新宿から小田急線に乗って、急行で約15分。清川泰次記念ギャラリーは、成城学園前駅の閑静な住宅街に、周囲の景色と溶け込むように静かに佇んでいます。
ここは、美術に造詣が深い人でも、全く美術のことがわからない人でも楽しめるギャラリーです。私はここで新しい美術の概念に出会うことができました。
そんな清川泰次記念ギャラリーと、成城という街の魅力についてご紹介します。
日常に芸術を。ギャラリーオリジナルグッズ
清川泰次とギャラリーの紹介の前に、まずはギャラリーで購入できるオリジナルグッズをご紹介しましょう。というのも、私を含め、いきなり絵画や彫刻などの芸術に触れるのは難しいと感じる方も多いので、まずは身近なグッズから芸術に触れてほしいと思ったからです。
清川泰次は、食器やクッション、スリッパ、傘などの日常に使うアイテムをデザインしていました。自身の芸術が人々の生活に取り入れられていることを、清川はとても嬉しく感じていたようです。
こちらはその中のひとつ、カップ&ソーサーです。シンプルながら特徴的なデザインは、どんなテイストのご家庭にも馴染むことでしょう。
こちらはネックレス、カフスピンなどの装飾品です。個性的なデザインですが小物なので、主張しすぎずさりげないおしゃれのポイントになります。
こちらは水彩画のような美しいデザインのハンカチ。自分用にはもちろん、ちょっとしたギフトにもぴったりですね。
どの商品も主張しすぎることなく、日常にさりげなく取り入れられるものです。毎日気軽に使えるものから、芸術に触れる生活を楽しんでみてはいかがでしょう。
清川泰次について
清川泰次は、1919年に生まれ2000年にその生涯を閉じた画家です。2019年に生誕100周年を迎えました。
静岡県浜松市で生まれ、慶應義塾大学を卒業後、画家としての活動を開始します。子どもの頃から絵が得意で、慶應義塾大学在学中に独学で絵を描き始めたそうです。また、この頃には写真部に所属し、写真撮影にも熱心に取り組んでいました。
自身の芸術を「無対象純粋芸術」という言葉で言い表していた清川は、なにものにも捉われない独自の芸術を探求し、絵画や彫刻、生活用品など数多くの作品を手がけました。「無対象純粋芸術」へ行きついた理由のひとつには、清川が素晴らしい文化であると著書で語っている、仏教の思想に触れたことも影響しているのではと思われます。しかし、清川は自身の芸術が何かの影響を受けることはないとも語っているため、これは私の想像にすぎません。
ギャラリーと展示について
清川泰次記念ギャラリーは、もとは清川氏のアトリエ兼住居として使われていた建物を、ご遺族が世田谷区に寄贈したもので、2003年に開館しました。現在清川泰次記念ギャラリーでは、2019年10月26日(土)~2020年3月15日(日)まで、展覧会「清川泰次 色・線・形の探求とデザインへの展開」を開催しています。さて、ギャラリーではどのような世界が待ち受けているのでしょうか。
あたたかいお茶が用意されたギャラリー
私は、ギャラリーを訪れるまで彼の作品についてこう思っていました。
「これは、何やら難しい現代美術というものではないか・・・」と。
時代の三歩先を行っていると言われる、現代アートと呼ばれる作品は、その時代や作者の背景を知らなければ何やらサッパリわからないものが多く、たとえ背景を知ったとしても、素人にはまるで理解できないこともあります。
昔から絵画が好きで、美術館や美術に関する記事を書くことがある私にとっても現代アートは難しく感じられるものです。ドキドキしながら「いざ出陣!」という思いでギャラリーに飛び込みました。
「ほらやっぱり、難しい作品が並んでいる・・・」
ずらりと飾られた作品はどれも美しいものでした。でもその美しさを、どう受け止めていいのか、その時はまだわからなかったのです。
絵画からふっと目を移すと、ギャラリーの隣には小さな部屋がありました。窓からはみかんの木が望め、あたたかい日差しが差し込む穏やかな空間です。
そしてここには、自由に飲めるお茶のセットが用意されています。飲食厳禁な美術館が多い中、ソファで寛ぎながら温かいお茶が飲めるなんて、なんと心落ち着く美術館でしょう。成城の静かな住宅街に、小鳥のさえずりが優しく響きます。清川泰次がデザインしたカバーがかけられたソファに座ってのんびり外を眺めていると、出陣を果たして強張っていた私の心は少しずつほぐれてきました。
この部屋では、傘やスリッパなど、清川泰次がデザインした日用品が展示されています。そこには笑顔で来館者を迎える、清川泰次の気配が感じられるようでした。
著書から生き生きとした芸術観に触れる
ギャラリーには、清川泰次に関する本が多数置かれています。めくってみると、彼の芸術観が書かれています。
そこにはこうありました。
私の50年のアトリエ生活は
毎日が新しい生きているよろこびと感動で一杯だ清川泰次画集『平面と立体』より
彼は純粋に芸術を楽しみながら、ここにある作品を生み出していたのです。それに対して私はどうでしょう。難しそうだ、私にはまだまだ芸術の知識が少ない、私には芸術なんてわからない・・・美術館を訪れるのに、そんなネガティブな気持ちに支配され、芸術本来の「楽しむ」ことを忘れてしまっていたのです。
著書を読み終え、目が覚めたような新鮮な気持ちで再びギャラリーに戻ります。そこには最初に見た時に感じた美しさに加え、清川泰次が創作活動に心を踊らせ、そして生活へ取り入れたことで親しみやすくなった、あたたかな世界が私を出迎えてくれました。
美術館にお茶が用意されているのも、あたたかな木漏れ日が差し込む居間のような展示室も、床に当時のまま絵具が付着しているのも、そんな清川泰次の優しい世界観を創り出すひとつとなっているのでしょう。
「無対象純粋芸術」とは?
清川泰次の掲げている、「無対象純粋芸術」とはどのような芸術観なのでしょう。著書『無対象純粋芸術とは何か』にはこう書かれていました。
何かにたよって
描いてゆく
ということから
一切離れて
心を全くの純粋な自由の中に置き
描きたい線
使いたい色
画したい面
それらの構成で
未だかつて
見たこともない美が
生まれてゆく
私の
無対象純粋芸術『芸術とは何か』より
私たちが絵を描くとき、「上手に描こう」「本物そっくりに描きたい」などといった、何らかの感情が湧いてきます。清川泰次のいう「無対象純粋芸術」であれば、そんな難しい思いに囚われることなく、誰でも自由に絵を楽しむことができます。
それはまるで、生まれて初めてクレヨンを握った赤ちゃんのよう。そんな純粋な気持ちで、自由に絵を楽しめたら、どんなに心地よいことでしょう・・・。
清川泰次の作品を「現代アートっぽい」と括ってしまい、心を強張らせていた自分を恥じつつ、純粋に「自由な絵を描いてみたい」と思いながらギャラリーを後にしました。
営業時間・アクセス
住所:東京都世田谷区成城2-22-17
TEL:03-3416-1202
アクセス:小田急線 「成城学園前」駅 南口から徒歩3分
開館時間:午前10時~午後6時(入館は午後5時30分まで)
休館日:毎週月曜日(ただし祝・休日と重なった場合は開館、翌平日休館)
展示替期間、年末・年始(12月29日から1月3日まで)
収蔵品展示室観覧料:大人200円、高校・大学生150円、小学・中学生100円、65歳以上及び障害者の方100円(団体割引料金あり)
公式サイト:世田谷美術館分館 清川泰次記念ギャラリー
ギャラリーとあわせて楽しむ成城の街
実は私も、成城の街の住人です。ずっと住んでいるわけではなく、子どもが生まれてから引っ越してきました。成城は「これぞゴージャス」「これぞ名店」と肩肘張る雰囲気ではなく、さりげなく上質なひとときを過ごせるお店が多く、ゆったりした気持ちで過ごせる街です。最後は、ギャラリーに行ったらあわせて楽しんでいただきたい、私が感じた成城という街の魅力をご紹介します。
カフェが多い
成城の駅徒歩3分圏内には、パッと思いつくだけでも10軒以上カフェがあります(ファストフード店やレストランを除いても)。昭和レトロな喫茶店や和風なカフェ、有名ケーキ店のラグジュアリーな喫茶室、人気チェーン店など種類もさまざま。ギャラリーを訪ねた後は、おしゃれなカフェでゆっくり余韻を楽しんでいってください。
マダム向けのブティックが多い
カフェに次いで多いのが、いわゆるマダム向けのブティックです。オーナー独自のセンスで選ばれたセレクトショップがメインで、他ではお目にかかれないハイセンスなアイテムが手に入ります。
テイストもさまざまなので、ぜひ成城界隈のお店巡りもお楽しみください。
成城石井のワイン専門店
成城は、上質な食料品が手に入ることで人気の高い「成城石井」創業の地です。駅近くに成城石井のワインとチーズ専門店があるので、ワイン好きの方にはとてもおすすめです。
ちょっとリッチに過ごせる街
成城というと、高級住宅街のイメージがつきものです。もちろんそのようなエリアもありますが、駅前にはファストフードからフランス料理まで、価格帯もジャンルもさまざまな飲食店や、こだわりの和・洋スイーツ店がひしめいています。
でもせっかく成城を訪れたのなら、ちょっとだけリッチに過ごしてみるのがおすすめです。フレンチや日本料理のランチを楽しんだり、お土産に有名ケーキ店のスイーツを購入したり・・・。駅近くにお店が多数ありますので、清川泰次記念ギャラリーを訪れた際はぜひ立ち寄ってみてください。