男性ヌードの絵画作品は、ゲイが描くものだと思われていた時代
「了子さんて、『脇毛フェチ』なんですか?」
「男性のすね毛や、体毛は描かないんですか?」
私の絵をご覧になった方に結構な頻度でよく聞かれるのはこの「毛」問題です。
おそらく私の描く数々のイケメンの中に、多くの「脇毛」が登場してのことでしょう。
フェチというほどのことはないにせよ、男性の脇毛に関してはツルツルよりはファサッと生えていた方が好みです。
男性を描く以上、彼らの体毛をどう表現するべきか?画家として真剣に悩むところです。
ところで前回少し触れましたが、私の男性ヌード作品を見て、ゲイの男性アーティストが描いたと思う人は、海外だけでなく国内にも多かったです。
その後、国内外のアートフェアにも出品するようになるのですが、ギャラリーの方から「木村さんの作品はゲイアートとして売ったよ!売れてよかったね〜」と笑顔で言われ、固まったことがあります。いや確かに売れたのは嬉しいことだし、大変ありがたいですが・・・。
今なら「私の性を、詐称しないで下さい」と言うところですが、当時はちょっとショックでなぜかうまくその言葉がでませんでした。
過去、女性が男性を描くことはないわけではありません。
フェミニズムから発したアメリカ人女性画家、シルヴィア・スレイの男性像は、しっかり体毛も、隠部も描かれています。
とはいえ確かに女性アーティストが意図的に男性をセクシーな姿で描くことは世界的に見ても珍しかったようで、同様に性愛の対象として描かれている「ゲイ・アート」として販売するのが一番簡単で、わかりやすい作品説明だったのでしょう。
お客様が私の絵を見て、「ゲイアート」と思うのはもちろん自由です。
ただ、発信する側としては、私自身が男性でなく、女性であることは明らかにしたい。女性の立場で性愛の対象として男性を描いたってええやん!と主張したい。さてどうしたら・・・?
脇毛を描く決心ができたのは、少年・少女漫画のおかげ?
参考としたのは、「少女漫画」でした。当時の少女漫画に出てくる美少年、美青年たちは、多くがツルツル。ヒゲやすね毛、脇毛も多分ありません。陰毛は・・・どうだろう?
毛髪、眉毛、まつ毛以外の体毛は存在が許されない、花々を背負った、陶磁器のようなキラキラした男たち。
少女漫画で体毛を描かないのは、おそらく読み手である「少女」があまり自身とかけ離れすぎない、中世的な男性が好んだからではないでしょうかと勝手に分析。
(※現在は体毛を描く女性漫画家さんも多いです)
一方、少年・青年漫画の主人公は、ツルツルもいますが「こち亀」の両津勘吉のように横ジグザグ線でワサワサに描かれた胸毛、腕毛、すね毛が存在します。眉毛も繋がってます。
そして、若い頃に好奇心で購入した雑誌『薔薇族』の熊男&九州男児特集の、熊系ゲイボーイの色っぽい姿が脳裏に焼き付いてもいました。田亀源五郎先生の描く毛流れの良い胸毛ムキムキ男性も大好きですが、私が描くなら・・・体毛は封印し、「少女漫画」に倣おう!
少女漫画の巨人たちが築いてきた、ツルツル男性像の肩に乗ろう!でも、たった一つ。
ちょっと”毛”好きな私が、男性の体毛表現として残した場所、それが「脇毛」でした。
多くの女性はツルツルにしている場所、だけど、男性は生やすことを許されている場所。
そこに男女の性差の表現処を感じ、ここはきっちり描きたいと思ったのです。
男性の脱毛事情に一喜一憂……腕毛を亡くした悲しみ?
でも最近は、男性も脇毛ツルツルの方がすっかり多くなった印象です(悲)。今夏のパリオリンピックでは、ほとんどの男子選手がツルツルで、脇毛選手は数えるほどでした。
一方で脇毛を生やす女性も現れてきました。Netflixの『全裸監督』をみた際は、黒木香さん(演:森田望智さん)の女性の脇毛、改めて素敵だなと感じました。とはいえ私自身は古い規範に従い、ワキツルツルにしてしまったのですが・・・(どうでも良い情報)。
以前某男性アイドルの方が「僕は脇毛以外は、体毛なし!ツルツルです!」とTVで堂々と言っていて、おお・・・逆に脇毛は残すのね・・・となぜか感動した記憶があります。ジェンダー関係なく、それぞれが自由に自分らしく体毛と向き合えるといいな、と思う今日この頃です。
ちょっと余談ですが、私は長くヘア(頭ね)をお世話になっているイケメン美容師の方がいるのですが、2年ぐらい前でしょうか、カット中なんとも言えない違和感があったのです。
・・・なんかいつもと違うな、なんだろう?
あれ?・・・・「腕毛」が、ない!
そう、実はこの美容師さんの腕(肘下)には、両津勘吉ばりの剛毛が生えていたんです。彼の腕が顔を横切るたびに「イケメンの腕毛」にギャップ萌えし、心憎からず思っていたのですが、その日は・・・ツルツル!!!
数ヶ月後に再訪した時も、その次も、もう彼の腕に剛毛はありませんでした。
流石にご本人にキモいと思われるのが嫌で、「腕毛、剃ったんですか・・・?」とは未だ聞けずにいますが、髪を切ってもらうたび、ああ、もうあの毛には会えないんだと、もの悲しい気持ちになりました。
承諾を得ず彼本人を描くことはできないので、別の絵でそのうさを晴らしました。体毛もりもりの、ちょっと年配の男性美人画ですが。R.I.P.腕毛。
美容師の腕毛の話、私的には結構ショックで、会う人会う人に彼の腕毛が亡くなった話をしていたんですが・・・次回は何を書こうかな。
欲望の趣くままに・・・。
木村了子 お知らせ
「面/向かい合うもの」展
ギャラリー蚕室(西荻窪)
https://san-shitsu.com/archives/6413/
2024年9月5日(木)~9月15日(日)
13:00-19:00 (金-20:00) 最終日17:00
会期中休廊/9日(月)・10日(火)・11日(水)
個展:「神楽坂の愛人の家」
eitoeiko(神楽坂)
http://eitoeiko.com/
2024年12月~2025年1月開催予定