『鬼滅の刃 刀鍛冶の里編』では、「300年以上前の刀」が出てきて主人公の炭次郎たちが驚く場面があります。確かに300年という歳月は非常に長いもの。ですが、実はその頃に作られたものは日本刀としては比較的若い分類に入るのです。
『鬼滅の刃』の舞台(=大正時代)の300年前に作られたのは「新しい刀」!?
作中では「300年『以上』前の刀」「戦国時代」と言っているので該当はしないのですが、仮に『鬼滅の刃』の舞台である大正時代(1912~1926年)からきっちり300年さかのぼるとすると、それは江戸時代初期。「新刀期(しんとうき)」と呼ばれる時代にあたるのです。
300年前のものが「新しい」!? いったいどういうことだ……。
日本刀の、とてもざっくりとした歴史解説
では、日本刀の歴史はどうなっていて、どのくらいまでさかのぼることができるのでしょう?
形状の変化やらなにやらの詳細まで書いていくと、たぶん読者の皆様が飽きてしまうと思われるので、ざっくりと書いて――え? 詳細までちゃんと書け?
いや、やっぱりざっくりとにしておきましょう、自重せい、という声が背後(へんしゅうぶ)から聞こえてきた気がします。
日本刀成立は平安時代の中期~終わり頃
こんにち日本刀と聞いて思い浮かべる片刃の湾刀(わんとう)は、平安時代の中期~終わり頃に成立したとされています。それ以前にも古墳時代から日本国内に刀は存在しましたが、大陸から渡来したものを踏襲した形状(まっすぐな「直刀[ちょくとう]」や、両方に刃がついた「剣[けん]」)が中心でした。
そこから次第に日本独自の発展をしていったと見られています。年代は西暦1000年前後、今から約1000年前になります。
日本刀の時代区分
約1000年前から現在まで日本刀は作り続けられているのですが(現在も現役の刀鍛冶がいるんです!)、この1000年間は大まかに3つ(あるいは4つ)の時代に分けることができます。
細かな年代は後で説明しますが、まずは大づかみに。
日本刀の成立~戦国時代に作られたものを「古刀(ことう)」、江戸時代~明治9年のものを「新刀(しんとう)」、それ以降の作を「現代刀(げんだいとう)」と呼び、新刀のうち、もう1つさらに分けて幕末の刀を「新々刀(しんしんとう)」とすることもあります。
さて、これらの区切りはそれぞれどんな根拠によるものでしょう?
では、シンキングタイム開始!
はい、おしまい。それぞれの答えを順番に見ていきましょう(なお、この分類にも異説があることをあらかじめお断りしておきます)。
古刀期
日本刀の形が成立してから文禄末年(1596年10月27日まで、同年・慶長元年)までを古刀期と呼びます。
しかしこの期間は約600年という長期に渡り、形にも様々な変遷がありました。
と、その前に1つ、先ほどは日本史の区分で説明したのですが、実は刀剣史では独自の時代区分を使用します。古刀期はさらに平安時代末期、鎌倉時代初・中・末期、南北朝時代、室町時代初・中・末期・安土桃山時代(※安土桃山時代は新刀期にも跨っている)、と細分化することができます。それぞれに特徴があるのですが、そこは割愛ということで。
ちなみに、古刀より古い時代のものを「上古刀(じょうことう)」、その時代を「上古刀期」と呼びます。
新刀期
慶長元(1596)年~明治9(1876)年を新刀期と呼びます(新々刀期については次章で解説)。新刀とは「新しく作られた刀」という意味で、この言葉が生まれた時代(当時は「あらみ」と読んでいました)には、江戸時代の刀も「最近作られたもの」だったのです。
古刀と新刀では作風が大きく変わるのですが、もちろんこの年にぱきっと切り替わるわけではないので、この前後の移行期を指す「新古境(しんこざかい)」という名称もあったりします。
作風の変化の要因が何か、というのはいくつかの要素が複雑に重なっていると見られるため、これだ! と断言することはできません。その辺りについては以下の記事にて。
日本刀剣の材料「玉鋼」って?謎に満ちた七色の鉄の波乱万丈な歴史が泣ける
徳川家による支配の時代であり、絵画のような華やかな刃文の刀が多く作られた時代でもあります。
新々刀期
新刀期のうち、文化・文政年間(1804~1829)[あるいは明和元(1764)年]~明治9(1876)年を新々刀期とすることがあります。というより、けっこうこの分類が定着しています。
ここもまた、大きな作風の変化があった時代です。
水心子正秀(すいしんし まさひで)や南海太郎朝尊(なんかいたろうちょうそん)らによって、鎌倉時代や南北朝時代の作風に立ち返るべきという「復古新刀論(ふっこしんとうろん)」が唱えられ、新々刀には「復古新刀(ふっこしんとう)」の別名も。
始まりの年にいくつかの説がありますが、いずれも「新々刀の祖」と呼ばれる水心子正秀が大きなキーワードとなっています。
現代刀
明治10(1877)年から現在までの作を現代刀と呼びます(現代刀「期」とはあまり言わないように思います)。
作風の変化があった前項までと異なり、これは明治9年の廃刀令が区切りとなっています。廃刀令以後、刀工がほとんど刀を作れなくなり、その後再興し、太平洋戦争を経て現在まで至る、そして恐らくこれからも続いていく、現在進行形の時代区分です。ここにも大いなるドラマがあるのですが、それはまた別の機会に。
1000年前の刀に触れるって!?
ところで、日本刀には実際に触れることができる、というのをご存知でしょうか?
よく「銃刀法違反にならないの?」と言われることがあるのですが、刀に触れること・所持することに特別な許可は必要ありません。誰でも日本刀に触れ、持つことができます(所有するには刀ごとに所有者情報を届け出る必要あり。審査等はありません)。
許可が必要なのは、人ではなく、刀そのもの。その理由や歴史は以下の記事で。
GHQの刀剣接収騒動とは?赤羽刀の顛末と日本美術刀剣保存協会設立の経緯を徹底解説
日本刀は、刀剣店や日本刀の鑑賞会などで実際に手に持つことができます。そのため、時に1000年前の刀を持つこともできるのです。
とはいえ、そこには人間と、日本の文化財である日本刀を守るためのルールがありますので、触れる際にはしっかり教えてもらいながら、あるいは予習していって、安全に楽しみましょう。重さや感触からも歴史を学ぶことができますよ!
アイキャッチ画像:刀 銘 大阪住月山貞一精鍛之 明治二十七年十二月日 彫物同作 東京国立博物館蔵 出典:ColBase(https://colbase.nich.go.jp/)をトリミング加工
参考文献:
・『刀剣鑑定手帖』公益財団法人日本美術刀剣保存協会
・『日本刀の歴史と姿形の変遷』日本美術刀剣保存協会
・小笠原信夫『日本刀の鑑賞基礎知識』至文堂
・杉浦良幸『日本刀ハンドブック』里文出版
・渡邉妙子・住麻紀共著『日本刀の教科書』東京堂出版
・『図説日本刀事典』歴史群像編集部、学研