美しい「床の間」のしつらいを見ると、「日本っていいな」と素直に思うことがあります。しかし機能的な住まいを求められるようになった今、マンションなどの新築住居に和室のある物件のほうが珍しくなってきました。けれど床の間が「お気に入りのものを飾る特別な場所」と考えたら、また違ったとらえ方ができるのではないでしょうか。
今回は、伝統的な建築が多く残る古都・京都の骨董店を訪ね、床の間のアイディアを教えていただきました。モダンな愉しさや“こなれ感”を出すのが今の気分。自由な発想がもたらす、マンションでも楽しめる床の間スタイリングのコツをご紹介します。
おしゃれな床の間のアイデアを、京都の骨董店に学びました!
antiques & art Masa
まず最初に訪ねたのは、茶道具、酒器をはじめとした時代物の調度品やアート作品を扱い、現代空間のプロデュースも手がける「antiques & art Masa」。こちらのオリジナル美術品「時代屛風パネルR」は、古い屛風を解体して見どころのある部分のみをパネル張りにしたもの。掛け物じゃないから舞台は床の間でなくていい。けれど“時代”という存在感があるから、絵がある場所が床の間空間に見えてくる! 逆転の発想です。
「お客様の希望で壁面装飾のアートピースを探していたときに修復が難しい時代屛風に出合ったんです。そもそも今の住空間では屛風の需要も少ない。ならばダメージを除いて“絵”にしたら、アートとして輝くんじゃないか、とひらめきました」と、店主のMasaさん。
antiques & art Masaの店主・Masaさん
それが今から約2年前のこと。江戸から明治大正時代にかけての、名もない絵師の作品でも、トリミング次第で見違えるように変わります。最初は一尺(約30㎝)四方でしたが、より小さいほうがスタイリッシュな上、数品を組み合わせることもできるため、はがき大の大きさを中心にして手ごろな価格に落とし込みました。「ほかの静物と合わせても楽しめます」(Masaさん)。住まいにとけ込む日本美術、それも今の飾りの在り方です。
【Masaの床の間アイディア1】
時代屛風をトリミングしたら新しい“絵”として生き返った。時代の美術品をカジュアルに!
【Masaの床の間アイディア2】
何もない壁に古物を重ね掛けして奥行きをつくる。
◆antiques & art Masa(アンティーク アンド アートマサ)
住所 都市左京区下鴨松原町29 IMUSEE102
TEL 075-724-8600
公式サイト
※来訪は要アポイントメント
古家具 やっほ
「私自身が木のオタク(笑)。日本の古家具は良質の木材を使っているので、現代空間のなかに上手に置けばグッと生きるんです」そう話すのは、親しみやすい雰囲気をまとった、やっほ店主の吉村恵子さん。こちらは、主に明治から昭和にかけての日本の古家具を扱っています。
やっほの店主・吉村恵子さん
床の間的なスペースをつくりたいときに「簡易な置き床がいいのでは?」と思うことがありますが、それ用の既存商品は、まだフォーマル度が高くて、ちょっぴり使いにくい。「リノベしたヴィンテージマンションや、ひとり暮らしの空間にも似合う置き床的なもの」を探した結果、古家具のやっほにたどり着いたのでした。
「置き床の構成要素は、壁につけられて床から少し浮くということ。そういうかたちだけ押さえたら、選択肢が広がります。正座をしていた時代につくられた昔の家具は、基本的にローチェスト。整理簞笥(だんす)や文机(ふづくえ)、職人さんが用いた道具簞笥を、床の間として見立てると、暮らしに取り入れやすいでしょうね」
確かにそうかも!「別に家具じゃなくたって、味わいのある古材の板をひとつだけ置いてもいいですよ」とも。なるほど、これならもっと床の間のハードルは低くなりますよね。
吉村さんは、商品を仕入れたまま店頭に並べることは少ないといいます。光沢のある漆やニスが目立つようなら塗料を落とし、ドイツ製のオスモカラーのオイルでセミマットな仕上げにするなど、現代にフィットする工夫をほどこすそう。本物がもつ長所を自然に引き出すようにしているから、やっほが扱うシンプルな古家具は、とても魅力的なのです。
【やっほの床の間アイディア1】
小簞笥を“置き床”に。移動できるから、すごく楽しい!
【やっほの床の間アイディア2】
文机のように脚に空間があるとヌケ感が生まれる。“引き算の美”で床の間風の雰囲気に。
◆古家具 やっほ
住所 都市上京区河原町今出川下ル梶井町448-60
TEL 075-252-2025
公式サイト
montique
ゆるりとした時間が流れる一乗寺。魅惑の書店として知られる恵文社のほど近くに、「montique(モンティーク)」はあります。オーナーの岡加恵さんがセレクトするのは、やつれた趣のヨーロッパのブロカントや静かな佇まいの日本の骨董。国籍や年代を問わない、さまざまな骨董のミックスが新鮮で「こんなふうに飾ればいいんだ」というヒントにあふれるお店です。
「床の間といえば伝統的な空間だと思うのですが、今の暮らし方のなかに、そうした空間を取り入れるのは、少し重いかもしれない。物を組み合わせて“見せ場をつくる”というふうに考えるほうが気楽かも。そこに洋のヴィンテージを取り入れると、うまくカジュアルダウンできそうな気がします」と、岡さん。
montiqueの店主・岡加恵さん
飾りの場をつくるときに役立つのが、年代を経た木製の台や古い額縁、箱といったフレーム。「ここは特別」であることを明確にするものです。「フレームのなかに、ピューターや陶器といった異なる素材の骨董をコーディネートすると面白いですよ。古いガラスに花を挿してもかわいい!」と岡さんは、軽やかに教えてくれました。
国籍・年代を超えた生活骨董は、普段使いしてこそ輝くもの。床の間を大げさに考えると約束事にとらわれますが、楽しみが第一なら、さりげなく自分を表せる場所であっていい。台や容れ物、箱なら、狭いリビングや玄関にも置くことができます。
「古いものはだれかが愛して残ってきたもの。だからよそよそしくないんです。見立てによって、自分に引き寄せる使い方ができたら、毎日が少し豊かになりますよね」
【montiqueの床の間アイディア1】
雰囲気のある台に載せて飾る。自由に遊んでよし!
【montiqueの床の間アイディア2】
“仕切り”があると違う見え方になる。
◆montique(モンティーク)
住所 京都市左京区一乗寺払殿町12-2 寺岡ビル1F西
TEL 075-711-1785
公式サイト
※今回、ご紹介した商品のほとんどが1点物で、販売済みの場合もあります。詳細は各店舗にお問い合わせください。