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Culture

2025.12.16

『杉本博司 江之浦測候所』——10年超の構想が結実した“総合芸術”の全貌【新刊紹介】

世界的な現代美術作家・杉本博司氏が設立した「小田原文化財団」は、日本文化の再発見と継承を目指しその中心的な活動拠点として2017年に一般公開されたのが、小田原市江之浦の高台に位置する「江之浦測候所(Enoura Observatory)」です。

相模湾を望み、箱根外輪山が迫る地形に抱かれたこの場所は、古来からの自然が残る希少な景観地。杉本氏はここに、芸術の起源へ立ち返るための空間を構築しました。今回刊行された新刊『杉本博司 江之浦測候所』は、10年以上にわたる構想と制作期間を経て完成した江之浦測候所の全体像をまとめた一冊です。

江之浦測候所という“総合芸術作品”

彫刻、舞台芸術、建築へと活動領域を広げてきた杉本博司氏。「江之浦測候所」は、氏の20年以上にわたる実践が結実した場所でもあります。本書は、古代から現代に至る日本の伝統を独自のビジョンで統合し、芸術と建築が一体となったこのプロジェクトを、迫力ある写真とともに紹介しています。

江之浦測候所は、小田原市江之浦の地に広がる類い稀な景観の中で、四季の移ろいを体感できる文化芸術施設。現代美術作家・杉本博司が自ら敷地全体の構想と設計を手がけ、ギャラリー棟、野外舞台、茶室などで構成された施設は、「人類とアートの起源に立ち戻る場」として構想されました。

冬至光遥拝隧道と光学硝子舞台 ©小田原文化財団

全長100メートルに及ぶギャラリー棟には杉本の代表作を展示し、野外の石舞台や光学硝子舞台では、季節や自然を背景に多彩な芸術プログラムを展開。文化芸術の発信拠点として、国内外から高い評価を得ています。

江之浦測候所全景 ©小田原文化財団

本書に収められた写真は、こうした総合芸術としての測候所の魅力を余さず伝え、杉本氏の詩的な世界観を鮮やかに浮かび上がらせています。

本書から

小田原文化財団の使命:芸術の起源を再考する

1948年、東京に生まれた杉本氏。1970年に渡米し、1974年からニューヨークに在住しており、その活動分野は写真、建築、造園、彫刻、執筆、古美術蒐集、舞台芸術、書、作陶、料理と多岐にわたり、世界のアートシーンにおいての地位を確立してきました。氏のアートは歴史と存在の一過性をテーマとし、そこには経験主義と形而上学の知見をもって西洋と東洋との狭間に観念の橋渡しをしようとする意図があり、時間の性質、人間の知覚、意識の起源といったテーマを探求。作品は、メトロポリタン美術館(NY)やポンピドゥセンター(パリ)など、世界中の主要美術館に収蔵されています。

一方、杉本氏が創設した「小田原文化財団」は、古典芸能から現代演劇まで幅広い舞台芸術の制作・上演、美術品の保存・展示、さらには先史から現代までの芸術に関する調査研究を続ける団体。科学技術の発達によって“不可思議”が減少した現代だからこそ、あらためて芸術の原点に立ち返り、人間の意識がどこへ向かうべきかを問う必要があると杉本氏は考えます。

甘橘山 春日社 ©小田原文化財団

本書は、彼の長年に及ぶ探求の集大成である「江之浦測候所」という“時間と自然の劇場”を理解するための貴重な資料ともなる一冊といえます。

本書から

まだ訪れたことのない人にも

『杉本博司 江之浦測候所』は、江之浦測候所の思想・建築・風景を多角的に紹介し、杉本氏の比類なき芸術観を読み解くための一冊。同所を訪れたことのある人には体験の深まりを、まだ訪れたことのない人にはその世界観の入口を提供するものになるはずです。芸術や建築、文化研究に関心を持つ方に強くおすすめしたい一冊となっています。


『杉本博司 江之浦測候所』
頁数:224ページ
仕様:B5変形・上製・フルカラー
発行:小田原文化財団+MW Editions

<一般のお客様お問合せ先>

公益財団法人小田原文化財団
tel: 0465-42-9170(9:00–17:00/休館日(水)を除く)
email: info@odawara-af.com
公式ウェブサイト: https://www.odawara-af.com/

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和樂web編集部

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