Culture
2019.12.17

和のお香とは?初心者向けの選び方を紹介!お寺のいい匂いの正体は「沈香」だった

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お寺に行くと、「何だかホッとする」「気持ちが落ち着く」と感じた経験はありませんか。そう感じるのにはいろんな理由がありますが、そのひとつとして挙げられるのが「お香」の香り。

香りによる癒し効果は科学的にも認められ、東西問わずいろいろな香りに触れることができますが、そのなかでもお香の和の香りは、私たち日本人にとっては特別な香りのような気がします。

とは言っても、知っているようで知らないことが多い、お香。そこで今回は、香司の石濱栞さんにお話を伺いました。

今年もあと少しですが、新しい年を落ち着いた気持ちで迎えるためのアイテムとして「お香」を取り入れてみるのもいいかもしれません!

お寺のいい香りは「沈香」だった

香司の石濱栞さんを訪ねて、名古屋市中村区の願隆寺さんへ。栞さんはこちらの寺嫁でもあります。


栞さんは、和歌山県の高野山でお香に魅了され、香りのことを本格的に勉強し「香司」の資格を取得。現在は、お香づくりやその魅力を全国各地で伝えています。

お寺の門をくぐると、さっそくいい香り。

「この香りは『沈香(じんこう)』。私の大好きな香りのひとつで、お寺ではよく使われているんですよ。」

家康も愛した「沈香」の十徳

沈香は、一言で言えば「鎮静効果の期待できる香り」。栞さんによれば、それまで怒ってた方がこの香りを焚いてしばらくすると、怒りがおさまったというエピソードもあるそうです。

鎮静効果だけでなく、沈香には古くから「十徳」あると言われています。

1.感格鬼神 感覚が研ぎ澄まされる

2.清淨心身 身も心も清らかにする

3.能除汚穢 よく穢(けが)れを取り除く

4.能覺睡眠 眠気を覚ます

5.静中成友 静けさのなかに安らぎを得る

6.塵裏偸閑 忙しいときにも心を和ませる

7.多而不厭 多くあっても邪魔にならない

8.寡而為足 少なくても十分香りを放つ

9.久蔵不朽 長い年月保存しておいても朽ちない

10.常用無障 常用しても無害

戦国武将の徳川家康も愛したと言われる沈香。心身ともに大きなエネルギーを必要とする戦に向けて、沈香の力を借りて心身を整えていたのかもしれません。

ちなみに沈香の原料は、ジンチョウゲ科の常緑高木のなかにある樹脂が固まってできたもの。原料となるまでに20~60年もの歳月が必要であることや、自然のものなのでその年によって採取できたりできなかったりと、天然の沈香は大変貴重なものなのだとか。

お香は「薬」として伝来した

お香はもともと、「香薬(こうやく)」として仏教と一緒に日本に伝わってきました。

現在一般に販売されているお香は、「フレグランス系」と「香木系」という大きく2タイプに分かれます。栞さんが皆さんに伝えているのは和の香りがする「香木系」のタイプ。お香教室の参加者の方からは、「天然原料で作られたお香を焚いていたら、気分や体調が良くなった」という声が多く寄せられているそうです。

またお香には「悪縁を寄せ付けない力がある」と栞さんが教えてくれました。お寺にいると「良縁の引き寄せ方」をよく聞かれるそうですが、良い香りには悪いものが近づけないだけでなく「良縁を運んできてくれる」と昔から言われているそうです。実際に、栞さん自身もお香に出会ってからどんどん良縁に恵まれていったのだとか。

初心者向けの「お香の選び方」

そんな素晴らしいパワーで古くから人々を魅了してきたお香。ぜひとも生活に取り入れたいですよね!栞さんに、初心者向けのお香の選び方のポイントを尋ねてみました。

「お香の主原料としてよく使われるのは、沈香と白檀。通常は複数の種類を混ぜることによって香りが良くなっていくことが多いのに対して、この2種類は単体で使ってもとてもいい香りがするんですよ。」

「沈香はお寺の香りが好きな方、白檀は華やかな香りが好きな方に向いているかもしれません」

「お香専門店」などで自分の好みに合うものを探してみてください。そしてお香が手に入ったら、風通しのよい場所でお香を焚いてみましょう。できれば、ろうそくに火を灯しそこから火をいただくようにするのがベスト。

簡単・簡便なものに慣れている現代人にとっては一見面倒に思われるかもしれませんが、こうした所作をしていると、栞さんはいつも「お香を焚く前から、心が落ち着いてくる」のを感じるのだそう。

お香のなかには「文香」や「匂い袋」などの火を使わないタイプもあります。出先で香りを楽しみたい時や育児中にリフレッシュしたい時などは、こうしたものを利用するのもおすすめ。

新年にも。厄除けの香守「訶梨勒(かりろく)」

願隆寺で栞さんが毎月開催している「お寺の嫁の手作りお香講座」では、11月12月は「訶梨勒」を制作しています。毎年満席になるほどの、人気のあるテーマなのだそう。

訶梨勒は昔から霊力があると言われる、新年や慶事の席などに飾られる袋物のこと。茶席などでもよく使われています。古くから薬用として利用されてきた「訶子の実」と12種類(うるう年は13種類)の香木や香原料を袋に納め、縁起の良い結びが施されています。

叶(かのう)結び、菊結び、国(くに)結び、総角(あげまき)結び、稲穂結びの順に結び、最後にもう一度小さい総角結びをする。結びとは、生命が産まれてくること。栞さんは「自分の力ではなく、ご神仏に結んでいただくことをイメージしながら結んでください」と伝えている。

訶梨勒は、市販品などを購入することもできますが「心を込めて手作りすることに意味がある」と栞さんは語ります。実際に、お寺に相談に来られた方に訶梨勒を作って差し上げたところ、「子宝に恵まれた」「子どもの引きこもりが直った」といった変化もあったのだとか。

2019年10月に栞さんの初の著書「ゆらゆらじんわりお香ぐらし」が出版。この本のなかに訶梨勒の詳しい作り方も掲載されています。お香を楽しむ暮らしがギュッと詰まった一冊。より詳しく知りたいという方はぜひご覧くださいね。

見えないものに感謝して生きる

とても穏やかな栞さんですが、「お香に出会うまではイライラすることも多かった」。お香に日常的に触れるようになって感情の起伏が少なくなり、自分の内面が変化し、みるみるうちに良縁に恵まれるようになったのだとか。

そんな自身の経験から、お香の魅力をより多くの方に味わってもらいたいと思い、現在の活動をしています。

教室などに参加される方のなかには「よく分からないけど何となく来た」という方も多いそうです。実際にお香に触れ、お香を楽しむうちにその魅力に惚れ込んでしまう方や、「なぜここに来たのかが分かった」という方も。

お香に秘められた、人を惹きつける不思議な魅力。そこに何だかホッと安心してしまう、栞さんのやさしい雰囲気が重なって、お香講座は多くの人を魅了しているのだと感じました。

「お香を通して、みなさんに仏様とのご縁を結んでもらいたなと思っています。お香は消えてしまったら、目に見えない。その意味では、お香は見えるものと見えないものをつなぐもの。そして目に見えないものに祈ることは、感性を育むことにつながるように感じています。」

目には見えない、大きな力に身をゆだねて。慌ただしい時こそお香を焚いて、静かに自分と向き合う時間を過ごしてみていかがでしょうか。

<参考>
◆願隆寺
住所:愛知県名古屋市中村区鳥森町6-142
公式サイト:https://ganryuji.or.jp/
お香講座のほかにも、「お寺で精進モーニング」などお寺が身近に感じられるイベントなども好評開催中。詳しくはHPをご覧ください。

書いた人

バックパッカー時代に世界35カ国を旅したことがきっかけで、日本文化に関心を持つ。大学卒業後、まちづくりの仕事に10年以上関わるなかで食の大切さを再確認し、「養生ふうど」を立ち上げる。現在は、郷土料理をのこす・つくる・伝える活動をしている。好奇心が旺盛だが、おっちょこちょい。主な資格は、国際薬膳師と登録ランドスケープアーキテクト(RLA)。https://yojofudo.com/