年記念 動物の絵 日本とヨーロッパ ふしぎ・かわいい・へそまがり
会場名:府中市美術館(東京都)
会期:2021年 9月18日(土)〜 11月28日(日)
前期:9月18日(土)〜 10月24日(日)
後期:10月26日(火)〜 11月28日(日)
*展示替えあり
公式ウェブサイト:http://fam-exhibition.com/doubutsu/