尚、画像は一部加工しております。作品の全体像を見るためにも、ぜひ現地に足をお運びください。
人の手で描かれた一点物、肉筆春画がみられる「美しい春画展」
京都は岡崎の細見美術館で開催中の、「美しい春画」展。
公共の場である美術館で「春画」展が開催されるのは実に8年ぶり!2015年永青文庫で日本初の大規模な春画展が開催されたのは記憶に新しいと思っていたのですが、もうそんなに経ってたのですね・・・(遠い目)。
もともと春画、特に「肉筆春画」には画法を学ぶ上でも、絵の元ネタとしても、もちろんお仕事でも本当にお世話になっておりますが・・・今回の細見美術館「美しい春画」展では「肉筆」の名品が目白押しなのです!
ところで「肉筆」って?耳慣れない言葉かもしれません。
「にくひつ」と読み、版画や印刷、複製ではなく、実際に人の手で描かれた一点ものの書画、という意味となります。人の手で描いたものが「肉の筆」・・・木版画の「浮世絵」等と区別するために作られた言葉なんでしょうが、なんとも不思議で、ちょっと艶っぽい響きもありますね。
そんな「肉筆春画」、早速拝見していきましょう!
住吉派、長谷川派、狩野派、御用絵師が描いた、やんごとない春画
さて「美しい春画」の会場構成は3室。それぞれの部屋を出ると再入場不可なので、出てしまうと後戻りできません。とにかく名品揃いなので、後悔のないよう時間に余裕を持ってご覧になることを強くお勧めします!
第1室目は「上方春画の世界」。
「浮世絵」の一ジャンルとされる「春画」ですが、春画の歴史は浮世絵誕生よりはるか以前に遡り、古代中国を起源とし平安時代にはもう日本にも存在していたとか。鎌倉時代には性器の大きさを誇張した絵が描かれ、話題になっていたそうです。
まずはそんな、雅やかな平安をモチーフにした春画が並びます。平安時代に実際にあったスキャンダルを描いた、伝 住吉具慶《小柴垣草子》や、長谷川等仙《花園春画絵巻》、そして狩野山楽が描き後世に欠損部分を英一蝶が補筆したという、狩野派好きの私にとってはエモすぎる《鶺鴒巻》!英一蝶は今、東京のサントリー美術館でも展示中なので是非合わせてご覧ください。
「住吉派」、「長谷川派」、「狩野派」などの公儀オフィシャルな御用絵師によって描かれた、やんごとない「春画」の揃い踏み・・これらを一堂に見れるなんて凄すぎです(涙)。
名家の姫の嫁入り道具であった春画。そのわりにエロスの度合いがハード?
ちなみに当時の絵師は職業絵師がデフォルトなので、当然依頼あっての制作ですが、どんだけ禄を積んだのでしょうね。
これらの春画絵巻は名家の姫や御息女の嫁入り道具、いわゆる「閨房の心得」を学ぶものとして作られたとの説もありますが、そのわりには3Pやら間男や僧侶の女犯やら高貴なお方らのご乱行パーティーまで、これから嫁入りする娘に見せて良いのだろうか?と思わないでもない実に多様な性愛が描かれています。でも、みんな幸せそうになさっているのが良いですね(笑)。
繊細な人物描写に大胆で大量の、「露」。月岡雪鼎の肉筆画
そして春画ファンの間で大人気の月岡雪鼎《四季画巻》!
女性が年を重ねる姿と、四季の花を対にして交互に配置された、「肉筆」という言葉がこれ以上なくぴったりなイメージの肉筆春画絵巻です。
春画部分は絹本に金箔が裏箔で施されたゴージャスな背景に、みっちりと交合図が描かれています。雪鼎の絵の具の発色は素晴らしく、肌艶良すぎ・・・流麗な線で衣装も性器も美しく鮮やかに描かれていますが、なんといっても目を引くのは、夏、冬の「露」でしょうか。
雪鼎の「露」表現にはおそらく胡粉に雲母も入り、液体の光沢がリアルに再現されていると思われますが、繊細な人物描写に大胆で大量の、「露」。なぜここまでだっくだくに描いたの?と雪鼎先生に伺いたくなりますが、ここには画像載せられませんのでぜひ現場でご確認ください。
そしてその露だく表現は、当然息子であり、弟子でもある月岡雪斎「娼妓とオランダ人図」にも受け継がれています。この作品はかなり大きい掛軸なんですが、ちょっと「どこに飾るん?(笑)」と人のことは言えない作品を作っている私でも思ってしまいます。
絡まった人物による三角構図に絶句! 喜多川歌麿の《夏夜のたのしみ》
いよいよ第1室のラスボスは、メインビジュアルでもある喜多川歌麿の《夏夜のたのしみ》。
横幅1メートルもある大きな春画掛軸、こちらも「どこに飾るん?」ですが、絵画としては絡まった人物による三角構図、すごいなんてもんじゃありません。
右上のボリューミーな二人の頭を頂点に中心下に性器、そして左下の足元へ視線を流れるように促しサイン落款で止める。無背景なのに画の空間が決まっているのは、このシンプルながら巧みな人物配置によるものです。さすが歌麿様!
ふぅ、第一室だけでも満腹、KO寸前ですが・・・この展示室の面白いところは、17〜19世紀の春画、裸体表現を一気に見られるところだと思います。
浮世絵や春画における基本の人体表現は、輪郭線の線描とフラットな塗りに、性器のみが大きくガッツリと描き込み描写されているのはデフォルトながら、19世紀の歌麿の肉筆画には人体にもうっすらと「隈取」というぼかしが施され、ほのかな立体感を感じることができます。
顔まわりもチークを入れたように頬や目周りに薄い朱がさされ、なんとも色っぽい。でも17世紀の人物にはこのような表現はありません。歴史が進むにつれて、表現が現代的になってきたり、より細密になってきたり、少しずつ変わってくる変遷が見て取れます。
そしてその表現は、第二室にてより開花してゆきます。ぜひそんなところもチェックしてみてください。
まだまだ続きます!と言いたいところですが、なんと一室目で字数いっぱい!続きは次回に。
第三室にはラスボス! 本邦初公開の葛飾北斎 《肉筆波千鳥》
ざっくり紹介しますと、第二室では、歌麿、北斎の木版春画はもちろん、鳥居清長『袖の巻』、そして歌川国貞、鳥文斎栄之などビックスターの肉筆春画が勢揃い、まさに競艶です。肉の筆に溺れそうになりますので、心して入室してください。
そして第三室にはラスボス! 本邦初公開!! 葛飾北斎《肉筆波千鳥》が木版の『浪千鳥』と合わせてみれるという超・親切な展示がされています。感謝しかない・・・。
そ・し・て!後期(10/16〜)にはなんと!私が愛してやまない勝川春英《春画幽霊図》が展示されます。そう映画「春の画」でご紹介した、私のゴリ子春画の元ネタです!
この作品を含め、浮世絵のコレクターとして名高いデンマークのミカエル・フォーニッツ氏のコレクションから、多くの優品が里帰りして展示されています。この機会を逃すと、いつ見れるかわからない肉筆春画の名品、ぜひぜひご覧ください!
私も後期、また見に行くで〜!欲望の赴くままに・・・・そして次回に続く。
◆細見美術館 美しい春画-北斎・歌麿、交歓の競艶-
開催期間
2024年9月7日~11月24日
会場
細見美術館
公式サイト
https://www.emuseum.or.jp/
注意事項
[前期]終了
[後期]10月16日~11月24日
◆木村了子 インフォメーション
【展覧会】
アートフェア出品
KOGEI Art Fair Kanazawa
ハイアットセントリック金沢(ギャラリー蚕室より)
https://kogei-artfair.jp/
2024年11月29日(金)~12月1日(日)
個展:「神楽坂の愛人の家」
eitoeiko(神楽坂)
http://eitoeiko.com/
2024年12月7日〜28日、2025年1月7日〜18日