Gourmet
2019.11.29

焼きいも作りのポイントは?電子レンジでもおいしくできる?川越のさつまいも農家に聞いた調理方法!

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季節を感じる食材や料理。毎日食べている日本の食材をもっと知って楽しむ【日日是好食】。食材に思い入れのある人、こだわっている人、好き過ぎる人から独自のレシピや活用法をお聞きします。

寒い日に食べたくなる、あったかくて甘い焼きいも。スーパーや青果店でも焼きいもを売る店が増え、最近では焼きいも専門のお店も見かけるようになってきましたね。
江戸時代から続くいも農家の当主と、農場内のカフェの店主に、焼きいもをおいしく調理する方法をお聞きました。

江戸時代から愛され続ける焼きいも

焼きいもは、江戸時代から寒い時期に人気のスナックだったことをご存知でしょうか。季節の風物詩を描く浮世絵のシリーズにも焼きいもの露店が描かれています。

豊国『豊國十二ケ月』より「十二月の内 小春初雪」
国立国会図書館蔵
左の1枚に焼きいもを焼く様子が描かれている。かまどにかけた鍋の中でいもを蒸し焼きにしているよう。店の奥には山盛りのいもが!

この浮世絵に描かれた焼きいも店は素直に「焼芋」の看板を掲げていますが、「八里半」という看板も多く見られたそうです。それは、栗(くり、九里)のおいしさにはちょっと及びません、という自虐的なギャグだったとか。
やがて、「九里よりうまい十三里」という洒落が流行して「十三里」の名を掲げる店も出てきました。「九里より」の「より」は四里、九里と四里を足して十三里。栗よりも断然おいしいとの意味をこめているんですね。焼きいもの人気ぶりが焼きいも店に自信をもたらしたのでしょうか……
また、江戸から十三里ほど離れた埼玉県の川越地方がさつまいもの名産地として知られていたことも、このフレーズに掛けられています。

川越「いも街道」で、いもをおいしく食べるコツをお聞きしました

埼玉県川越地方は今もさつまいも栽培が盛んです。埼玉県三芳町の上富(かみとめ)地域には、29軒ものさつまいも農家が軒を連ねる「いも街道」があり、いもの収穫時期には街道沿いにのぼりがたって各農家の直売所がにぎわいます。

川越地方の「いも街道」沿いにある「むさし野自然農場」

「いも街道」の農家の一軒、「むさし野自然農場」は江戸時代から300年以上に渡ってさつまいもを栽培しています。2013年には農場の一画に「OIMO cafe」をオープン。農場で収穫したいもや野菜を使ったメニューを提供し、今ではこのカフェを目当てに遠方から人が押し寄せるほどの人気です。もちろん、おいしい焼きいもも出していますよ。

「むさし野自然農場」10代目のご主人武田浩太郎さん(左)と、「OIMO cafe」の三國舞さん(右)

江戸時代から愛されてきた焼きいも。焼きいもをおいしく焼くコツってあるんでしょうか? 「むさし野自然農場」の10代目当主武田浩太郎さんと、「OIMO cafe」を切り盛りする三國舞さんに聞いてみました。

いもにまつわる2つの大原則、それは……

武田さんによれば、さつまいもをおいしく食べるためには大きく2つのポイントがあるのだそうです。それは、

【1】適温を保って貯蔵すること
【2】じっくり加熱すること

この2点。ひとつずつ解説していただきます。

適温で貯蔵する

さつまいもは収穫してすぐ食べるよりも、適温を保って寝かせて熟成させてから食べるほうが旨みがぐんと増します。さつまいもを保存するための適温は15度前後。

武田:いもは寒さにすごく弱いんです。だから、寒い季節に外に出しっぱなしにしたらアウトですね。マンションの部屋なら気密性がありますから、部屋に入れてあれば大丈夫です。

「むさし野自然農場」の、さつまいも熟成の様子。エアコン完備の室内で、温度と湿度を徹底管理。キュアリングという最新の貯蔵方法も導入している。案内してくださったのは9代目のご主人!

冷蔵庫に入れるのは論外。保存の際は、通気性にも気を付けましょう。

三國:ビニールなどに入れると通気性が悪いですから、新聞紙にくるむとか段ボールに入れるとかして保存するのがいいですね。私は、買ったいもを2、3ヵ月部屋で熟成させてから食べたことがありますけれど、すごくおいしくなりましたよ!

じっくり加熱する

焼きいもは、ベータアミラーゼという成分が加熱されて糖化することで甘くなります。この作用が起きるのは70度前後の温度の時。この温度帯を長くキープすることがおいしさにつながるんです。

武田さん:高温で一気に加熱するのは向かないんです。だから、電子レンジの500wや600wのモードで短時間に調理するのはやめたほうがいいですね。

三國さん:「OIMO cafe」ではつぼ焼きいもをお出ししています。つぼ焼きはじっくり熱が回るので甘味も食感も引き出せて、おいしく仕上がります。

いもの食感を活かし甘く仕上げる、つぼ焼き

70度くらいの温度帯でじっくり火を通す、というポイントをクリアするために「OIMO cafe」が採用しているのは“つぼ焼き”。つぼ焼きは、大きなつぼの中で練炭を焚き、つぼの中につるしたさつまいもにじんわりと火を通す調理法。
新しい手法のように思ってしまいますが、つぼ焼きは昭和初期に大流行したのだそうです。

つぼ焼き用の大きなつぼ。実は、つぼ焼きいもをおいしく仕上げるには、かなり熟練した技が必要なのだとか

三國さん:つぼは、上手く使いこなせればいもをおいしく焼けるんですが、コツをつかむまでが大変なんです。とくにホクホクした食感の品種の火入れはとても難しい。触った感じとか、芯温を計ったりしながら焼き上がりを見極めています。

練炭とつぼからの遠赤外線効果でじっくりと加熱。火加減が調整できないので、通気口から風を送るなどして温度を調節する

昭和初期の大流行以降つぼ焼きが廃れてしまったのは、調理技術の複雑さが原因でしょうか。
最近増えてきた焼きいも専門店では、このつぼ焼きの手法で調理する店が多いようです。昭和初期以来の、つぼ焼きブームの再来なんですね。

「OIMO cafe」のつぼ焼きいも。いもの甘さや品種ごとの食感の個性が引き出されている

家でおいしい焼きいもを作りたい!

つぼ焼きは専門店ならではの手法ですが、家で焼きいもを作りたい場合にはどんな調理法があるのでしょうか。おすすめの方法をいくつか教えていただきました。

武田さん:ふかすのが一番いいかなと思います。どうしても電子レンジで手軽にやりたいのならば……解凍用などの低いワット数で長い時間をかけて加熱するのがいいという情報を聞いたことはあります。

三國さん:オーブンで焼くか、少し水を張った炊飯器に芋を入れて、炊飯するのと同じように加熱すればじっくり熱が入ります。

お2人のお話も参考にしながら、“適温でじっくり焼く”という原則を実現できそうないくつかの調理を試してみました。

それでも試したい電子レンジ

どうしても電子レンジを使いたいなら、と武田さんが教えてくれたやり方やネット上の情報を集めて試してみました。

水分を保持できるように湿らせたキッチンペーパーでいもをくるみ、その上からラップ。レンジ対応の容器で上げ底をして対流が良くなるようにしてみた

解凍用の200wで、120グラムくらいの小さめのいも(品種はシルクスイート)を12分加熱。
ネットなどの情報をもとに、500wで2分、200wで8分、とワット数を変えて2段階で加熱する方法も試しました。

200Wで12分(左)、500wで2分+200wで8分(右)

電子レンジで加熱したいもはどちらも、甘さは十分感じられました。
200wで12分加熱したものの方が食感が良く、水分もキープしていました。断面(写真上)を見ると、左は透明感・ネットリ感があります。右は、若干パサパサした仕上がりになってしまいました。
加熱時間はいずれも、もうちょっと検討する余地がありそうです。

噂の黒いホイル

100円ショップや量販店で見かけるようになった焼きいも用の黒いホイル。気になりますよね。熱の吸収が良いため、適度な温度帯で火がしっかり短時間で通るのだそうです。

同じ品種で、サイズもだいたい同じいもを、ふつうのアルミホイル、黒いホイルで包んで焼いてみる

同じ条件下で、一般的なホイルと黒いホイルに包んだいもを焼いてみます(品種はシルクスイート。100グラム前後のもの)。今回はガスコンロに付属している魚焼きグリルを使用。片面焼き用のものなので、片面15分焼いてひっくり返し、もう片面を15分、計30分加熱した後10分休ませました。

一般的なホイルで包んで焼いたいも(左)、黒いホイルで焼いたいも(右)

黒いホイルで包んで焼いたいもは、シルクスイート特有のトロッとネットリした仕上がりで、濃厚な甘さ。
一般的なホイルの方は、ほぼ同じサイズのいもを同じ条件下で焼いたにもかかわらず、まだ生のサクッとした状態です。黒いホイルは短時間でしっかり加熱できるんですね。

黒いホイルで包んで魚焼きグリルで焼いた「シルクスイート」。ネットリ、トローリした食感。甘さも際立つ

黒いホイルで包んで焼く調理は、トースターでも同じ効果が期待できます。タイマー付きのトースターを使った方が楽ですね。三國さんおすすめのオーブンでの調理にも使えるかもしれません(電子レンジには使えませんので注意)。

調理によって焼きいもの出来栄えに差があってびっくりです。ふかす調理、炊飯器を使った調理もまた、違う仕上がりになるのかもしれません。

いろいろな品種を食べ比べる楽しみ

焼きいも人気を背景に、いもの品種もさまざまに発展しています。「むさし野自然農場」の直売所では、常に数種類のさつまいもを販売。「OIMO cafe」のつぼ焼きいもも、季節によって違う品種の焼きいもが楽しめますよ。

都内の店舗「OIMO cafe zenpukuji」でも、「むさし野自然農場」産のいもを使ったつぼ焼きいもが食べられます。ハイシーズンには、いもの販売も行っています。

「OIMO cafe zenpukuji」の店主、大和田一樹さん

いろんな焼き方を試してみてわかるのは、さつまいもは調理によって全く味が変わる食材なのだということ。かなり奥が深い。
自宅で焼きいもを作るのも楽しいですが、プロが焼いたいものおいしさは別格。ブーム再来のつぼ焼きいもを、埼玉や都内の「OIMO cafe」でぜひ味わってみてください。

いもの品種やトレンドについて取材した記事はこちらです

店舗情報

「OIMO cafe」
住所:埼玉県入間郡三芳町上富287
営業時間:11:00~18:00
定休日:月曜日、火曜日
公式サイト

「OIMO cafe zenpukuji」
住所:東京都杉並区善福寺2-24-8
営業時間:10:00~17:00
定休日:月曜日、火曜日
公式サイト