CATEGORY

最新号紹介

12,1月号2025.10.31発売

今こそ知りたい!千利休の『茶』と『美』

閉じる

Craftsmanship

2025.07.09

「ゴッサンス」アーティスティック ディレクター キャロリーヌ・ゴティエ・メンデスさん インタビュー 完全版 

昨年6月、「ゴッサンス」のアーティスティック ディレクターに就任したキャロリーヌ・ゴティエ・メンデスさんは、コスチュームジュエリーとアクセサリーのデザイナーとして、これまで多くの有名メゾンで活躍してきた華麗なるキャリアの持ち主です。そんな彼女にとっても、ゴッサンスのクリエイションに携わることは、特別な意味をもっていました。創作への情熱、若い職人たちへの思い、手仕事の魅力など、本誌の記事には納めきれなかったインタビューを完全版でお届けします。

キャロリーヌ・ゴティエ・メンデスさんへのインタビュー 一問一答

ご自身について、そして「ゴッサンス」で働くことを選んだ理由を教えてください。

メンデスさん:コスチュームジュエリーとアクセサリーのデザイナーとして、20年以上の経験があります。シャネルをはじめとする多くの有名なメゾンで働いてきました。ゴッサンスのアーティスティック ディレクター就任のオファーがあったとき、それは私にとって見逃すことのできない機会だと思いました。まさに夢のような仕事です。メゾンダールのアトリエで、責任者として作品に命を吹き込む…。それは、創造の原点に立ち返るようなもので、極めてまれなチャンスでした。

メゾンのなかでは具体的にどのような役割を担っているのですか?

メンデスさん:ジュエリー部門のアーティスティック ディレクターが、ゴッサンスでの私の役割です。私たちのメゾンにはコスチュームジュエリーのブランドがあり、そのコレクションを私がデザイン。それに加え、イメージ面でのアートディレクションも担っており、たとえば写真家の選定や、ウェブサイト、SNSでのコレクションの打ち出し方などもディレクションしています。
さらに、シャネルのコスチュームジュエリーのクリエイションにもアートディレクションというかたちで関わっており、ゴッサンスのアトリエとともにシャネルの創作活動をサポートしています。これは、本当に創造的な対話です。また、le19Mにあるギャラリーでのアーティスティックなコラボレーションにも携わっています。

ゴッサンスの創業者であるロベール・ゴッサンスの創作への情熱とこだわりは、今もなおメゾンに強く息づいていると思います。それは、現在どのようなかたちで表現されているのでしょう?

メンデスさん:私の役割は、まさにロベール・ゴッサンスのクリエイションが私たちの創作活動の指針となるように見守ることです。彼のクリエイターとしての精神や、自由で豊かな創造の道筋を忘れてはならないと考えています。
ゴッサンスのクリエイションにおいて私が大切にしているのは、ほんの少し〝外した〟ような、笑みを誘うジュエリーデザイン。決してシステマティックなコレクションはつくらず、彼の反抗的で陽気な精神を反映させたいのです。常に少し遊び心をもたせることで、メゾンの独自性が際立ちます。
シャネルと共同開発しているコレクションにおいても、私たちに求められているのは、手仕事による金属を使った職人技です。これこそが、今日における私たちのサヴォアフェール(匠の技)だと思っています。それを保つために、私はこの仕事に携わっているのです。

ガブリエル・シャネルの時代の作品はアーカイブとして保存されているのでしょうか? また、それらの作品からインスピレーションを受けることはありますか?

メンデスさん:はい、シャネルのヘリテージ部門に、素晴らしい創造性を物語るアーカイブが保管されています。ロベール・ゴッサンスとガブリエル・シャネルの時代のコラボレーションは、私たちにとってとても興味深いものだといえるでしょう。
そこにはシャネルの多くの作品が収蔵されています。それはクリエイターにとって大きなインスピレーションの源であり、メゾンの創造性の豊かさを目の当たりにすることができる場所でもあります。アーカイブの作品が新しいコレクションの出発点となることもありますが、最終的にどう取り入れるかは、シャネルの判断に委ねられます。ヘリテージの作品は常に何らかの起点となり、細かなディテールや技術が新たなかたちで再解釈されることもあるのです。
ゴッサンスのコレクションについてもお話ししたいと思います。私がこのメゾンに来て気に入ったことのひとつは、ロベール・ゴッサンスの時代の古い型を引っ張り出して、彼がかつて制作した作品に命を吹き返すことができた点です。
たとえば、私が首にかけているこの黒い小さなカメ(のペンダント)は、彼のかつての作品です。それを現代のコレクションとしてよみがえらせました。私は彼の遺産をコレクションとして生かすことが大切だと思っていて、文化遺産の一部だと考えています。
作品によってはサイズを小さくすることもありますが、完成品は基本的には昔と同じものです。私たちのアーカイブには多くの型が保存されていて、ゴッサンスのコレクション制作においてそれらを活用することができます。これは、彼にオマージュを捧げる方法のひとつでもあるのです。

1950年代の創業以来、ゴッサンスの創造性と職人技において、どのような進化がありましたか? 変わらなかったことと、最も変化したことは何でしょう?

メンデスさん:変わらなかったのは、ジュエリー制作の技法。私たちは今でもロストワックス鋳造(蝋型鋳造)を使っていて、これは古代から伝わる技術です。
変化した点というか、私たちが新たに得たのは3Dです。3Dの技術を用いることで、パーツをスキャンしてサイズを拡大したり縮小したりすることが可能に。これによって、パーツの開発時間を短縮することができるようになりました。
とはいえ、最初の工程であるパーツの鋳型をつくるところまでは、昔とまったく変わっていません。私たちのアトリエ責任者がよくいうのは、「(私たちは)5Dを使っている」と。それは、彼女の5本の指のことなんです(フランス語で指は「Doigt」)。

フランスのメティエダールとゴッサンスの技術を次世代へと伝えていくには、何が必要だと思いますか?

メンデスさん:理想をいえば、こうした職業があることを若い世代にもっと教えていくべきだと思います。少なくとも、メティエダールを公開し、話題にすることが必要です。今の学校ではあまり語られていないように感じます。そのため、若者たちには自分の手で何かをつくるという発想すらないのかもしれません。それができるような仕組みをつくるべきだと考えています。
le19Mは、まさにこうした職人技の伝統を世の中に広めるための施設であり、ギャラリーで開催される多くの展覧会を通じてそれを実現しています。たとえば「未来の手」というイベントでは、メゾンダールが自らの技を披露する機会が設けられました。そこでは来場者が職人と直接対話できますし、多くの若者や、キャリアを変えたいと思っている人たちもやってきます。つまり、再スタートを目指す人が、私たちのような職業に目を向ける機会になっているのです。
確かに職業訓練も存在しますが、今日においても、これらはあまり可視化されてこなかった仕事です。古くからある職業であるにもかかわらず。le19Mはそれらを可視化し、広く世に知らせる助けをしているのです。
つまり、皆がこういった仕事を知っていれば、若い人たちも「こんな仕事をしてみたい」と思えるかもしれなません。しかし、それを知らず、商業系の仕事しかないと思ってしまえば、せっかくの可能性を逃してしまいます。だからこそ、転職する人が多いのだと思います。結局はもっとクリエイティブで、現実としっかり結びついた仕事がしたくなるのです。

le19Mプロジェクトについて、どのように感じていますか? また、このプロジェクトに参加していることは、メゾンにとってどのような意味をもっていますか?

メンデスさん:このプロジェクトに参加できていることは、大きなチャンスです。シャネルとle19Mの代表であるブルーノ・パブロフスキー氏は、卓越したメゾンダールを守り、フランスのサヴォワフェールの景観のなかにしっかりとした位置を与えました。先見の明のある人物だと思います。
ここは本当に、創造の出発点です。すべてがここから始まります。le19Mによってメティエダールが可視化されることは、私たちにとっても非常に重要な意味を持ち、職人たちの情熱や仕事を世に伝えることができるのです。

アトリエがこの新しい場所に移転して、職人たちに変化はありましたか? この建物や場所についての印象を教えてください。

メンデスさん:職人たちにとっては大きな変化だったと思います。この建物はとてもよく設計されていて、すべてのアトリエが庭に面しており、非常に明るく、空間も広くなりました。とてもポジティブな変化だったと思います。
作業するのに心地よい場所であり、外から人々が訪れることのできるギャラリーやカフェがあることで、活気も出ます。それは、私たちのメゾンにとっても非常に良いことです。

ゴッサンスにとって、le19Mに属していることの利点は何でしょうか? 他のアトリエとの連携については、どのように感じていますか?

メンデスさん:le19Mのギャラリーでの共通プロジェクトなどを通して、私たちは他のアトリエとのシナジーを感じています。ふたつのアトリエ間でのコラボレーションが行われることもあります。この建物に一緒に集まっていることで、まるで「コレクティブ(集合体)」のように考えるようになり、それが仕事における重要なシナジーを生み出しています。
私たちは個々には独立した存在であり、メゾンダールであるけれども、同時に職人たちのコレクティブの一員でもあり、それがとても素敵で、活気を生み出していると感じています。

クチュールメゾンと連携してユニークな作品を制作する際、どのように仕事を進めるのですか? たとえば、シャネルのクリエイションスタジオとはどのように仕事をされているのですか?

メンデスさん:すべてはクリエイションスタジオの「やりたいこと」から始まります。それはイメージであったり、テクスチャー、ドローイング、何らかのインスピレーションかもしれませんが、すべての出発点になります。
その後、スタジオからドローイングが届くこともあれば、コラージュのようなものだったりもします。それを手にすると、私たちはすぐにひとつのピースを試作し、アトリエへ。金属で試作品を制作します。それをスタジオに提出すると、向こうで修正や変更が加えられます。最初のピースがある程度デザインが固まると、スタジオから「これをネックレスにしたい」「ベルトにしたい」「カフにしたい」などの要望が来ます。そうして、コレクションを少しずつ構築していくのです。
まさに双方向のやりとりで、とてもインスピレーションに満ちた作業です。私たちの側からも、技法や素材を提案します。

これまでに手がけた作品のなかで、特に印象に残っているものは? その理由も教えてください。

メンデスさん:ゴッサンスでの初めてのコレクションについてお話ししたいのですが、特に思い入れがあるのはこの小さなミノディエール(ハンドバッグの一種)です。
最初のコレクションのために、娘と一緒に海辺で拾い集めた貝殻をもち帰りました。フォルムがそれぞれ異なり、独自のテクスチャーをもつ貝殻たちです。私はそれらをアトリエに持ち込み、水に濡らして、その質感を生かしたジュエリーを制作しました。この小さなミノディエールもそのひとつです。
私にとって、それらはコレクターズアイテムになってほしいと思えるような作品です。全体のテクスチャーは鋳造され、その後アトリエの手仕事によってていねいに仕上げられました。

シャネルのために制作した作品のなかで、印象的だったものはありますか?

メンデスさん:私は、中国の杭州で発表された 2024/25年 メティエダール コレクションを挙げたいと思います。それは私にとって初めてのメティエダール コレクションであり、ゴッサンスのアーティスティック ディレクターとして臨んだ初の大きな仕事でした。

le19Mの創設以来、若者たちのメティエダールへの関心が高まっています。ゴッサンスでも、若い職人が増えていると感じていますか? 彼らに期待すること、また願っていることは?

メンデスさん:私は2024年6月に現職に着任しましたが、アトリエには若手が多くいて、とてもよいことだと感じました。職人の平均年齢は、おそらく30歳から35歳ぐらいでしょうか。とても活気があり、興味深いと思います。というのも、彼らの若さによって、アトリエも自然に進化していくからです。彼らには、何よりも楽しんで仕事をしてほしいですね。そして、創造的であってほしいと願っています。

ゴッサンスの人員構成は?

メンデスさん:ジュエリー部門に12名、装飾部門に6名。つまり、職人は合計で約20名です。メゾンには約80名が在籍しています。

現在、メゾンのクリエイションはインテリアや室内装飾にも広がっています。コスチュームジュエリーやアクセサリーとデザインにおける違いはありますか?

メンデスさん:ゴッサンスのインテリアや室内装飾に関するクリエイションは、アトリエ創設当初から存在しています。ロベール・ゴッサンスは、ガブリエル・シャネルのために装飾品を提案していたのです。そして自然な流れで、彼自身のための作品も手がけるようになりました。彼はジュエリーを制作しながら、室内装飾品もつくっていました。彼はそれらを「空間のジュエリー」と呼んでいました。
スケールが違うだけで、技法やデザインの原則は同じでした。そして今日においても、それは変わっていません。身につけられるものであってもそうでなくても、美しいオブジェに必要なのは、その美的感覚とプロポーションであり、使用する技術もほとんど同じ。作品の目的は、小さくても大きくても「美しいこと」です。美しさこそが、作品にとって最も重要なのです。
ロベール・ゴッサンスが自身のオブジェを創作するときも、きっとそう考えていたはずです。
実際、ガブリエル・シャネルはコッサンスに「自分のための創作」を促しましたが、最初は彼女のアパルトマンにあるオブジェの修理を頼んでいました。たとえば、彼女のアパルトマンにある水晶の球(元はシャンデリアに付いていたもの)を彼に見せて、「ロベール、これで何かつくってちょうだい」と頼んだのです。彼はその球を持ち帰り、3体のペルシャ風のライオンを使って土台を作りました。これは、ガブリエル・シャネルの星座である獅子座へのオマージュです。そして、それは現在、彼女のアパルトマンのテーブルに置かれ、ゴッサンスのコレクションの一部となっています。

ご自身の経歴について教えてください。

メンデスさん:私は1981年にパリ近郊で生まれました。43歳です。
小さいころからずっと、絵を描いたり、コラージュをしたり、とてもクリエイティブな子供でした。でも、スタイリストやデザイナーという職業があることは知りませんでした。そうした職業を紹介するサロンに出かけるようになってから、ファッション系やアート系の学校に惹かれるようになりました。
最初はグラフィックの道に進もうと考えていましたが、その後、応用美術の学校レコール・デュペレに進学。そこでこの職業と出会ったのです。もともとファッションが大好きでしたし、スタイリストやデザイナーという仕事を知ってからは、すぐに夢中になりました。
その後、すでにコスチュームジュエリーを作っていた女性クリエイターと出会い、「私もこれがやりたい!」と思いました。アクセサリーという分野に、私は瞬く間に魅了されたのです。

Caroline Gauthier Mendes
「ゴッサンス」 アーティスティック ディレクター

キャロリーヌ・ゴティエ・メンデス●デザイナー、「ゴッサンス」ジュエリー部門アーティスティック ディレクター。デュペレ応用美術高等学校を卒業後、コスチューム ジュエリーのクリエイターとの出会いを機に、この道へ。有名メゾンで、コスチューム ジュエリーとアクセサリーのデザインを20年以上にわたり担当してきた。2024年6月より現職に就任。
Share

福田詞子


取材/鈴木春恵
おすすめの記事

世界的な家具の産地デンマークで挑戦を続ける日本人デザイナー、岡村孝の挑戦の軌跡

安藤整

縄文土器のかけらと“会話”ができる? 陶片を合体する「呼継ぎ」が面白い。阿部顕嵐が語る「あらん限りの歴史愛」vol.29

連載 阿部顕嵐

波乱万丈! 魯山人のマルチな才能に迫る!Part4:人生(前編)

山本 毅

ラーメン丼がアートに!『ラーメンどんぶり展』で美濃焼の真髄を目撃せよ!

黒田直美

人気記事ランキング

最新号紹介

12,1月号2025.10.31発売

今こそ知りたい!千利休の『茶』と『美』

※和樂本誌ならびに和樂webに関するお問い合わせはこちら
※小学館が雑誌『和樂』およびWEBサイト『和樂web』にて運営しているInstagramの公式アカウントは「@warakumagazine」のみになります。
和樂webのロゴや名称、公式アカウントの投稿を無断使用しプレゼント企画などを行っている類似アカウントがございますが、弊社とは一切関係ないのでご注意ください。
類似アカウントから不審なDM(プレゼント当選告知)などを受け取った際は、記載されたURLにはアクセスせずDM自体を削除していただくようお願いいたします。
また被害防止のため、同アカウントのブロックをお願いいたします。

関連メディア