2018年9月24日まで、岡田美術館で「初公開 田中一村の絵画 -奄美を愛した孤高の画家-」が開催中です。岡田美術館主任学芸員の小林優子さんにみどころを解説していただきました。
美・知・心をみたす展覧会
「今回の展覧会を開催するにあたって、一般の方はもちろん、美術関係者の間でも、田中一村という画家が意外に知られていないことに驚きました」と、担当学芸員の小林さんは率直な感想を語ります。生前は無名に等しかった一村ですが、1984年に美術番組で取り上げられたことをきっかけに注目され、2010年には大規模な回顧展も行われました。近年、再評価著しいといわれながらも、まだまだ“知られざる”存在です。
田村一村「白花と赤翡翠」昭和42(1967)年 岡田美術館蔵 ©2018 Hiroshi Niiyama
「一村作品の魅力は、まず“配色の美しさ”。そして“発色の美しさ”。さらには、迫真的な写実表現による「臨場感」。そして、完成度の高い“静謐な画面”だと思うのです。今回の展示の中心は、一村が晩年の20年間を過ごした奄美大島で描かれた作品。『白花と赤翡翠』の緑、特に白い花の部分と混ざり合っているグラデーションや、『熱帯魚三種』の、キラキラと輝く絵具の美しさには、きっと驚かれると思います」(小林さん)
明治41(1908)年に栃木に生まれた田中一村。17歳で東京美術学校(現・東京藝術大学)に入学するも、2か月あまりで退学。公募展でも入選したのはごくわずかで、中央画壇で活躍することはありませんでした。しかし、独学で制作を続け、50歳を前にして旅した九州で南国の美に目覚め、奄美に移住。大島紬の染色工として5年間働いて資金を貯めたら、3年間は制作に集中、そして再び染色工の仕事へ戻ることを繰り返すという、強い意志と覚悟をもって、制作に挑みました。
「だからこそ一村は、絵具を尊んで、それを最大限に生かすために、鍛錬を重ねたのでしょう。同じ絵具を使って、これほどまでの表現ができる画家が何人いるだろうか、と思います」(小林さん)
田村一村「熱帯魚三種」昭和48(1973)年 岡田美術館蔵 ©2018 Hiroshi Niiyama
最高傑作と名高い「アダンの海辺」(展示期間:8月24日〜9月24日、個人蔵)も特別展示。
「画面のどこを見ても完成度が高く、見るたびに発見があります。その画風から一村は“昭和の若冲”とも称されており、そこで今回は、当館収蔵の若冲の作品も併せて展示。さらに、東京美術学校日本画科の同期で、同い年の東山魁夷の作品も出品し、3人の作品を見比べていただける、またとない機会になっています」(小林さん)
伊藤若冲「花卉雄鶏図」(部分)江戸時代 岡田美術館蔵
奄美時代の一村作品は、約30点しか現存せず、ほとんどが奄美大島の田中一村記念美術館か個人の所蔵。その稀少な作品3点に、奄美以前の作品、そして若冲、魁夷まで。新たな発見がありそうな、見逃せない展覧会です。
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