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4,5月号2026.02.28発売

美の都・京都で出合う うるわし、工藝

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連載

Fashion&きもの

2026.03.30

音を纏う。耳で感じ、生み出す着物の美【和を装い、日々を纏う。】14

着物家として活動する伊藤仁美さん。京都の禅寺、両足院に生まれ育ち、現在は着物を通して日本の美意識の価値を紐解き、未来へとつないでいくことをテーマに講演やイベント出演など幅広く活躍しています。この連載ではこれまでの彼女の歩みや日々纏う着物の魅力について語って頂きます。

前回までの連載はこちらからご覧ください

心地よく美しい音が教えてくれること

ササササーと袈裟が擦れ合いながら、足早にお寺の廊下を歩く音。ギシギシと鳴る廊下の音と呼応しながら、静寂の中に響きわたります。
法要などの時には、大勢の和尚さんたちが実家であるお寺に集まりました。

幼い頃の私は、障子越しに聞こえてくる袈裟の擦れる音や足音に耳をそばだて、そこにそれぞれの個性を見出していました。やがて音だけで誰が来たのかがわかるようにまでなりました。どうやって答え合わせをしていたのかというと、もっぱらお経を唱える声で確かめていたのでした。

さらに音を聞くだけで、音の持ち主のその日の心身の調子まで感じ取れるようになりました。足音の速さ、裾や袖の触れる音、お経を読むときの呼吸。音の中に個性や心のありようを見出し、視覚に映るもの以上に耳を澄ませて人を感じ取り、そのうえで人と会話をするような子供でした。
今思うと、幼い頃から無意識に五感を使って生活していたのかもしれません。

そこから時間が流れ、幼い頃には想像もしなかった東京に住むようになった私ですが、音で感じ取る癖のようなものは、今も変わらず残っています。

日常の中にある音から、自分自身の状態を知ることがたくさんあります。何気ないものであればあるほど、そこに表れます。

朝起きてカーテンを開ける音。
何気なく入れるコーヒーにお湯を注ぐ音。
会話の中の言葉や呼吸の音。

その日、耳に響く音は、そのまま自分自身の心のありようでもあります。その音の変化に敏感でいること、そして心地よい音が流れる朝を過ごすことを、私はとても大切にしています。
まるで、何気なく鍵盤に指を置いて鳴った音から、心地よいメロディーを紡ぎ出すように。

そして、この感覚は着物を纏うときに最大限に発揮されます。鏡を見ず、感覚をフルに使って着物を纏うとき、何より頼りになるのがほかでもない「音」なのです。

スルスルと着物を羽織る瞬間の音。
サラサラと長襦袢と着物が触れ合う絹ずれの音。
キュッと締める絹の紐の音。

着物や紐の扱い方、生地によって音は変わり、その日の呼吸がその日の音を決めます。美しく纏えているかどうかのバロメーターになるのは、心地よく美しい音なのです。

裾を決めるとき、足の甲を擦る瞬間の音。
音によって裾の形が変わります。
その音色やリズムを、その瞬間に味わいます。

襟元を作るとき、胸元に吸い付くように生地が触れる音。
生地と身体がきちんと合っているかどうかは、音が教えてくれます。生地もまた、気持ちよいと言ってくれているような音を立てます。

帯を締めるとき、絹と絹が触れ合う音。
決して帯はぎゅうぎゅうに締めるものではありません。心地よい締め具合を、音が、帯自身が教えてくれます。

流行りのポップスでも、ジャズでも、クラシックでもない。
そんな音の中に私は自分らしさを感じ、ときに翻弄されながら、これからも自分が心地よいと思える音を聴き続けていきたいと思っています。

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伊藤仁美

着物家/伊藤仁美 京都の禅寺である両足院に生まれ、日本古来の美しさに囲まれて育つ。長年肌で感じてきた稀有な美を、着物を通して未来へ繋ぐため20年に渡り各界の著名人への指導やメディア連載、広告撮影などに携わる。 オリジナルブランド「ensowabi」を展開しながら主宰する「纏う会」では、感性をひらく唯一無二の着付けの世界を展開。その源流はうまれ育った禅寺の教えにある。企業研修や講演、国内外のブランドとのコラボレーションも多数、着物の新たな可能性を追求し続けている。
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美の都・京都で出合う うるわし、工藝

※『和樂』2026年4・5月号 美術展カレンダーに誤りがありました。P.224で紹介しました、福岡県・久留米市美術館で開催中の「美の新地平ー石橋財団アーティゾン美術館のいま」の入館料は、正しくは一般1,500円となります。お詫びして訂正いたします。
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