Culture

2024.06.26

力づくでも、救う。恐ろしい表情でも最高にカッコいい「明王」とは?【美仏鑑賞が100倍面白くなる!その4】

仏像って難しそう・・・。そんな先入観を払拭するために、仏像鑑賞がよりわかりやすく、深く楽しめる基礎知識を5回にわたってご紹介します。 今回は、「明王(みょうおう)」と称される仏像について。 これだけ知っておけば、仏像が好きになることは請け合いです!

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「明王」は不心得者を屈服させる密教の仏様

如来(にょらい)が姿を変えた仏「明王」は、如来や菩薩(ぼさつ)が救うことのできなかった人々の悪性(あくしょう)・煩悩(ぼんのう)を、力でねじ伏せることが一番の役割。そのため、敵を屈服させるために、威圧するような姿で、必死に闘っている様子。その姿は如来や菩薩とまったく違っています。

如来が姿を変えた「明王」はダークサイドヒーローのようなカッコよさ

明王は密教とともに空海(くうかい)が日本にもたらしたもので、最も重要な存在が大日(だいにち)如来の化身とされる不動明王。その身なりは菩薩に通じているものの、顔は激しい忿怒の形相で、髪を逆立て、光背は燃えあがる炎の形になっています。
また、岩や動物などの台座に乗っていて、顔や腕の数が多い多面多臂に武器を手にしたものが多いのも独特。勇猛なその姿形から、武士に広く信仰されてきました。

これを知っておけば安心! 仏像専門用語・簡単解説「明王編」

『愛染(あいぜん)明王坐像』 重要文化財 木造、彩色・金泥塗・漆箔・截金、玉眼 鎌倉時代・13世紀 像高64.0㎝ 東京国立博物館 出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp)

光背(こうはい) 如来、菩薩、明王の背後にはオーラのような光背がある。明王は燃える炎を表した「火焰光(かえんこう)」が特徴で、天は「火焰輪宝光(かえんりんぽうこう)」となる。頭部だけの「円光(えんこう)」や「輪光(りんこう)」、光を放っているような「放射光」のほか、スペードの形の豪華な「飛天光(ひてんこう)」や「二重円光(にじゅうえんこう)」は如来に多い。

怒髪(どはつ) 明王や天の髪は「怒髪天を衝(つ)く」という言葉のとおり、炎のように逆立っているのが一般的。

武器(ぶき) 怒りを表す明王は戦闘に備えて武器や法具を持っている。代表的なものに、「金剛杵(こんごうしょ)」・「独鈷杵(とっこしょ)」、「三鈷杵(さんこしょ)」、「五鈷杵(ごこしょ)」、捕縛用の縄の「羂索(けんさく)」、剣や「戟(げき)」など。

台座(だいざ) 仏像が乗っているもので、如来や菩薩に多いのが蓮の花をかたどった「蓮華(れんげ)座」。明王は「岩座(いわざ)」が多く、「瑟瑟(しつしつ)座」は不動明王専用とされ、象や鳥をかたどったものもある。

『五大明王像』(アイキャッチ画像も同じ) 檜材、一木造、彩色 平安時代・10~11世紀 奈良国立博物館 出典:ColBase (https://colbase.nich.go.jp)

ぜひ拝したい! 国宝の明王像

願成就院の国宝『不動明王三尊立像』

運慶作 文治2(1186)年 像高137.2㎝(脇侍に矜羯羅童子、制吒迦童子) 願成就院(がんじょうじゅいん 静岡県伊豆の国市)
詳細は以下サイトへ。
https://ganjoujuin.jp/

平安時代後期から鎌倉時代にかけて、リアルな表現で一時代を築いた仏師・運慶(うんけい)が、幕府成立前の東国(とうごく)へおもむいた際に手がけた不動明王は、東国武士のエネルギーを内包したような激しさと強さに満ちている。清浄無垢で愛らしい矜羯羅童子(こんがらどうじ)と、気が荒く今にも動き出しそうな制吒迦(せいたか)童子を脇侍(わきじ)にした不動三尊像の頂点といわれる名仏。

金剛寺の国宝『降三世(ごうざんぜ)明王坐像』

行快作 木造 鎌倉時代 像高220.9㎝ 金剛寺(こんごうじ 大阪府河内長野市)
詳細は以下サイトへ。
https://amanosan-kongoji.jp/ 

尊勝曼荼羅(そんしょうまんだら)に基づいてつくられた、大日如来を中心にした三尊像の一尊。降三世明王は金剛薩埵(こんごうさった)菩薩の化身で、宝冠などは独特。平成大修理の大規模調査の際、胎内にあった墨書から、快慶(かいけい)の高弟である行快(ぎょうかい)の作であることが判明。本像は、鮮やかな色で鋭い眼光、力感に溢れた体つき、光背や台座、持物の表現において三尊像の白眉とされる。

構成/山本 毅
※本記事は雑誌『和樂(2019年4・5月号)』の記事を再編集しました。

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和樂web編集部

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