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Art
2019.09.27

現代アートとは?魅力・見方・楽しみ方って?「わからない」との「対話」がカギ!

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盛期ルネサンスに、ミケランジェロは羊飼いの美青年を岩から削り出した。今日、印象派を嫌う人はあまりいないだろう。では、現代アートは?

タブロー(壁画ではない板絵やキャンバス画)、立体、映像、インスタレーション(空間を含む表現)、パフォーマンス(身体表現)…現代アートは、その種類の多さと抽象性のせいか内容がどうしても伝わりにくい。アーティストはなにを伝えたいのだろう?私たちは作品をどのように見たらいい?「今」や「現代性」を問う現代アーティストを紹介する前に、まずは「現代アート」について考えてみたい。

そもそも現代アートってなに?

実は、現代に生まれた美術表現の全てを「現代アート」と呼ぶわけではない。大まかに定義すると「現代アート」とは、私たちの生活する現代社会が抱えている問題をひも解き、社会や美術史への批判性を投影している作品のこと。第二次世界大戦(1945年)以降の芸術を指すこともある。

テレビ、冷蔵庫、洗濯機などの家電製品や自家用車、旅客機、電話、世紀の終わりにかけて生まれたデジタル印刷機。およそ思いつく身のまわりのほとんどは20世紀の産物だ。テクノロジーの導入、工業製品によって様変わりした生活。軍事的紛争の絶えなかった20世紀は戦争の世紀でもある。たとえば、ピカソ(Pablo Picasso 1881-1973)の『ゲルニカ(1937年)』は平和を求め、反戦を訴える象徴と位置づけられているし、マルセル・デュシャン(Marcel Duchamp、1887-1968)の男性用小便器にサインをした『泉(1917年)』は工業製品をオブジェにすることで古典的な「美」に疑問を投げかけた。どちらもインパクトがあって新奇で意味深い。現代アートにおいて、テーマと時代性は切り離せない関係にある。

現代アートはわかりにくい?

一般的な絵画展と現代アートを展示するギャラリーの作品を比べてみると「きれい」とか「(技術的に)すごい」とはべつの印象を受ける。そう、たとえば「わからない」なんて感想を持つ人もいるだろう。この「わからなさ」を見過ごさないでほしい。この正体こそが現代アートを読み解くヒントになるかもしれないからだ。

かならずしもすべての作家に共通しているわけではないが、現代アートの課題のひとつはアートを通して歴史、社会、人の生き方、世界の在り方などを見る者に問いかけること。だからパッと見ただけでは、わからなくて当たり前。現代アートは鑑賞者に委ねられている部分があまりにも大きいのだ。

宗教や政治、戦争などの題材が苦手、あるいはそうしたテーマを扱う現代アートが苦手…という方にもおすすめの展覧会が横浜で開催されている。テーマは「対話」。現代アート初心者も見に行きやすい、すべての人にとって身近なテーマだ。

 新・今日の作家展2019 対話のあとさき

2019年10月12日まで横浜市民ギャラリーで開催中の『新・今日の作家展』は、同館が1964年から開催してきた現代美術の動向を紹介する年次展覧会。今回は、副題が示すように「対話」のかたちを探る展覧会となっている。対話やコミュニケーションをテーマに扱う本展では、国内外で活動する4組の日本人現代アーティストの作品に出合うことができる。

鎌田友介 KAMATA Yusuke

鎌田友介《The House》2016年/木、ビデオプロジェクション/15分/国際芸術センター青森・ACAC ※参考作品

鎌田友介さんは1984年、神奈川県生まれ。日本から韓国、アメリカ、ブラジルに渡り、現地での建築史や近代産業史のリサーチをもとに日本国外に存在した日本家屋を主題に、長期的なプロジェクト《The House》を行っている。建築や芸術は国家のアイデンティティと結びつきながら構築されてきた。鎌田さんが調査しているのは庶民のための住宅。すなわち、やがて消えていくだろう建築だ。「日本家屋は、メディウムというか、ある事象に触れるためのドアのようなものです」と鎌田さんは語る。作品が表現しているのは、建築が内包している時代性や政治性といった複雑な世界の有様だ。

原美樹子 HARA Mikiko

原美樹子《Kyrie》より、Untitled 2017年

原美樹子さんは1967 年、富山県生まれ。1996 年の初個展「Is As It」以降、国内外のグループ展や個展で作品を発表。海外でも積極的な作家活動を行っている。原さんが撮影するのは何気ない風景や人々の姿。日常の光景や偶然にめぐり会った光景を切りとった、日常を掬い上げるようなスナップショットの数々。撮影はファインダーを覗かずに行われることがほとんどだ。レンズシャッターでピントも目測。フィルムの送りも手回し。そうして生まれた写真は、どこか既視感のある独特な雰囲気で、記憶の断片のように見る者の心に触れる。

守章 MORI Akira

守章《AM(zzz02′47″)》2019年 ※参考作品

1967年宮城県石巻市生まれ。1996年に守雅章さんと守喜章さんの双子の兄弟ユニットとして活動を開始。2010年に石巻市と東京という離れた二つの場所に生活する2人がインターネット通話サービス、スカイプを通して同時刻に数を読みあげるという試みが行われた。環境を超えて共鳴する様相に特化した作品制作だ。収録後、2人でのユニットとしての活動は途絶えるが、2018年に活動を再開。2人が扱う素材であるビデオ、写真、音楽などのメディアは「距離」の象徴でもある。

門馬美喜 MOMMA Miki

門馬美喜《千年前の川を渡る馬》2017年/パネル、和紙、墨/910×1820mm/Photo by Tsutomu Koiwa ※参考作品

門馬美喜さんは1981年、福島県生まれ。2005年より中国美術学院大学及び中央美術学院に留学。書と山水画を学び、滞在中には中国大陸縦横断をしながら各地で制作を行ってきた。相馬市へ続く道を描いた〈Route〉シリーズは東日本大震災後に相馬市と東京の2つのアトリエを行き来して描かれた作品だ。本展では、相馬野馬追に思いを寄せた作品群も出品されている。出来事に向かいあい継承していく視点を携えた門馬さんならではの対話作品となっている。

現代アートのキーワードは〈対話〉

今日、私たちの周りの「対話」はひらかれているだろうか?

コミュニケーションツールとしてのテクノロジーは私たちの生活にすっかり溶けこんでいる。一方で、震災を経て家庭や地域など共同体の結びつきがメディアで頻繁に取り上げられるようになった。誰でも身近な人との関係に悩んだ経験があるだろう。人、もの、場所、出来事、歴史…との対話を繰りかえしつつ作られた作品は、作品を見る私たちにも新たな対話をもたらしてくれるだろう。

今、ってどんな時代だろう?

小説や映画とアートとでは受け手が鑑賞に費やす時間の長さが全然違う。流行曲のリズムはどんどん速くなっていくし、文字を追うこと自体スマホ以外ではしなくなりつつある。何時間も費やして本を読むことにみんな耐えきれなくなっているのかもしれない。時間に対する感覚がシビアになっている現代人にこそ現代アートを見てほしい。ここでは、共同体の内部で行われる対話やコミュニケーションを土台としたアートが展開されている。

私は、現代アートは外国語だと思っている。英語の分からない人は英語の文章をすらすら読めないし、内容を理解するのも簡単じゃない。だからわずかに知っている単語をなんとか結びつけて、ゆっくり、たどたどしくも理解を進めていく。だから、まずは作品を見てほしい。それから作品が作られた背景を知ってもらいたい。そして、可能ならば作家が作品にこめた思いを想像してみてほしい。「わからない」なんて感想も充分な対話になる。もしかすると、そうして答えを探す行為こそがアーティストが鑑賞者に伝えたいことなのかもしれないから。

展覧会情報

『新・今日の作家展2019 対話のあとさき』
New “Artists Today” Exhibition 2019 The Ongoing Dialogue

会期:2019.9.20〜10.12
会場:横浜市民ギャラリー
住所:横浜市西区宮崎町26番地1
時間:10:00〜18:00(入場は17:30まで)
場所:横浜市民ギャラリー 展示室1/B1
料金:入場無料/会期中無休
連絡先:045-315-2828
アクセス: JR・市営地下鉄「桜木町駅」から徒歩10分。京急「日ノ出町駅」から徒歩8分
HP: 横浜市民ギャラリーホームページ

出品作家プロフィール

◆鎌田友介 KAMATA Yusuke
1984年横浜市生まれ。2013年東京藝術大学大学院美術研究科先端芸術表現専攻修了。主な個展に「半径7kmのダイアグラム」(2015年、エリスマン邸/神奈川)、「作家ドラフト2014 D Construction Atlas」(2014年、京都芸術センター)、「クリテリオム86 D Structure Atlas」(2013年、水戸芸術館/茨城)など、展覧会に「行為の編纂」(2018年、トーキョーアーツアンドスペース本郷)、「How Little You Know About Me」(2018年、国立現代美術館ソウル館/韓国)、「MOTサテライト2017秋 むすぶ風景」(2017年、清澄白河エリア他/東京)、「カエテミル」(2016年、国際芸術センター青森)など。
http://yusukekamata.com/

◆原美樹子 HARA Mikiko
1967年富山県生まれ。1990年慶應義塾大学文学部卒業。1996年東京綜合写真専門学校研究科卒業。2017年第42回木村伊兵衛写真賞受賞。近年の個展に「In the Blink of an Eye 1996-2009」(2017年、Miyako Yoshinaga Gallery/ニューヨーク)、「These are Days」(2015年、JIKKA/東京)、展覧会に「In Focus:Tokyo」(2014年、ゲティ美術館/ロサンゼルス)、「ニューアート展2009 写真の現在・過去・未来 —昭和から今日まで—」(2009年、横浜市民ギャラリー)など。写真集に、『Change』(2016年、The Gould Collection)、『These are Days』(2014年、オシリス)など。

◆守章 MORI Akira
1967年宮城県石巻市生まれ。1996年に守雅章と守喜章の双子の兄弟ユニットとして活動開始。近年の個展に「近くて 遠くて」(2014年、旧横田医院/鳥取)、「終日中継局」(2012年、代官山AITルーム/東京)など、展覧会に「Path-Artの仲間たち 富田俊明×守章 リップ・ヴァン・ウィンクルからの手紙」(2018年、釧路市立美術館/北海道)、「MOTサテライト2017秋 むすぶ風景」(2017年、清澄白河エリア他/東京)、「そらいろユートピア」(2014年、十和田市現代美術館/青森)、「MOTアニュアル2000 低温火傷」(2000年、東京都現代美術館)など。2019年「REBORN ART FESTIVAL2019」に参加。
http://akiramori.net/

◆門馬美喜 MOMMA Miki
1981年福島県相馬市生まれ。2005年東京造形大学造形学部絵画専攻領域概念コース卒業。2006年中国美術学院大学および中央美術学院に留学。主な個展に「Route 故郷/被災地に通う道」(2015年、ギャラリーなつか/東京)、展覧会に「Art Meets 06 門馬美喜|やんツー」(2019年、アーツ前橋/群馬)、「國際交流展 宮城藝術的奇異點 “Gallery TURNAROUND Exchange Exhibition 2019 Miyagi Art Singularity ~Taipei~”」(2019年、福利社 FreeS Art Space/台湾)、「コンニチハ技術トシテノ美術」(2017年、せんだいメディアテーク/宮城)、「被災地からの発信 ふくしま3.11以降を描く」(2016年、福島県立美術館)など。
https://www.mommamiki.com/

書いた人

文筆家。12歳で海外へ単身バレエ留学。University of Otagoで哲学を学び、帰国。筑波大学人文学類卒。在学中からライターをはじめ、アートや本についてのコラムを執筆する。舞踊や演劇などすべての視覚的表現を愛し、古今東西の枯れた「物語」を集める古書蒐集家でもある。古本を漁り、劇場へ行き、その間に原稿を書く。古いものばかり追いかけているせいでいつも世間から取り残されている。