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2022.10.03

“織りの宝石“ファンシーツイードで創る着物がかわいい!日本の色彩美を映す「スミレ イシオカ」

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「ツイード」と聞いてまず思い浮かべるのは華やかな『シャネル』のスーツ、という方は多いのではないでしょうか。スコットランド生まれの伝統的なファブリックであるツイードは、もとは男性ものの生地でした。しかし、1920年代にガブリエル・シャネルによって世に放たれた華やかな「ファンシーツイード」は、鮮やかな色糸や異素材同士の組み合わせによる独創的な生地で、以降トレンドに左右されないモダン&エレガンススタイルとして定着していきました。

今回フォーカスするのは、そんなファンシーツイードで創る「ツイード着物」を展開するブランド『SUMIRE ISHIOKA』。2022年6月~7月に東京・帝国ホテルプラザで開催された期間限定のポップアップイベント『〜心地良い上質を楽しむライフスタイル総合展〜【クリエーションアムール】プロデュース』に赴き、キモノアーティスト石岡すみれさんにお話を伺いました。

日本の色彩美を映す、唯一無二のツイード着物

――「ツイード着物」とお聞きしてイメージしたのはシックでエレガントな雰囲気でしたが、実際に拝見してその色彩の豊かさ、そして華やかさに驚きました!2022年で設立9年目となる『SUMIRE ISHIOKA』。ブランドの代名詞として設立当初から一貫して創り続けていらっしゃるツイード着物ですが、洋服のイメージが強いツイードで、着物を作ることになったきっかけは何だったのでしょうか?

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石岡さん(以下敬称略):幼い頃から、身に纏うもの=ファッションが大好きでした。ハレの日に着物を纏う母の影響もあって着物に興味を持ち、着物専門学校での学びを通して、着物の形を崩さずにもっと自由な表現をしてみたいという気持ちが大きくなっていた頃、ツイードの中でもとりわけ華やかなファンシーツイードに出逢いました。“織りの宝石”とも言われるカラフルでパワフルな生地に魅せられて、この生地で着物を作りたい!と思ったのがきっかけです。

国内やパリで生地の買い付けをしながらも、表現したいイメージにより近いものを創りたい想いから、オリジナル生地の製作を手がけるようになったのが2016年でした。自然豊かな場所で育った私にとって、ツイードの色や素材のとり合わせには、四季の移ろいを感じさせてくれる日本固有の色を映しとって織り上げていくような感覚があり、今もオリジナル生地づくりの原点になっています。


――ツイードのどんなところに魅力を感じていらっしゃいますか?

石岡:ツイードの魅力はたくさんありますが、まず様々な素材を織り込めるところです。一般的に、着物は絹や木綿など単一の素材で織られることが多いですが、『SUMIRE ISHIOKA』の着物には、複数の素材が織り込まれています。絹や木綿はもちろん、麻や和紙など色々な素材を組み合わせることで、唯一無二の着心地や、奥行きのある風合いを表現することができます。

生地の中で糸が持つ本来の色が濁らないことも魅力のひとつです。染めではなく織りだからこそ、糸1本1本の美しさが際立ちます。彩色は平安時代の襲(かさね)の色目や、日々目にする自然の風景からインスピレーションを得て、そこから美しい色彩を選り分け突き詰めていくことで『SUMIRE ISHIOKA』のツイード生地が生まれているのです。

またツイードは、遠くから見た時と近くで見た時で生地の印象が変わることも多く、精巧なギミックを感じられる面白さもありますね。


――これだけたくさんの色や素材が入っていると生地の製作過程もかなり複雑そうですね。特に難しいのはどの段階なのでしょうか。

石岡:まず糸を染めていただく段階での色の調整がとても難しいですね。現状ではリアルタイムで染まり具合を確かめることができないので、何度も試作品を作っていただき、イメージに近づけていきます。そして素材選びと組み合わせに関しては、使用する素材、さらに織り方によっても全く違う肌触り、重み、厚み、質感になります。

現在『SUMIRE ISHIOKA』のオリジナルラインのツイード着物は、海外ハイブランドのツイードを数多く手がけておられる岩手の工場で織っていただいています。ツイードは、素材の数が多いほど高い織りの技術が必要で、非常に高い技術がなければ着心地や風合いがまるで変わってしまいます。このハイレベルな織りができる工場は世界でも数少なく、納得できる生地が出来上がるまで職人さんとともに試行錯誤しています。

シーンレス・ボーダーレス・ジェンダーレスへ導く“一点もの”へのこだわり

――着物は色々なルールがあって難しいという印象を持たれている方もいらっしゃいますよね。一般的に“織り”よりも“染め”の格が高いとされ、フォーマルには染めの着物である振袖や訪問着を着るもので、織りの着物である紬は着られないなど。ツイード着物は“織り”の着物になると思うので、やはりカジュアル向けなのでしょうか?

石岡:ツイード着物は、基本的にはあまりシーンを問わず纏っていただけると思っています。*お召に近い感覚ですね。お客様からは、合わせる帯や周辺小物によって自由に趣を変えることができるため、一般的に織りの着物はNGとされる結婚式や初釜、式典などフォーマルな場にも着ていくことができるというお声をいただいております。お客様ご自身の表現として場に花を添えるだけでなく、例えば生地に使われている色を何かに“見立てる”ことで会の趣旨をさりげなく取り入れるなど、コーディネートの幅が広がる楽しみもあります。

また、ツイードというと秋冬のイメージを持たれている方が多いため、春夏の軽やかなツイードでのコーディネートは意外性があって楽しいですよ。花柄などは時期を選ぶものが多いですが、季節を選ばず纏うことができるところもツイード着物の魅力です。

*お召(おめし)…“高貴な方がお召しになる”ことから名がついたと言われる織りの着物の一種。着心地の良さとシャリ感のある上質な風合いが特長で、柄によってフォーマルからカジュアルまで着用可能。

――ご利用になるお客様は、どのような層の方が多いのですか?

石岡:着物をあまり着たことがない方や、着物はたくさん持っているけれど手持ちの帯や小物でもっと変化を楽しみたいという方、いわゆる古典的な着物ではない個性的な着物をお探しの方、パーティーに着ていく華やかなものをお探しの方、スタイリストの方など様々です。

世代も10代から70代以上の方までご利用いただいています。海外の方からも好評で、帯の代わりにスカーフを巻いてガウン代わりに楽しむ方もいらっしゃいますね。ご希望に応じて大きめのサイズに仕立てることもできるので、男性の方にも喜んでいただいています。

――年齢・性別、そして国籍も問わず楽しめるオシャレな着物というのは、これまであまりなかったように感じます。『SUMIRE ISHIOKA』の着物はすべて1点ものということですが、これも人気を支えているポイントなのでしょうか?

石岡:はい、これは『SUMIRE ISHIOKA』の強みの一つだと思います。実際に、他にはない世界にひとつの“自分に似合う、自分だけの着物が欲しい”と仰るお客様が多くいらっしゃいます。コロナ禍以降の鬱々とした日々の中、華やかな色彩の着物を求めてうちにいらっしゃる方がとても増えました。唯一無二の個性を出せる1点ものであること、そして多彩な着方にフィットするツイードであること。この二つの要素の相乗効果によって、大量生産のものでは叶わない“自分らしさ”を表現できる“纏うことの叶うアートピース”になるのだと思います。

大好きな一着に愛着を持ち“ものを大切にする”という哲学、さらに“世代を越えて受け継ぐ”精神を、ブランドを通して世界に発信し続けたいという思いで作品を創っています。

大量に作らない。無駄にしない。小さな一歩でも、未来のために。


――『SUMIRE ISHIOKA』では着物以外に小物も販売されています。これらは着物や羽織の製作で余った残布を使っているとのこと。大量生産ではなく“一点もの”として無駄をなくそうとしている点も含め、現代のサスティナブルを意識する風潮にマッチしているような気がします。エコなモノづくりを意識したきっかけはあったのでしょうか?

石岡:着物というもの自体が本来サスティナブルですよね。糸をほどいて染め直しや仕立て直しをすれば長く身に付けることができますし、世代を超えて受け継ぐことも可能です。また、ほぼすべて直線裁断の無駄のない作りになっているので、残布を活用しやすいというメリットもあります。小物は、着物を纏う機会がない方でも楽しんでいただけるように作り始めました。着物や羽織のメインとなる作品の製作過程で産まれる“残糸や残布”を活かす取り組みは、ブランド当初より継続しているアクションのひとつです。少しでも環境に配慮したい気持ちがあり、また一点もので製作しているため、ギフトとしてお選びいただくことも多いです。

“一点もの”にこだわっている理由としては、大量生産のものよりも、その一点ならではの価値が産まれるためです。ツイード生地と裏地、ステッチなど数ある組み合わせの中から、本当に気に入ったものを選ぶ。そのことが、結果的に長く愛していただくことにつながるのではないかと考えています。

“懐かしい未来の創造を産みだす”。妥協なきモノづくりの精神


――モノづくりで大切にしていることはありますか?

石岡:美しさの追求、製作過程、そしてご縁でしょうか。世にあまたある衣服の中で選ばれるためには、まず“人の心が動くもの”であること、作品が美しくあることが大切です。そのためには作り手である私が本当に美しいと感じ、表現する感受性を磨き続けること、日本の色彩を取り入れた生地や仕立て、柄合わせなど細部に宿るところまで妥協しないモノづくりを大切にしています。

私はキモノアーティストとして、100年後に残るような作品を表現し創造していくために企画、織り、縫製を日本で一貫して行っています。それは、丁寧なものづくりを大切にしたい想いと、伝統的な分野における雇用を増やしたい想いが根底にあるからです。多くの人が選ばない道のりを選択することは、創造の過程以上に苦しさの連続ですが、ご縁があって出逢えたお客様に、喜んでいただけたときの達成感は何事にも変えがたい幸福です。

――今後作ってみたいものや将来のビジョンを教えてください。

石岡:作品が、手に取る方にとって常に“新しい発見や問いかけのある”ものであって欲しいと願っています。装いを通して四季を感じたり、丁寧に自分と向き合う時間を持てるのも着物の醍醐味ですよね。明日を自分らしく生きていくために、愛する一着を纏う喜びを見つけていただくお手伝いができたらいいなと思っています。

また伝統を守ることばかりにとらわれず、ツイード着物の持つ汎用性を生かして着物とは全く別の分野との融合も大切だと考えています。そのために他分野で活躍されている方々と出逢い積極的にご縁を紡いでいくこと、地域に根ざしたモノづくりや伝統的文化への学びを深めることが究極のアートピースを産み出すことに繋がると思います。

歴史から学び、伝統の先を見据えて未来へ遺していく。ブランド設立時から掲げている“懐かしい未来の創造を産みだす”ことをひとつひとつ形にしていく中で、地域の方々や文化の発展に貢献していくことができれば嬉しいです。

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今回の取材を通して、モダンで美しいデザインが目を惹く『SUMIRE ISHIOKA』のツイード着物のバックグラウンドには、伝統の色彩や織りの技術をこよなく愛する石岡さんの熱い想いと、モノづくりに対する圧倒的なこだわりがあることがわかりました。

このような伝統とモノづくりに対する真摯な姿勢を貫き続けていることこそが、お客様の心をつかみ、今後さらに進んでいくはずである多様性の時代にも、普遍的な価値を提案し得る原動力になることでしょう。

2023年、『SUMIRE ISHIOKA』はブランド10周年を迎えます。現在はその準備を進めている真っ最中なのだそう。今後どのようなツイード着物の世界を見せてくれるのか、期待が高まります!

【SUMIRE ISHIOKA】
公式サイト https://www.sumireishioka.com/
公式インスタグラム https://www.instagram.com/sumire_ishioka/

書いた人

広島出身。ライター&IT企業会社員&カジュアル着物愛好家。その他歌舞伎や浮世絵にも関心がアリ。大学卒業後、DTMで作曲をしながらふらふらした後、着物ムック本の編集、呉服屋の店長を経て、現在に至る。実は10年以上チロルチョコの包み紙を収集し続けるチロラーでもある。