美術の女性ヌードモデルはたくさんいても、男性モデルは少なかった
最近はすっかりイケメンを描く日本画家として認識されつつある私ですが、最初から「イケメン」を描いていた訳ではありません。画家としてデビューした当初、エロスをテーマに描いていたのは「女性」でした。
紆余曲折の末、男性を描いてみよう! と、最初に作品として描くことになったのが、「男体(なんたい)盛り」シリーズです。でも最初は、とりあえず生の男性ヌードモデルをお願いして、デッサンやクロッキーなどをしながら、どんな作品づくりをするかじっくり考える気でいました。
私が「男性」を描き始めたきっかけや経緯については、こちらの記事を!
日本美術の歴史にひそむジェンダー格差…をひっくり返す「イケメン日本画」木村了子さんがアツい!
まずはモデル探しを始めたのですが、プロの美術モデルに頼むにも、女性モデルに比べると圧倒的に男性モデルは少なかったです。選ぶ余地がない上に、当時の私にはあまり金もなく、個人でモデル事務所に頼むのはハードルが高かった(泣)。
でもできれば、自分好みのイケメンを描きたい。友人知人に「脱いでくれそうな”イケメン”いない?」と地道に声をかけたりとしているうちにラッキーなご縁があり、思いのほか早く良い方が見つかりました。
モデルさん:「あなたの作品のために、僕でよければ文字通り一肌脱ぎましょう。なんでもしますよ!」
「あなた(の作品)のためになんでもする……」このセリフにはキュン!刺さりました!
モデルさん:「さぁ、どういう風に僕を、料理してくれますか?作品にしてくれますか?」
「僕をどう料理」……だと?
そうだ、以前男体盛りの絵を想像で描こうとして上手くいかず、没にした絵があった!「アレ」に再挑戦してみよう!
私:「あの・・・男体盛りを描きたいので、私のお皿になっていただけないでしょうか?」
モデルさん:「ヴェェェ------------マジ?!僕に盛るの?!イイよ、OK!
男(女)体盛りは日本が誇るエロ文化ですよ!光栄です、やりましょう!」
と、あっさり快諾していただけたのでした。
やってみました男体盛り!
・・・楽しかった。 まったくもって、楽しかった!!!
モデルさんの色白な裸体は、ボーンチャイナか柿右衛門か、乳白の陶磁器肌に、色とりどりの食材が美しく映えていました。
私はあたかも魯山人になった気分で料理を工夫し(魯山人ファンの方、ごめんなさい)、タッパーに用意した前菜からデザートまでを、細身ながらも筋肉のついた極上の男体皿の上に盛り付けていったのです。
ああ、美しいじゃないの男体皿!
私はこういうことがやりたかった、見たかったんですわ!!!!
この時私の中で目覚めた感動といいますか、「覚醒」は、今でも忘れません。
「男体盛りの絵」は、紳士淑女、SM嬢からも賛否両論
「今度、男体盛りを描くんだ~」と周りに宣言した際、「え~グロくない?気持ち悪い・・・」と、それは多くの方に本気で引かれたものです。SMのプロ、麗しの”女王様” にすら怪訝な顔をされてしまう始末。
制作していた2004年当時、「女性ヌードは起伏があって美しいけど、男性ヌードは平坦でつまらないし、見たくない」など、美術関係者すら平気で言っていた時代でした(何度言われたか・・・)。
しかしながら私の目の前にあるものは、美と、エロスと、グルメが渾然一体となった、本当に美しいアート・モチーフ。
多くの人にこの美食世界を目で味わってもらいたい、そして男体盛りを決して「グロ」ではない、「アート」だと思わせるよう仕向けるのは、作り手である私の手腕にかかっています。
そうして描き上げた「男体盛りシリーズ」は、2005年の春、料理の解説をつけて個展で発表したのでした。
「男体盛り」を見た方々の感想は・・・?
通りに面したガラス張りのギャラリーでしたので、「あら、桜の日本画?」とふらっと入ってきたマダムが、「ギャッ!?」と叫んで走り出てしまわれたのは印象的でした。
「君はこんな絵を描いて、恥ずかしくないのかね?!」と絵を指差し怒り出す紳士、
「あなたは女性なのに、男性のこんな姿を描いて恥ずかしくないの?どうしてこんな絵が描けるのかしら・・・」と、眉をひそめる淑女。
海外のお客さんには、ゲイのアーティストだと勘違いされた
海外の方は、私の絵を見てゲイの男性アーティストが描いたと思い、作者が女性だと知り本当に驚いていました。男性ヌードはゲイのアーティストが描くもの、と思われていたんですね。
一方で、「よくぞ男体盛りを、男性ヌードを描いてくれた!女体盛りがあるんだから男体盛りがあってもイイよね!」と、ジェンダー問わず刺さる方にはポジティブに応援の言葉をくださったり、「凄いもの見てしまった」と、美術雑誌にレビューを書いてくださったり・・・感謝しかない。
本当に賛否両論でした。
嬉しかったのが、以前は怪訝な顔をされていた”女王様”が絵をご覧になり、「男体盛りって、素敵ね!私の”奴隷”でも今度やってみたいわ」と、仰ってくださったことです。
私の作品で、一人でも人の価値観を180度変えることが出来たことに、アートの力と、手応えを感じた瞬間でした。
そして、当時から男性を描くことの「恥ずかしさ」は微塵も感じず、むしろ女性ヌードを発表していたときは「これはあなたの裸なの?」と毎回聞かれるのにうんざりしていたので、この時は当然ながらそう聞く人もなく、とても爽快な気分でした。
私という女性が、描かれる、見られる側の性から、描く・見る側の性にシフトした、最初の一歩だったのです。ここからが長く、そこそこ険しい道を歩むことになるとは思いませんでしたが、それはまたの機会に。
欲望の趣くままに……。
木村了子・インフォメーション
【展覧会】
・尻博2024
文房堂ギャラリー 2024年7月18日~7月29日
https://www.shirihaku.com/
・ART OSAKA 2024(Galleries Section by eitoeiko)
大阪市中央公会堂3F 2024年7月19日~7月21日
https://www.artosaka.jp/2024/jp/gallery/
・新潟県燕市「国上寺」にて、壁画《イケメン偉人空想絵巻》展示中!
https://kokujouji.com/
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