贈り物を購入したときに「熨斗(のし)はいかがいたしますか」と聞かれて、「どうしたらいいんでしょう、教えてください」と尋ね返したくなったこと、ありませんか。
「内熨斗ですか、外熨斗ですか」なんて聞かれたって、どっちがいいのか正直よくわからないし、むしろ教えて!
今回は知っておいて損はない(はず)、熨斗の種類と選び方を調べてみました。地域によってしきたりが異なることもありますが、まずは基本をざっくり押さえてみましょう。
そもそも熨斗とは?
熨斗というのは熨斗あわびの略。そう、高級海鮮のあわびです。薄く押し伸ばして、乾燥させたものが熨斗あわび。古くから結婚などの祝い膳の肴(さかな)とされ、また贈り物に用いられてきました。
今のように物が豊かではなかった時代には、贈り物の品数は多いほうがよいとされていました。
その名残でやがて贈り物に細長い熨斗あわびの1辺を添えることで、お祝いの心尽くしとする習慣がうまれます。それが簡略化されて黄色い紙をあわびに見立てた熨斗飾りを使うようになり、さらに熨斗飾りの絵を印刷した祝儀袋やかけ紙を使うようになったのです。
つまり、熨斗というのは贈り物にかけるあの紙のことではなくて、リボンのような水引(みずひき)のことでもなくて、右上についている細長い飾りのことを指しています。
あわびを添えたのは、なまぐさいから!
大切な贈り物にあわびを添えるのは、ハレの日に「なまぐさもの」といって魚や肉を食べる習慣と関係があります。なまぐさいにおいが魔よけになると考えられていたのだそう。
仏教では凶事があったときに身を慎んで魚や肉を控えるため、なまぐさものを添えることがお祝いの印にもなりました。熨斗あわびは乾物なので、日持ちがする点も便利だったのでしょう。地域によっては、乾燥させた魚のヒレをひっかいたものや、鶏の羽根を1本添えるところもあったそうです。
だから理屈としては、魚や肉を贈り物にするときはそれ自体がなまぐさものなので、熨斗はつけなくてもいいんですって。
熨斗の種類と選び方
祝儀袋のことを「熨斗袋」、贈り物につけるかけ紙のことを「熨斗紙」ともいいます。どちらも、右上に熨斗がついていますよね。熨斗袋や熨斗紙を選ぶときに気をつけたいのが、水引(みずひき)の形です。
水引というのは和紙を細長いこよりにして、糊などを塗って乾かしたもの。大切な贈り物を白い和紙で包んで水引をかけることで、穢れのない清らかなものを贈りますという心を表しています。お祝いごとには紅白の水引を使いますが(結婚などには金銀を使うことも)、気をつけたいのがその結び方。
蝶結び 繰り返してもよいお祝いに
ひもを引くとすぐにほどけて、何度でも結びなおすことができる蝶結びは、繰り返し起こってもよいお祝いに使います。お年賀やお中元、お歳暮などの季節のあいさつ、出産内祝い、新築祝いなど基本的には、ほとんどの贈り物はこちらでOK。
結び切り 結婚祝いはこっち!
結び切りといって、結びなおすことができない形の水引は、一般的には繰り返さないほうがいいとされる祝いごとに使います。結婚祝い、結婚内祝い、病気見舞い、快気祝いはこちらを使うのが基本。
贈り物を包むときの水引の本数はもともとは1本でしたが、現在では5本、7本、10本などのバリエーションがあります。水引の結び方も「あわじ結び(あわび結び)」や「輪結び」などバリエーションがいろいろありますが、まずは上記の2つの使い分けを覚えておくと安心。
内熨斗と外熨斗は、どっちが正解?
贈り物に熨斗紙をかけて、その上から包装紙をかけるのが内熨斗。包装紙で包んでから熨斗紙をかけるのが外熨斗です。
「これは清らかな贈り物ですよ」と一目で伝えるという意味では、外熨斗が本来に近いスタイルということになるでしょうか。もし控え目に渡したいなら、内熨斗に。宅配便で送る場合なども、内熨斗にすると熨斗が乱れたり汚れたりしないので安心です。
不祝儀には熨斗はつけません
「御霊前」や「御仏前」と表書きのある袋や、仏様のお供え物につけるかけ紙には、右上に熨斗がついていないのがスタンダードです。不祝儀ですから、なまぐさものは避けるということ。水引は黒と白または黒と銀の結び切りです(地域によっては黄色と白の水引を使うことがあります)。
祝儀、不祝儀のマナーは、地域によっても異なります。不安があれば身近な年配の方に相談したり、地域の事情に詳しい地元の百貨店などで手配をしたりすると安心です。
参考書籍:
日本大百科全書(ニッポニカ)
世界大百科事典
日本国語大辞典
平成ニッポン生活便利帳
生きるお中元お歳暮(淡交社)