歴史あるメゾンが生み出す伝統技巧の最高峰――玉三郎さんが考える「伝承」の美学

リング状のユニークなフォルムは、天使や聖人の頭に描かれる光輪(HALOアロ)をイメージ。成形、装飾など、すべての工程においてバカラのM.O.F.(フランス最優秀職人)による超絶技法が凝縮された作品。「アロ デカンタ」[高さ45.4×幅18.4㎝/世界限定50ピース、ナンバー刻印入り]¥4,785,000(バカラショップ 丸の内)
「最初に見た瞬間から心惹かれたアロ デカンタ。ここに赤いワインが入ったりしたらきれいでしょうね」───玉三郎
クリスタルがお好きで、アンティークのグラスや花器のコレクターとしても知られる女形歌舞伎俳優の人間国宝・坂東玉三郎さん。260年以上にわたり美しい作品を生み出してきたバカラの傑作から、選りすぐりの作品を再解釈し、バカラの人間国宝級の職人が復刻したコレクション「オート・クリスタルリー」をご覧いただくためにバカラのショールームを訪ねていただきました。バカラの花器もいくつかお持ちで、常々「花が長持ちするのはなぜかしら?」と思っていた玉三郎さん。その秘密に近づけるかもしれません。
「素晴らしいですね。最初に拝見したときから『アロ デカンタ』に惹かれました。赤ワインが入るとまた美しく、赤と輝きのコントラストができることでしょうね」と、玉三郎さん。
「アロ デカンタ」は1867年のデザインを復刻しており、天使の輪、氷をイメージしています。クリスタルをリング型にして、中は中空に成形。それだけでもたいへん高度な技術を要しますが、さらにその上に緻密なカットを施しています。当時は蓋がなく、取っ手が付いていたそうですが、20世紀になって蓋が付きました。蓋も、彫刻のようにひとつの個体に対してひとつの型をつくり、割って外して磨き上げ、細部にまでカットを施すというつくり方です。
「当初のスケッチを拝見したのですが、あまり詳しく書かれてないので驚きました。現代の職人が、当時のつくり方を職人として読み解いて、実際に創ることで当時の技術を現代に再現して次世代に技術を継承する。簡単なスケッチで残されているものを現代に再現するということは、おそらく先人と一緒に作業しているんだと思います」

木々の上で、葉が重なり合って天蓋のように見える〝樹冠(じゅかん)(キャノぺ)〟を表現したボウルは、1901年にロシア帝室の宴席のために制作された作品を復刻。さまざまなカットが施されたクリスタルにグリーンの被(き)せが瑞々しく輝き、複雑な光を放つ。「キャノぺ ボウル」[高さ5.7×直径21.6㎝/世界限定50ピース、ナンバー刻印入り]¥1,848,000(バカラショップ 丸の内)
「バカラの美しいものに憧れ、自分で学ぶことで技が受け継がれていくのですね」───玉三郎
手、息づかい、眼、そうした職人たちの感覚に導かれながら唯一無二の技によって生み出す。これはバカラにとって非常に意味のあるコレクションです。1764年の創設以来、バカラは卓越したクラフツマンシップの伝統を受け継いできました。
「私たちの仕事も一緒に作業していかなければ継げないものです。つまり、こういうふうにやるんですよと説明しても技術は継げません。実際にやってみて、失敗したり、成功したりしながらやって。それは素晴らしいことだなと。つまり、一緒に継いでいるんでしょうね。結局は。
やっぱりどんな資料があろうとも、現場でやってみない限りは伝承できないと思う。で、実際に、先輩と後輩と、次の世代の人たちが一緒にいなきゃわからないと思います」と玉三郎さん。さらに人間国宝級の優れた技術を育てるうえで「重要なのは人間です」と語ります。「人間がどうしていくか。ただ、ある人間国宝の職人さんは伝承しないことが伝承だと。いわゆる憧れてもらうことだと言いました。そういう考えもあります。もしかして、バカラの美しいものに憧れて、自分で学ぶということもあるんじゃないか。1対1で伝えたから伝わるというものではなくて、ものを見たときに魂を摑(つか)んでいるかどうかということが一番の伝承なのかもしれません」
バカラのクリスタルが特別な理由と秘密を垣間(かいま)見ることができた訪問でした。

「バカラ」の歴史を未来へつなぐ、「オート・クリスタルリー」コレクション

創設は1764年。以来260年以上にわたり、美しいクリスタル作品を生み出してきた「バカラ」が、今年、卓越したクラフツマンシップと創造性によって体現する希少なコレクション「オート・クリスタルリー」を発表しました。
このコレクションは、19世紀から20世紀初頭に万国博覧会や国際博覧会で発表された歴史的な作品や、王侯貴族のために制作された貴重なアーカイブを、現代の職人によって復刻した意義のあるもの。12人のフランス最優秀職人章受章者と、ふたりの芸術文化勲章受章者を筆頭とする、メゾンの中でも人間国宝級の職人たちが、吹き成形、カット、彫刻、金彩といった様式や技法を結集させ、クリスタルがもつ透明感や美しさを最大限に表現しています。まるでメゾンの軌跡をたどるかのように、表現方法は多岐にわたり、どの作品もこの上ない魅力をたたえています。
メゾンが生み出した傑作が匠の技で現代によみがえる
「バカラ」を象徴する、精緻なカット技術はもちろんですが、意外にうつるのは、コレクションに見受けられる豊かな色彩。そのひとつの技法として、日本の伝統工芸・江戸切子を彷彿とさせる、「ダブルケースド(色被せ)」によるものが挙げられます。レッドやグリーンといったカラークリスタルとクリアのクリスタルを2層に重ね、その厚みに応じてカットを施すことで、繊細なニュアンスやグラデーションを生み出しています。またジャポニスム文化に影響を受けた作品では、鳥や樹木といった自然モチーフを彫刻。その上から金彩とエナメル彩色で着色することで、まるで絵画のような装飾を実現させました。
「バカラ」の作品はすべて分業で制作され、フランスのマニュファクチュールの現場では熟練の職人と若い職人が世代を超え、ともに高い意識で作品づくりに携わっているといいます。メゾンが培ってきた奥深い技術を守り、次世代へと継承する。そんな意味合いも、この「オート・クリスタルリー」には込められているのです。
「オート・クリスタルリー」コレクション写真右から/リング状のシルエットに、クリスタルの純粋な透明感が際立つ。「アロ デカンタ」[高さ45.4×幅18.4㎝/世界限定50ピース、ナンバー刻印入り]¥4,785,000・円錐形のシルエットが特徴的なデカンタは、1909年開催の東部フランス国際博覧会のために創作。〝ピエルリー(宝石飾り)〟と呼ばれる帯状の装飾が特徴で、2層の被せクリスタルを職人が緻密に削り出すことで透明な部分が表れ、エメラルドをちりばめたような模様が浮かび上がる。「ピエルリー デカンタ」[高さ45.6×直径11㎝]¥4,400,000・大胆なフォルムとメゾン独自の技法によって生まれるローズピンクが印象的なボウルは、1925年にパリで開催された現代装飾美術・産業美術国際博覧会にて発表。モダンな意匠でメゾンの新しい一面を切り拓いた。「トロカデロ ボウル ジョルジュ・シュヴァリエ」[高さ12×直径26㎝]¥3,300,000・1878年のパリ万国博覧会で発表された、ジャポニスムの影響を映し出す花瓶。太陽、月、樹木、鳥といった自然の風景を、細やかな彫刻や金彩とエナメル彩色によって描き出し、昼と夜で表現している。「ヴォル・デュ・ソワール(夜の飛翔) ベース」[高さ30×幅10.2㎝]¥4,400,000・「ヴォル・ドゥ・ジュール(昼の飛翔) ベース」[高さ30×幅10.2㎝]¥3,465,000/すべて世界限定50ピース、ナンバー刻印入り(バカラショップ 丸の内)
思わず感嘆してしまう複雑で精緻なクラフツマンシップ

クローズアップして見ると、グリーンの宝石飾りが、下に向かうにつれ大きくなっているのがわかる。限られた職人だけが携える技術が、存分に凝らされているのが、より明確に。長い歴史の間に「バカラ」が育んできた豊かな感性と高度な技術は、時代を超えても変わることなく、未来へとつながっていく──この「オート・クリスタルリー」コレクションには、そんなメゾンの気概が表れている。「ピエルリー デカンタ」[高さ45.6×直径11㎝]¥4,400,000(バカラショップ 丸の内)
コレクションを支えるメゾンのアーカイブ資料

※この特集での価格表記は、すべて税込価格です。
※本記事は『和樂(2026年10・11月号)』の転載です。

