Culture
2019.12.30

落語の正月興行は初心者にもおすすめ!どこで楽しめるの?見どころは?1月は寄席へいこう!

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ゆく年くる年、来年こそは、大きな福を呼び寄せたい!それなら寄席に行って笑い初めがオススメです。正月の寄席はとても賑やか。初めてのお客様も多いので、落語デビューするにはうってつけです。

笑って福が来る魅惑のパワースポット「笑門来福」なら寄席におまかせ。寄席に行けない人も、おうちで聴ける笑門来福のおめでたい落語の演目を紹介します。

正月興行が稼ぎどき!元旦からウェルカムな寄席

寄席は通常年末を除いて年中無休。なんと、寄席は元旦から仕事始めなのです。

正月興行は、「正月初席」「吉例正月興行」などと言われ、東京の定席(鈴本演芸場、末廣亭、浅草演芸ホール、池袋演芸場)では1月1日から10日までをいい、この期間は1日3部構成となります。定席以外の寄席では3日または5日までの間を初席として特別興行としているところが多いようです。

一番混むのは、なんといっても元旦。笑い初めで新春を迎えようとする落語好きの常連はもちろん、落語を始めて聴く人、帰省したからついでに、などなどたくさんの人で溢れかえります。

寄席も落語家も、この初席が稼ぎどき。どんどんお客を取り込みます。寄席によってはお酒を用意しているところも。楽屋にもお酒が運ばれ、高座に上がった落語家がすでに酔っ払ってしまってぐだぐだ。そんな無礼講な様子に大笑いすることも、初席のお楽しみなのです。

元旦の寄席は顔見世興行 売れっ子落語家は本当に顔だけ

元旦は、落語家にとっても仕事始め。五代目圓楽一門会では、元旦の朝に集まり新年の挨拶と乾杯をしてから始まります。

五代目圓楽が生きていた頃の逸話ですが、お酒が飲めなかった圓楽は正月だけ酒に口をつけていたとのこと。新年最初の大師匠の言葉が乾杯後の「まずいな」だったとか。
昔は師匠の家で大晦日からそのまま元旦を迎えたり、朝早くに師匠の家で雑煮なりを食べてから寄席に向かったりだったようです。楽松は「うちのところはなぜかカレーだった」と申しております。

両国寄席の場合、楽屋には酒や御節が運ばれており、お客様にも振る舞い酒として樽か一升瓶が置いてあります。初席3日間は「顔見世興行」として、一門のほぼ全員が高座に上がります。時間も三部に分かれおり11時頃から開始です。

朝から大概飲んでいるので、酔ったまま高座にあがる落語家は数知れず。大勢が高座にあがるため持ち時間は1人5分から10分程度。枕を振ったら終わってしまう尺(時間)なので、噺をかけても小噺程度です。
それでも客席は笑いでいっぱい。楽屋からも笑い声(?)が聞こえてきます。ご祝儀の頻度が高いのも、やはり初席・元旦ならではです。

両国寄席以外の他の定席では振る舞い酒があったりなかったりなどありますが、「顔見世興行」は同じ。売れっ子の落語家ともなると、稼ぎどきですからどの寄席からも引っ張りだこです。一席3分ほどであがり他の寄席のはしご。師走が終わっても落語家は走ってます。
今でこそありませんが、昭和全盛期の頃の売れっ子は座布団に座る間もなく、高座を通り抜けただけの落語家もいたそうです。

寄席の色物も縁起物!太神楽に注目

お正月に大人気といえば、やはり太神楽。初席ではこの太神楽を目当ての来る客も多いようです。

というのは、太神楽はもともと神様に奉納する曲芸。特に有名な曲芸は、海老一 染之助・染太郎の「いつもより余計にまわっております!」でおなじみ、和傘の上で毬を回す「傘回し」ではないでしょうか。
傘回しの他にも土瓶回しや五階茶碗など芸はいろいろ。福を呼ぶ曲芸をみながら、正月気分を存分に味わうことができます。

両国寄席では、獅子舞も登場します。客席を回ってくれるので、ぜひご祝儀を用意してお渡ししましょう。「ありがとうございまーーーす」と頭を噛んでくれます。これで一年無病息災です。

おうちで寄席気分 おめでたい落語で笑門来福

さて、寄席が近くにないという方は、まったりお家でおめでたい落語の演目を聴いてみては。家でなら、どんな格好でもおかまいなし。酒とつまみを用意して、こたつでぬくぬく落語を聴けるなんて、最高の贅沢です。

金の大黒

大家に集められた貧乏長屋の店子たち。店賃の催促かと思っていたら、大家の息子が金の大黒を掘り出したからお祝いだという。人の金で酒が飲めるんならとワイワイやっていたら、金の大黒様がとことこ歩き出した。「ああ、大黒様、うるさいからお逃げになっちまうんですか」「いいや、あんまり楽しそうだから恵比寿も連れて来る」

解説:大黒様が布袋様まで連れてきてくれるという、文句なしにめでたい噺。サゲもめでたくスッキリと粋です。
立川談志の高座では、店子たちのバカバカしいやりとりがテンポよく演じられています。

三井の大黒

神田八丁堀。普請をみながら「江戸の大工は仕事がまずい」とブツクサ言っている男がいる。文句を言われた男衆に連れられてきた件の男が大工と聞き、棟梁の政五郎はしばらく居候をさせてやることにした。「ぽんしゅう」と名前をつけられ下働きをさせられる男。口ばかり達者かと思ったが、なかなかすごい腕を持っているようだ。
しかし、その腕を江戸では活かすことができないだろうと、政五郎は縁日に売る彫り物をしたらどうかと提案する。すると男は何かに気づいたように屋根裏にこもって何事か一心不乱に掘り出した。こもりっきりだった男が降りてきて、「湯屋にいきたい」と出て行ったので政五郎は屋根裏に登ってみた。

そこにあったのは大黒様。かけてあった布を取ると、光があたった大黒様が政五郎を見上げてニヤリと笑った。生きているようなその様子に思わず後ずさりしたところへ、「こちらに甚五郎先生はいるか」と三井から使いがやってきた。聞くと、依頼していた大黒様ができあがったからここに取りに来いと言われたらしい。
ぽんしゅうは飛騨の名工・左甚五郎だったのだ。

解説:大黒様つながりで左甚五郎の噺。全てかけると1時間超かかる長講のため、寄席でかけられることはあまりありません。甚五郎を題材にした演目の多くは、刑事コロンボや水戸黄門のような「なんだかうだつの上がらないやつだと思ったらすごいデキる人物でみんなが驚く」というのがお約束。どうも日本人はこのパターンが昔から大好きなようです。三代目桂三木助の高座が絶品。

御神酒徳利

馬喰町の旅籠。通い番頭が家宝の御神酒徳利を盗まれないようにと水瓶の中にしまっておいたら、家中でなくなったと大騒ぎ。今さら水瓶の中に隠したとも言えない番頭は、女房の入れ知恵でそろばん占いをでっちあげ、占いで御神酒徳利を見つけ出す。
これを見ていた大阪の豪商の支配人。ぜひ大阪にきて主人の娘の病気を占って欲しいという。占いなぞできるはずのない番頭。なんとか断ろうとするも言いくるめられ旅立つこととなってしまう。途中立ち寄ったのは神奈川宿の定宿。そこでも何やらもめているようで…。

解説:三代目桂三木助と六代目三遊亭圓生が、大阪から来た五代目金原亭馬生から教わった噺。柳家の型もあり、こちらは番頭が八百屋の主人となっています。
通い番頭がついた嘘が、めぐりめぐってみんなを幸せにするという、都合の良いわらしべ長者的な噺なのですが、本当の悪人が出てこないハッピーなおめでたい内容です。ぜひ三代目桂三木助と六代目三遊亭圓生の聴き比べを。

元旦は全てが新しくなる日です。お屠蘇で健康を祈願し、お雑煮でご利益をいただいたら、落語で笑って厄落とし。
新しい年を笑って幸せに過ごせるよう、常連さんも初めてさんも初席・正月興行に出かけてみてはいかがでしょう。

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噺家の女房が語る落語案内帖

書いた人

北海道出身。新聞社関連会社に勤務。噺家・三遊亭楽松のおかみ。落語をはじめとした伝統芸能、江戸文化、陶芸、着物、陶芸などに関わる人々のドキュメンタリーやコラムなどを執筆。趣味は古書集め。赤いきつね派でたけのこの里派。