Culture
2019.12.16

大ヒットコスメ!ウテナの「化粧下地油」の技術が、歌舞伎の化粧に生きていたって本当?

この記事を書いた人

2019年も残りわずか。令和の年を迎え、ラグビーワールドカップでの連獅子披露、そして新作歌舞伎「風の谷のナウシカ」上演など、歌舞伎も話題になりました。
歌舞伎の舞台を支える大事な道具のひとつが「お化粧」。隈取や白塗り、歌舞伎を観たことがなくても、皆さんきっとご存じのはず。
メイクでキレイな肌を作るには土台が大切ですよね。これは歌舞伎でも同じ!真っ白な肌を作るのに必要なのが「下地油」と呼ばれる油です。
実は今、老舗化粧品会社「ウテナ」がこの下地油を作っているのだそうです!なんと五代目中村雀右衛門さんとの共同開発という本格派。

「ウテナ」と言えば、まとめ髪やおくれ毛を簡単にまとめられる「マトメージュ」や、海外からの人気も高い「贅沢ジュレのシートマスク」など、我々にも身近な商品を多数販売しています。そんなウテナがどうして歌舞伎の化粧品を?「下地油」ってどういうものなの?ウテナ本社に直撃してお話を聞いてきました!

老舗化粧品会社・ウテナが下地油に取り組んだワケ

ロビーには自社製品がずらり!

ウテナ本社は東京都世田谷区南烏山にあります。会社のはじまりはなんと1923年、大正12年のことです!初代社長が美白液「ウテナ」を作成。その名は社名へ引き継がれました。1927年、昭和2年に南烏山に本社を移転、以来90年以上、この地で化粧品開発に取り組んでいます。最寄りのバス停名は「ウテナ前」、会社の歴史の長さを物語っていました。

今回お話を伺ったのは開発を担当された皆さん。そもそも開発のきっかけは何だったのでしょうか?

開発担当:弊社の役員が、五代目中村雀右衛門さんと元々交流がありまして。歌舞伎の化粧品は、市販の舞台用を使う場合も多いですが、こだわられる方はご自分で特注されている方も多いのですね。先代雀右衛門さんもとあるメーカーにオーダーされていたんだそうです。

――化粧品をオーダーメイドする、ってなかなかスゴイ……。それほどまでにこだわる世界なのですね。化粧油ってそもそもどのように使うのですか?

開発担当:高貴な役柄のお姫様は、顔を真っ白に塗られますよね。その白粉を塗る前に使うのが「化粧油」です。肌にまんべんなく塗り、土台となります。

当代中村雀右衛門丈

開発担当:2012年に先代雀右衛門、つまり当代のお父様が亡くなられて、どんな下地を使っているのか、不明のままになってしまったそうで。「ストックが切れたらもう終わり」という状態になってしまい、弊社役員に下地油を持ち込まれたのが開発のきっかけです。

失われたレシピを再現!?開発までの道のり

――かなり水際のところだったのですね。同じものを作ってほしいというオーダーだったのですか?

開発担当:はい。まずは先代がお使いだった下地油の成分分析から始めました。下地油の主な成分は「モクロウ」と言いまして、ハゼの木から採れる「ロウ」です。和ろうそくの原料でもあります。

――ろうそく!???

開発担当:あとは、髪の毛のケアでおなじみの椿油などが入っていますね。元々固形タイプのものが多く、溶かして使います。役者さんによってはジャーに詰め替えたり、切り出して使ったり、様々な方法があったようです。

――「この化粧油はジャーに入っていますよね。普通の保湿クリームのような……。

開発担当:使いやすさにこだわってこの形になっています。実は、当時持ち込まれた化粧油はかなり成分が古くなっていたんですよ。

――ええ、放置されていたってことですか?

開発担当:わざとなんだそうです。時間を置くことで、油がなじみ、肌に密着するようになる。化粧の保ちがよくなるのだそうです。とはいえ化粧品メーカーとしては成分を古くして使ってください!とは言えないので(笑)新品で、そのクオリティを出すことが必要でした。

――舞台を観ていると、皆さん汗をたくさんかかれていますよね。

開発担当:そう、だからお化粧を崩さないこと。汗に耐えきって、保ちが良いことが絶対条件でした。サンプルを作っては、雀右衛門さんやお弟子さんにお試しいただきます。フィードバックをもらい、改良を重ねる。もちろん研究所でも、ガラスプレートにサンプルを塗り、水にひたして落ち方などを確かめるなど実験しましたよ。

難題だらけ!道筋はあの大ヒット自社製品!?

――まさに二人三脚で開発に取り組まれていたんですね。調合データはなく、現物のみでのスタートだったそうですし、これはかなりの難題だったのでは……。

開発担当:はい、何度も改良しました。ある時、密着度を高めるためには、油に接着剤を混ぜてみてはどうかとアイデアが出ました。

――接着剤?ふすまのりとか、そういう感じですか?

開発担当:実は、うちに「マトメージュ」という製品があり、その技術を応用できないかと思ったんです。

――「おくれ毛が簡単にまとまる」と人気のあの商品ですね!

開発担当:この商品の大元はいわゆる「びんつけ油」なのです。そもそも、化粧油とは、全く油分が入っていない白粉を肌に密着させるためのもの。マトメージュを参考にして「接着成分」をプラスしてみたところ、肌、白粉、どちらにも密着する製品を作りだすことに成功しました。
モクロウ、椿油、接着成分の3つのバランスがカギで、ひとつでも配合比を変えるとダメなんです。

雀右衛門さんのように昼の部や夜の部で複数の演目に出られる場合、毎回お化粧はすべて落とすのだそうです。下地油がべっとりと肌に残ると、時間も手間もかかります。おかげさまでこの製品は「肌に密着するのに、クレンジングでは落としやすい」とお褒めの言葉をいただきました。

――ちなみに、どのように使うのですか?普段も使えますか?

開発担当:たまに雀右衛門さんのファンの方からもそういうお問い合わせ頂きますが(笑)普段使いには向いていません。もちろん、白粉を使う場合にはぜひお使いください。

まず、ジャーの中で適量を取り、ジャーの中で練ります。そのためにフチいっぱいまで入れず、少し分量にゆとりを持たせているんですよ。
充分に練ったら、両手に伸ばして温めます。ほわっとした熱を感じたら、塗るタイミングです。

――化粧道具などを使うわけではないのですね。

開発担当:この下地油に関しては皆さん手で塗られますね。ムラがあると、その部分に白粉が全くつかないので、とにかく均一に塗ること。雀右衛門さんも、指先で細かいところまで塗っていらっしゃいますよ。

ふと、先ほど伺った「一般の化粧には向いていない」という言葉が気になりました。処方も特別で、原材料も「モクロウ」という珍しいもの。「化粧品」としての流通量は絶対的に少ないなんて、正直利益は出ていないのでは?

和化粧の土台である下地油開発は日本伝統文化の土台でもあった!

正直に質問してみたところ、苦笑しながらも頷いてらっしゃいました。この製品は歌舞伎という、伝統芸能を応援するためのものなのだと。「モクロウ」のもとであるハゼの木は、ロウの使用量が減るに従い、年々生産量が減っています。また、高いところに生える木なので、伐採には高いはしごを使う必要があり、生産者の高齢化・跡継ぎがいないことも問題に。
しかしこのモクロウなしでは化粧油は作れず、これがなければ女形の化粧はできません。歌舞伎だけでなく、日本舞踊の舞台や、舞妓さん、芸妓さんのお化粧も出来ないのです。また、お相撲さんもまげを結う時に使う「びんつけ油」にもモクロウが使われています。つまり、モクロウが途絶えれば日本の伝統文化も同時に途絶えてしまう!
最近は木を育てることから始めるなど、新たな取り組みも始まっているようです。80グラムの化粧油から底知れぬ奥深さが詰まっていて、取材しながら大変驚きました。

歌舞伎役者から世界へ!下地油がもっと羽ばたく日に向かって

試行錯誤を繰り返しできたウテナ特製化粧油。中村雀右衛門さんはもちろん、一門の京屋の歌舞伎役者さん、そして、クチコミでさまざまなお家の歌舞伎役者さん、舞踊家さんなどにも広まっているそうです。あの方も使っているのかなあ、なんて想像しながら舞台を観るのも楽しそうです!

実は白粉の白さというのは日本独自のもので、ほかの化粧品では出せないのだとか。近年、海外の劇団などからも注目が集まっていて、問い合わせも増えてきているのだそうです。
白粉の美が世界中にとどろく日も近いのかもしれませんね!

株式会社ウテナ 公式HP

崩れにくい!【歌舞伎メイクの方法】