住友家随一の美術愛好家が遺した「住友コレクション」とは?
江戸時代前期から泉屋という屋号で銅山事業に携わり、近代に入って事業を拡大して関西財界の代表となった住友家。
住友家の代々当主は、美術品に対する造詣が深く、長い歴史のなかで多くの名品が集い来たりました。特筆すべきは、明治後半から大正期に第15代当主を務めた住友吉左衞門友純(号は春翠)が収集した、「住友コレクション」と呼ばれる美術品の数々です。
住友春翠は、中国古代の青銅器や洋画など幅広いジャンルの美術品を収集しましたが、生涯にわたり続いたのが書画の収集です。それは、主に円山四条派、ついで狩野派が多く、琳派などの手による作品も見られバラエティに富むものでした。画題は山水・花鳥が目立ち、掛物として自邸だけでなく多くの別邸の部屋に飾られることを意識したものでした。
一部戦災で喪失したものもありますが、そうした絵画を含む春翠のコレクションは、京都の泉屋博古館に寄贈され今日に至ります。
そして現在、春翠が愛した花鳥画の優品約30点が、企画展「花と鳥の四季~住友コレクションの花鳥画」として泉屋博古館で展示されています。その中には、伊藤若冲や椿椿山(つばき ちんざん)など江戸時代に活躍した画家、そして沈南蘋(しん なんぴん)といった明・清代の中国人画家の作品も含まれます。そこから日本人画家によるもの数点を紹介しましょう。
「海棠目白図」(伊藤若冲)
タイトルのとおり、白い花を咲かせた海棠(かいどう)が右から枝を差し出し、湾曲した枝に9羽ものメジロがひしめき、まさに「目白押し」の構図です。海棠の下には幣辛夷(しでこぶし)が枝を伸ばしており、こちらも白い花を咲かせます。これらの木に花が咲くのは早春、まだ寒さの残る時期で、メジロが身を寄せ合っているのは温もりを求めてのこと。鳥好きで知られる若冲らしい作品です。
若冲が、画家としての活動に邁進し始めたのは、家業を弟に譲った40歳の時分です。本作は、完成までに10年の歳月をかけた代表的連作「動植綵絵」に着手する前後の40代前半の作品と考えられています。
「梅図屏風」(彭城百川)
やや小さめの屏風ながら六曲一双に描かれた障屏画で、絶妙な配置で墨梅が描かれています。金箔地には墨一色のみを使い、左には白梅、右には紅梅が配されています。コントラストは花だけでなく樹木にも及び、白梅は大部分を塗り残して生気あふれる幹から太い枝が空に伸びあがり、一方、紅梅の幹は朽ちかけながらも、残された生命力を枝に託し、なおも花を咲かせようとしています。
作者の彭城百川(さかき ひゃくせん)は、江戸時代中期の尾張名古屋の生まれ。京都に移り住んで、俳諧に傾倒しながら俳画や文人画も描き、日本の初期文人画を代表する画家として知られます。「梅図屏風」は逝去する数年前の作で、中国の元・明の絵画や日本の古画など広く学んだ百川の到達点を象徴するものです。
「玉堂富貴・遊蝶・藻魚図」(椿椿山)
中央の1幅には、釣り籠からあふれるほどの花が、その左には蝶が、右には魚が描かれて、3幅でワンセットの清雅な作品です。よく見ると花は、白木蓮、海棠、春蘭、牡丹、藤と、咲く季節の異なるもの。蝶や魚もそうですが、これらは富貴や長寿といったおめでたいことの象徴であり、古くから中国・日本では好まれた画題です。3幅はまったく独立したものでなく、蝶は花から舞い立ち、魚は花から水面に落ちた花弁に集まって、互いに関連したものと見ることができます。このように3幅を合わせたものは、ほかに類がなく貴重な作品といえます。
椿椿山は、1801(享和元)年に江戸で生まれ、17歳で渡辺崋山に入門。写実性あふれる肖像画や中国風の花鳥画をよくし、師匠の画風を継承しつつ、より穏和なものとし、幕末以降の関東画壇に影響を与えました。
「牡丹孔雀図」(円山応瑞)
数ある鳥の中でも、無類の美しさをたたえる孔雀。このつがいを画題とし、そばには「百花の長」牡丹が、紅・白とアクセントをこらされて絵の構図に収まっています。画材には、上質な群青、緑青、金泥をふんだんに用い、まさに豪華絢爛な大幅です。
これは円山応挙の長男である応瑞の作品です。円山家2代として、父の亡き後も多士済々の円山派を率い、京都画壇の重鎮として父の画法を次の世代へとつなぎました。本作も、応挙の技法を忠実に引き継いでいます。
江戸時代の花鳥画に対し、どことなく地味な印象をお持ちの方もいらっしゃるかもしれません。ですが、こうして一部の作品を見るだけでも、多様でダイナミックな作風があることが理解されると思います。植物と動物の命が静かに躍動するさまを、今回の展示会で感じ取ってはいかがでしょうか。
「花と鳥の四季~住友コレクションの花鳥画」 基本情報
会場: 泉屋博古館(京都市左京区鹿ヶ谷下宮ノ前町24)
電話: 075-771-6411(代表)
期間: 2019年10月26日~12月8日
時間: 10:00~17:00(入館は16:30分まで)
休館日:月曜日(ただし11月4日の祝日は開館)及び11月5日(火)
観覧料(一般):800円(青銅器館も観覧可能)
特設サイト: https://www.sen-oku.or.jp/kyoto/program/(公式サイト: https://www.sen-oku.or.jp/)