尚、画像は一部加工しております。作品の全体像を見るためにも、ぜひ現地に足をお運びください。
中国で何度も発禁!有名な艶本をアレンジした歌川国貞の肉筆
細見美術館で開催中の、「美しい春画」展、続編です。
前期に続き、後期にも行ってまいりました。一部展示替えや絵巻の場所替えもあり、気分も新たに楽しめます。展示作品はデンマークのミカエル・フォーニッツコレクションの里帰り品も多く、これを逃すと次はいつ見られるかわかりませんよ!
前編はこちらから。
「肉の筆」に溺れそう!狩野派、歌麿、北斎、一点物の春画がすごい
さて続きは第二室から、浮世絵文化が花開く、花のお江戸のオールスター春画祭りです。まさに競艶!!前期では、個人的に歌川国貞(うたがわくにさだ)の肉筆の画帳の迫力にやられました。中国で何度も発禁を食らった有名な艶本で、国貞はそれを日本の物語にアレンジして肉筆画本にまとめています。物語を知っている方ならこれが金蓮かな、春梅かな?という楽しみ方もできます。
春画は基本「閨(ねや/寝室)」でのこと、室内描写が多くなりがちですが、この国貞の作品は実にさまざまな場所、シチュエーションでことを致しております。「愛と欲望があればどこでだって出来るぜべらんめぇ!」と、時と場所を選ばず致す姿を描く豪胆ぶりはさすが国貞肉の筆と言ったところ。後期は展示してないので図録でぜひご確認を。
そして前期は二幅しか展示されていなかった鳥文斎栄之(ちょうぶんさいえいし)の美しすぎる肉筆も、ご所蔵者のご厚意で後期は四幅全て展示されていて眼福でした。人物はもちろん、背景や画中画に至るまで、技巧的にも非の打ち所がない美しさにためいきものです。
とはいえ「確かに美しいけれど、もうお腹いっぱいかも・・・」という方は絵師不詳《夢想の歳時記》で小休止を。小さなものたちの営みの可愛いらしさに、思わずほっこりします。
幽霊になっても「致したいの」と化けて出てくる夏の夜
さて後期のわたくし的メインイベント!とうとう、とうとう本物に会えました・・・(涙)。
勝川春英(かつかわしゅんえい)《春画幽霊図》!そう映画「春の画」でご紹介した、私のゴリ子春画の元ネタでもある、男女の幽霊が登場する肉筆春画です。この絵は二幅一対、ペアの掛軸なんですが・・・まさに「どこに飾るん!?」感が極まる春画掛軸。
一つは未亡人が若い男と致しているところに、嫉妬に駆られた亡夫が棺桶から飛び出てくるところ。もちろんこっちが先ですが、まるで昭和のドリフターズのコントのようです。
もう一つは真夏の蚊帳の中、決して美女には描かれていない中年女性の幽霊が、寝ている男の一物を握りドン!とまたがりニヤニヤ致している絵です。私この絵、本当に好きなんですよ。
何が好きかって、春画でも珍しい「女性上位」図かと思うのです。もちろん女性が上になっている春画もあるのですが、くんずほぐれつの上位という印象で、この幽霊図のように女性の意思で男の上にまたがっているのは珍しいと思うんですよね。と、思っていたら第一室に、女性上位で紐持ってドン!という作品がありました。(※)ぜひチェックを!
女性だって歳を取っても、そして死んだってきっと、性愛の欲望は尽きない・・・幽霊になっても「致したいの」と化けて出てくる夏の夜。体の崩れ具合が人ごとと思えませんが、なんだか可愛いんですこの幽霊。そして寝苦しさの中で反応してしまう生体男の「あへぇ」な姿も愛おしく、ユーモアたっぷりでまさに「笑絵」。しかし春英さん、なんでこんな絵描いたんでしょうね(笑)?江戸にタイムスリップして、聞いてみたいこと満載です。
身体の崩れ具合といえば・・・後期のみ展示(第一室)絵師不詳の作品は強烈でした。「中年の性愛リアリズム」としか言いようのないど迫力春画は、ほかの「美しい春画」に対し「男と女のまぐわいなんて、そんな美しいわけないだろう!」とでも言いたげな、何か人間の本質的なものを抉り突きつけられているようでした。
北斎の、女性同士が海鼠を用いて「致している」図
第三室はいよいよラスボス、北斎先生・本邦初の肉筆!
こちら《浪千鳥》(なみちどり)は墨摺主版をベースに、北斎自身が手彩色を施した半肉筆作品。わかりやすく言えばご本人による「塗り絵」と言いますか・・・豪華すぎですよね。
よく見ると、主版の線を活かして彫塗り(線を避けて彩色する技法)のところもあれば、線を潰して塗り込み、文様は線を避けて描き込んでいたり、彩色後に線を肉筆で描き起こしていたり、主線が木版とはいえ本当に多彩で丁寧な彩色されており驚きです。そして背景にこってりと使われているキラキラ白雲母を、男性器の先端の一部にごくごくうっすらと施されているのを発見。
ちなみに同じ白雲母背景の肉筆作品《肉筆浪千鳥》では、先端を艶めかす雲母はなしでした。《肉筆浪千鳥》と《浪千鳥》は図版が一致しておらず別の作品として作られたとのことですが、それぞれを見比べながら制作過程を想像し、色々違いを探すのも楽しけりです。
《肉筆浪千鳥》の名品揃いの中でもひときわ印象的なのが、「女性同士が海鼠(なまこ)を用いて致している図」でしょうか。
なんともみっしり壮絶な女体の絡み、この二人の身体どうなってんの?とよく見ると、どうも「卍」に見立ててあるような・・・?お道具も「張り型」(※1)でなく、「海鼠」を使うのが北斎先生らしいというか、死語ですが色んな意味で「マジ卍」という言葉を思い出しました。海産物責めといえばかの有名な「蛸と海女」(※2)は1814年作ですが、《肉筆浪千鳥》は1810年~19年ごろと制作年は明らかになっていません。蛸が先か海鼠が先か?「蛸責めいいじゃねぇか、次は海鼠で行くかいな?」なんて思っていたのかもしれませんね(笑)。
ふぅ、、とにかく豪華な肉の筆、春画作品群!大きな作品も多く、江戸時代のおおらかで自由な「性愛の営み」を腹一杯に感じることができました。
幕府規制のなか裏で受注され、ふんだんにお金をかけて作った春画
こんな素晴らしい「美しい春画」が多く描かれていた一方で、北斎や歌麿(うたまろ)の時代には幕府による「天保の改革」通称「贅沢禁止令」が発令され、浮世絵や歌舞伎など庶民文化も対象となり厳しい規制がかけられていました。歌麿はなんと豊臣秀吉の醍醐の花見を題材にした錦絵を描いたことで、江戸幕府に捕縛され投獄までされています(その投獄が元で体調悪化、亡くなったとか・・・涙)。
春画はそんな規制のなか、表でなく裏で受注され取引されたからこそ、ふんだんにお金をかけて豪華に作られたという側面もあったようです。おそらく浮世絵師たちには相当に息苦しく窮屈な社会だったに違いありませんが、その空気感を全く感じさせない、おおらかな性愛表現を描き続けた浮世絵師たちの気概と画力に、改めて尊敬の念を抱かずにはいられません。
残り少ない会期となりますが、ぜひぜひ細見美術館「美しい春画」展、お見逃しなく!
余談ですが、女性同士の絡みも女性上位も含めて、春画の絵師はもちろん男性のみです。女性絵師による春画ってなかったのかしら?浮世絵の女性絵師といえば北斎の娘・葛飾応為(かつしか おうい)が有名ですが、彼女が描いたと確定できる春画は見つかっていないとのこと。時代が進み、かの美人画で有名な女性作家・上村松園(うえむら しょうえん)が描いたとされる春画はあるようなのですが・・・その辺りもいずれ何か書きたいな、欲望の赴くままに・・・。
◆細見美術館 美しい春画-北斎・歌麿、交歓の競艶-
細見美術館
公式サイト
https://www.emuseum.or.jp/
注意事項
[前期]終了
[後期]2024年10月16日~11月24日
◆木村了子 インフォメーション
【展覧会】個展:「神楽坂の愛人の家」
eitoeiko(神楽坂)
http://eitoeiko.com/
【アートフェア出品】KOGEI Art Fair Kanazawa
ハイアットセントリック金沢(ギャラリー蚕室より)
https://kogei-artfair.jp/
2024年11月29日(金)~12月1日(日)
「吾妄之境」The Fantasy Wonderland
臺南市美術館(台湾)
https://www.tnam.museum/exhibition/detail/561
2024年11月15日~2025年3月16日