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2019.09.02

苔の上手な育て方とは? テラリウム・盆栽づくりのコツをプロに聞く!

この記事を書いた人

家事に育児に仕事に、ちょっぴりお疲れ気味のみなさんへ。日々の癒やし、目の保養に、自宅でグリーンを育ててみるのはいかがですか?
グリーンといっても、よくある観葉植物のことではありません! 今回私がご紹介したいのは、「苔(コケ)」の魅力と育て方についてです。

心癒されるコケ景色は、日本の宝

1年中湿度の高い日本には、コケが生育するのにぴったりの環境があります。約1700種ものコケが生育する日本が、世界でも稀に見るコケ大国であることは、こちらの記事に詳しく書きました。


京都・南禅寺のコケ景色。切り株にびっしりと生えたコケに、歴史の深さを感じます。

古くから私たち日本人は、大木や岩肌に青々と茂るコケに、歴史や時間の積み重なりを感じてきました。山歩きやキャンプが好きな方は、森の奥深くで、あたり一面が緑に覆われた「苔むす」絶景と出会ったことがあるかもしれません。神社仏閣や日本庭園が好きな方も、きっと美しいコケ景色を見たことがあることでしょう。

そんな日本ならではの豊かな景色の一部を、小さく切り取って、自宅に再現できること。そこに、コケを育てる魅力があると私は思います。一見すると1年中いつも同じ姿で、代わり映えしないように思えるコケですが、よく観察すると新芽の季節があり、胞子を飛ばして繁殖する恋の季節があり、手元に置いてこそ分かる魅力があります。その育て方・鑑賞のコツについて、植物のプロにアドバイスをいただきました。

コケの育成には「水」と「光」が肝心

自宅でコケの観察を楽しむ方法はいくつかありますが、まずご紹介するのは、コケの森を小さなガラスの中に再現する「苔テラリウム」。教えてくださるのは、苔クリエーターの石河 英作(いしこ ひでさく)さんです。石河さんは、2013年にコケの専門ブランド「道草(みちくさ)」を立ち上げ、以来コケの魅力について日々発信を続けています。

「コケを育てるのに欠かせないのは、適度な水と光。森の中でも、真っ暗なところにはあんまり生えていないんです。お部屋の中では、トイレや玄関などの暗い場所や直射日光が当たる場所を避け、本が読める程度の明るい部屋で育てるのが最適です」


まるで森の一部を切り取ったかのような苔テラリウム。ここまで育てるのに、4年の歳月がかかりました。

コケに適度な水と光を供給するのにぴったりなのが、「テラリウム」という手法。ガラスなどの光が通る密閉された透明なケースの中で、陸上の生き物を育てる方法のことで、その起源は19世紀のヨーロッパまで遡ります。

「テラリウムの原型は、“ウォードの箱”と言われています。当時はまだ飛行機がなく、長い船旅で、生きた植物を持ち帰るのは困難でした。イギリスの医師で植物学者でもあったウォードは、密閉されたガラスケースの中で、蒸発した水分が結露して土に戻ることを発見しました。そのおかげで約6カ月間、一滴の水も与えずに、船上でシダを育てることができたのです。以来、多くのプラントハンターが植物の輸送のためにウォードの箱を使うようになりました」


コケ栽培に欠かせない3種の神器。コケが茶色くなったら、先端の細いハサミやピンセットを使ってトリミングします。

蓋付きのガラス容器でコケを育てる場合、水やりは2〜3週間に1度でOK。コケは根ではなく、葉から水分や養分を吸収するため、葉全体を湿らせるように霧吹きします。加えて、1日に1回5分ほど、蓋を開けて換気してあげるとより丈夫に育ってくれます。

「コケは寒さに比較的強く、暑さにはやや弱い植物です。ですから、夏場に長期間家を空ける場合は、テラリウムごと冷蔵庫に入れてみてください。コケは寒くて暗い環境の中で休眠し、成長が一時ストップします。2〜3週間ほどであれば、冷蔵庫の中でも大丈夫です」

テラリウムで育てやすいコケの種類

もちろん、コケにもいろいろな種類がありますから、すべての種がテラリウムでの栽培に向いているわけではありません。ここからは石河さんおすすめの、苔テラリウムで育てやすい種を中心に、道草の人気商品をいくつかご紹介します。


杉の根元などに自生するホソバオキナゴケ。

成長がゆっくりで、背丈があまり高くならないホソバオキナゴケは、初心者に育てやすい種。水が多いと色が悪くなるので、濡らし過ぎず、適度な湿度を保ってあげるのがコツです。


左右に這うように生えているのがコツボゴケ、フサフサした葉先を持つのがヒノキゴケ。

何かに当たると仮根を出して絡まり、這うように成長するのがコツボゴケの特徴。その特性を生かして、容器内に石を置くことで、まるで自然に岩に着生したかのようなナチュラルな雰囲気を醸し出すことができます。
組み合わせたのは、背が高く“イタチのしっぽ”という別名を持つヒノキゴケ。丈夫で育てやすく手触りもいいので、ときには蓋を開け、触って楽しむのもおすすめです。


ホソバオキナゴケ、コツボゴケ、ヒノキゴケ、ホウオウゴケ、タマゴケ、合計5種の寄せ植え。

岩を使って高低差を出し、いくつもの種を寄せ植えすると、こんなにもワイルドな苔景が完成! 太陽の光がなくても、LEDライトで毎日8時間ほど照射すれば、コケは元気に育ちます。

ご紹介したコケ以外にも、道草のサイトには愛らしいコケや珍しいコケがたくさん掲載されています。育てやすさのレベルや、育て方のコツについても詳しく解説されているので、ぜひチェックしてみてください!

道草(michikusa) 基本情報

店舗名:  道草(michikusa)
住所: 144-0046 東京都大田区東六郷2-19-2 エンゼルハイム東六郷第2 112号室(事務所での販売は行っておりません。購入はお近くの販売店・ネットショップをご利用下さい。)
公式サイト:  https://www.y-michikusa.com/
通販サイト:  https://michikusa3.thebase.in/

自然の美しい景色を手のひらサイズで楽しむ「景色盆栽」

続いてご紹介するのは、小さな鉢の中に広がる大きな景色が魅力の「景色盆栽(けしきぼんさい)」。教えてくださるのは、東京・自由が丘で景色盆栽専門店「品品(しなじな)」を営む小林 健二(こばやし けんじ)さんです。


お店の外にまで、ずらりと並んだ盆栽の鉢。大小様々な鉢の中に、唯一無二の景色が広がっています。

盆栽と聞くと、おじいちゃんの趣味というイメージをお持ちの方も多いかもしれません。しかし、小林さんが提案する景色盆栽は、盆栽づくりの伝統的な手法はそのままに、手のひらサイズのおしゃれな鉢などを利用し、室内で誰でも気軽に盆栽鑑賞を楽しめるよう工夫されています。


小さいながらも凛として美しい景色盆栽。器や皿にこだわれば、さらにおしゃれに!

景色盆栽とは、いくつもの木や草などを組み合わせて盆栽をつくる手法のこと。小さい鉢で木を育てながら景色を作り、その移ろいを楽しむのが景色盆栽の魅力です。その中で、コケはどのような役割を果たすのでしょうか。

小「盆栽は想像する遊びです。緑の広がる草原や、なだらかな曲線を描く山、小島などの自然の景色をコケを使って表現します」


左は水分をたっぷり含んだコケ、右は乾燥した状態のコケ。

一緒に鉢で育てる植物の育成にも、コケは重要な役割を果たすのだとか。

「コケにはスポンジのような性質があります。乾燥すると水を弾きますが、霧吹きをして指で優しく揉むと柔らかくなり、水をたくさん吸収します。林の中に自生するヤマゴケは、土中の水分を保水する役割を担っています。盆栽にもコケを張ることで、鉢の中の乾燥を防ぐことができるんです」


寄せ植えをつくる場合、苗の数は3本、5本、7本のように奇数を用いるのが基本。奇数で構成すると、景色に広がりや連続性が生まれます。

木の向きや枝ぶり、葉の茂り方、林下を彩るコケや岩の表情…。
はじめはどれも同じように見える景色盆栽も、じっくり見ていくと、不思議と惹かれる鉢が見つかるはず。盆栽に使う植物には、常緑のものがある一方で、落葉するものや、実もの、花ものなど様々な種類があり、季節ごとの変化を楽しむことができます。

ここに注意! 景色盆栽の上手な育て方

盆栽との出会いは一期一会ですから、お気に入りの鉢が見つかったら、ためらわず購入するのが吉。普通の盆栽とは違い、景色盆栽のお値段は数千円〜と比較的お手頃。小林さん直伝の選び方・育て方・鑑賞のコツを以下にまとめました。


自分の好みの鉢に巡り合うまで、じっくり盆栽と向き合って!

1. 初心者には小ぶりの豆鉢ではなく、少し大きめの鉢がおすすめ
「小さい鉢のほうがかわいらしく、育てやすいような気がするかもしれませんが、片手もしくは両手におさまるくらいのやや大きめの鉢のほうが水持ちが良く、おすすめです」

2. 鉢の裏側に「鉢底穴」がきちんと開いているか確認する
「木の苗やコケにとって、鉢の中が蒸れるのは良くない状態。必ず鉢の下を確認し、排水用の穴があることを確認してください。鉢底が広い場合は、2箇所に穴があると安心です」

3. 水やりは鉢の底穴から、たっぷり水が出てくるまで
「コケは乾燥すると水を弾いてしまうので、夏場などはコケ全体に霧吹きで水をかけ、染み込ませてから水やりするといいと思います。水と一緒に雑菌が流れ落ちるように、鉢底の穴から水が滴り落ちるまで水やりをしてください。乾燥が進み、苗の元気がなくなってしまった場合は、鉢の半分から八分目あたりの高さに水を張ったたらいに、盆栽を浸して根から水を吸わせてください」

4. 風通しがよく、直射日光が当たらない明るい場所で育てる
「ベランダなど屋外の環境がある場合は、夜の間に水をあげ、外に出しておくのがおすすめです。風や夜露などの自然環境が、苗を丈夫に育ててくれますし、光合成もきちんとすることができます。飾るときは、幹や枝が美しく見える側を正面にすると、植物本来のイキイキとした動きや迫力を感じることができます」

コケをもっとカジュアルに楽しむには?

コケの柔らかな質感を思う存分楽しみたいという方には、「苔玉」もおすすめ。


コロンとした丸みが可愛い苔玉。

品品では主に苗をケト玉(ケト土をベースにした配合土を玉にしたもの)に植え付け、その上にコケを張り、糸を巻いて固定する方法で作っています。

「苔玉は、もともと根洗いと呼ばれる草ものの盆栽に端を発した鉢いらずの盆栽です。育て方は、景色盆栽とほとんど変わりません。いろいろな器の上に置いて、気軽に楽しんで欲しいですね」


サイズ違いのハリネズミの器。並べると親子みたいでかわいい…!

さらにもうひとつ、品品で人気なのがこの動物シリーズ。景色盆栽は、コケで山や草原を表現しましたが、こちらではハリネズミのハリを表現するという、これも立派な見立ての世界です。一番人気はハリネズミで、他にも羊や猫、鳥、さらにはナマケモノなんていう変わり種も!

自分にぴったりの苔アイテムを見つけて、涼やかな癒やしの空間を演出してみてください。

品品(しなじな) 基本情報

店舗名:  品品(しなじな)
住所: 158-0083 東京都世田谷区奥沢2-35-13
営業時間:  10:00-19:00
定休日:  水曜日
公式webサイト:  https://www.sinajina.com/

書いた人

都内在住のお散歩マニア。好きな場所は日本庭園・公園・神社仏閣・動物園・水族館。全て歩き回れるところが良し。水鳥という名に託すのは、鳥のように羽ばたきたいという思い。しかしどういうわけか、飛べないペンギンが大好きで、いつか南極に行きたいという夢がある。